ジングルベルは、祝福に鳴り響く│先生×幼稚園児。リトル嵐の土方君。

ジングルベル、ジングルベル鈴が鳴る。
今日は愉しいクリスマス。




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ツリーの飾りつけを終えて何とか振り返ると、子供達は、

今度は妙先生の指導の元ケーキ作りをしている。
可愛らしいエプロンと三角巾、いきいきと掻き混ぜるボールの中身が床を
汚すのをはぁぁ、と大きな溜息で持って眺める。


肩を竦めて空を見上げれば、薄闇になっていた空からは雪が降り始めていた。
(お、……)
今年初めての雪。雪掻き等で大変になるだろうが、それでも降る姿は綺麗に感じるのだった。
12月に入ったら途端に忙しくなった。
いつも忙しいことに加えて行事や年末年始の準備が加わるのだ。
いつも12月に入る前に片付ければいいものを12月になってから気づくと言う有様。
気付いてももう遅いのだが。
毎日が急かされている気がするそんな一年の締めくくりに相応しい大きな行事が控えている。
クリスマス会では成果を発揮し、サンタの登場でプレゼントを配りケーキを食べることになっている。
それが終わればあとは大掃除と年始の門松の準備だ、と其処まで考えて
形になったケーキを焼こうとオーブンに皆で入れるところに遭遇する。




「さぁ、後は焼くだけよ。火は強めにね」
「ちがーうっ!強めだけどコレじゃ焼けちゃうからァアア!!」
有害物質になるのを未然で防げ、何とかケーキはいい匂いを立て始める。
ケーキはクリスマス会の本番には父兄も同伴して作るため準備段階というわけだ。
ケーキミックスもあるし、生クリームは分量を間違えなければ形になるし
今はいいものが沢山ある。
ケーキが焼けるまで昼寝の時間だから、と

布団の敷かれた場所へと子供達を誘導すれば、キュとエプロンを掴む黒髪の子供の姿。




「…多串、くん…?」
「おおぐしじゃないもん、まちがえるなぁっ」
「間違えてないもん、ワザとだもーん」
そういって軽く片目を閉じてやれば、ムッとしたのか脛を蹴られた。
幼稚園児にしては破壊力のある蹴りに痛っと喚けばそのまま走っていってしまう小さな背中に
ククク、と低い笑みを零してしまうのだった。

思い思いの寝相で寝転がる園児たちの頭上で舞台用にわっか作りをする。
同僚の妙が近付いてきて、ふふふと笑った。




「最近は、どうですか?」
嫌われているかも、と相談めいたことをしたことがあったが、実は蓋を開けてみれば何とやらだった。
好きなものを書いていいといって渡した画用紙に書かれた俺の顔。
なんだかねェ、と微笑み、咽喉を震わせる。




「相変わらず分かりにくいんですけどねェ」
「あら、先生分かりにくい方がお好きではありませんでしたか?」
クスクスと笑う彼女の顔を驚いて見返すと、それから園児たちに紛れて寝息を立てる土方を見下ろした。


女の勘は鋭い。


一応誤魔化して、再びわっか作りに専念する。


眠りから覚めた子供達の目の前にはスポンジケーキが焼き上がり、いい匂いを漂わせていた。
起き上がった途端プレイルームを飛び出す子供達の元気のよさにすっころぶなよーと声を掛けておく。
それにつられて走り出す子供とまだ眠っている子供に肩を竦めながら、一人ずつ起こしていく。




「高杉さま〜、起きてくださいよ。でも、こんな風に寝てる高杉様も素敵ッス」
「ぅう〜ん」
眠る高杉の横に座るまた子はうっとりとその寝顔を見ている。
容赦なく、高杉の肩を揺り動かして起こしてやるとむにゃむにゃ言いながら起き上がって俺の顔を見た。




「しろやしゃ…?」
「寝ぼけんなって、早くいかねェとケーキ食われるぞ?」
「は、おれしゃまのケーキ!また子、早く行っておれしゃまの分もうばってこい」
「は、はいっス」
慌てて走り出すまた子に、高杉も寝巻きも着替えぬまま去っていくのを見詰め肩を竦める。
さて、後起きていないのは…と足元を探すと布団に埋もれ、土方が寝ていた。
いつもは鈴の音で起きるほど優等生なのに今日はどうしたんだろう、と思いながら
肩を揺する。




「オラ、起きろ。ケーキ食うぞ?」
「…ぎんせんせ…ぇ、…」
むくり、と起き上がった土方は大きな眸に涙を沢山溜めていた。
グスグス、と鼻を啜り、その大きな目から雫が零れ落ちる。
それを袖で拭ってやりながら、「どーしたァ?」と首を傾ける。
変な夢でも見たかァ、と抱きしめてやればグスグスと鼻を鳴らしながらもギュッと
胸へとしがみ付いてきた。




「何だ、しっこかァ?大丈夫、誰にも言わないで片付けてやっから」
「…ちが、…うもんっ、サンタさんにお願い、ごとしたらそれはだめ、って、…ひっく」
しゃっくり上げながらたどたどしく伝える背を撫でながら、相槌を打つ。
自我が形成される前、小学校に上がる前子供は実に様々な夢を見る。
新しいものや珍しいもの、まさに育っていく自我が見せる夢は時に怖いものもあるようだ。
昨日、サンタクロースへの手紙というのを皆に書かせた。
もちろん文字はまだ書けないので、絵が掛けるような大きな紙だ。
それにサンタさんに欲しいものを書くと持ってきてくれるよ、と説明しながら
書きあがったものを連絡帳と共に親に手渡す。
するとサンタクロースへと自動的に手紙が届く寸法だった。
土方は隣の近藤と見せ合いながらマヨラZのイラストを描いていたと思ったが…。
泣きながら話すたどたどしい口調で内容を拾えばどうやらサンタに難題をいい、

それを断られたらしいのだが。
どんなけち臭いサンタだろう、と思いながら、ぽんぽんと背を叩きながら「大丈夫、大丈夫」と呟く。
次第に落ち着いてしゃっくり上げながらもうんうんと頷く土方に、頃合を見て顔を覗き込んだ。




「で、サンタに何をお願いしたの?」
マヨラZぐらいでこんなに泣くとは思えず、何か別のものをお願いしたに違いなかった。
ビク、と身体を揺らすが「ん?」と笑顔で首を傾ければ、下を向いて小さく呟いた。




「せ、んせい…」
「んん?」
「ぎ、んせんせいをおよめさんに欲しいって言ったの、…ぉ・・・そ、したらだ、めって…」
思わず目眩がして目元を押さえて何とか倒れるのを防ぐ。
とりあえずサンタも困っただろうということは想像できる。
しかも嫁ってなァと思いながらその発想にくくく、と咽喉を震わせる。
ヒク、と咽喉を震わせながら、ズボンの裾をぎゅうと握るその手を開かせると、その手を軽く握る。




「あのなァ、そういうことはせんせいにお願いするんだっつーの」
「…せ、んせいに?」
いつでも子供たちの成長には驚かされてばかりだ。
自分たちが考えもつかないことで毎日の成長を見えてしまうのだ。
それは、昨日はなかった発想、昨日は話せなかった言葉が話せるようになる。


そんな一つ一つが成長の証で。


土方に言わせると、大好き同士は結婚するものだということらしい。
可愛いなァ、と思いながらこのまま歪まず育ってくれるといいなとさえ思ってしまうのだ。
しかし人間は歪まずに真っ直ぐというのは難しい。
社会という荒波はそんなに単純なものではないから。
再び涙の溜まった瞳を覗き込み、布団の上に座ると視線を同じにする。
ぐしぐし、と泣き出しそうに咽喉が震えるのを掌を伸ばして頭を撫でてやる。




「せんせーをなァ、お嫁さんにするならァ、リッチな車に乗って、せんせーを養えるような男になれよ」
まずはそんなに泣くんじゃねェ、といって涙を再び袖で乱暴に拭ってやれば
りっち?と首を傾けながらもこくんと頷く。
よーし、と頭を撫でてやり、立ち上がるとその手を引く。




「後は、…10年ずっと先生のことが好きだったら…、俺の残りの人生、十四郎にやるよ」
そういって唇を吊り上げれば甘い香りが立ち上る部屋へと足を向ける。


土方はパチパチと驚いたように大きな瞳を瞬きしていたが、その腕に抱きついた。




「ぅお…ッ」
「…だいすき、ぎんせんせー」
そのまま飛びつかれ反動で転びそうになるのを支えようと腕を回すと、

魔王が笑顔で仁王立ちしていた。




「銀先生?それとも幼児嗜好野郎とお呼びすれば宜しいかしら?」
「ぎゃああああ、ナニその情け容赦のない呼び方ァアア!」


慌てて走り出す俺の手に確りと結ばれた小さな手。







この手がいつか振り解かれるのを自分は待っているのだろうか。
それとも、変わらない未来を望んでる?








それは、皆に幸せというプレゼントを配るサンタクロースにも分からない。
クリスマスツリーの星がキラキラと光り、そんな二人を見守っていた。











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笑い声を 雪にまけば
明るいひかりの 花になるよ
















The miracle of Christmas comes over even to whom.





Merry Christmas!!