Who drinks the purity at midnight?【前編】(18禁)| デリヘル×リーマン

※これはデリヘル銀さんと真面目社会人の土方君のお話です。








短い発信音の後に、明るい男の声で店名が告げられる。


「はいはーい。お待たせいたしました〜drinker of midnightで御座います。
当店では、お客様のニーズの応え、様々な快楽と欲望…」




このビギナー向けの口上はすでに何十回も聞いている。
遮る様に「もういい、銀は?」と聞けば口上がぴたりと止まり、何かメモをめくる様な音、
そして、明るい声。


「今日はまだ来てないですけど、すぐご入用ですか〜?」


多少くだけた様な声に、常連ならではの親しみやすさなのか、それともこれが本来の癖なのか。
すぐに、と伝え、ホテルと会員番号を伝え、男はホテルの椅子に坐り込んだ。
大きく息を吐きながら、掌で顔を覆えばずいぶん疲れを貯め込んでいるのか50代の自分の顔に
指で感じる皺がいくつも走っていた。

疲れているのに、抗えない。そんな麻薬のような男に出会ってからというもの
自分などどうにかなってしまったかのようだった。
もちろん仕事はしているし、自分には家庭があるので社会破綻者になるわけにはいかない。
それでも支配される快楽の重みに自分はその指を神経質そうに震わせるのだった。










**










夜の帳の目を開けるそんな都会の夜をするりと抜けるように歩くのは心地よかった。
耳元に当てた携帯電話の相手からの受け答えにもいい加減飽きたが、それでも暑さから解放された
空気が気持ちいいため機嫌はそれほど悪くない。
細身のジーンズに、長Tシャツ。重ね着をした内側のシャツの赤が透けて見える。


それだけでは人の目には止まらないが、彼の特徴は一瞬で覚えられそうな銀色の天パの
頭にあった。アクセサリーをつけていない手首に巻かれたのは高そうな腕時計と革のバングル。





「…ん?へぇ、今そんな格好になってるんだ?いやらしいねェ、…でもまだ触ったら一晩中
玩具挿れたままにするよォ?」






くすくすと笑みを掃くには物騒すぎる会話だが、それを気にする人もいない。
抗議の声が聞こえるが、自分の言葉に乱れた呼気は熱気になって伝わる。






「輪ゴムでチンポ縛ってさァ、キツクね。俺が言うように弄って。…輪ゴムない?わけねェじゃん。
そこ仕事場でしょ?…出来るだけ足大きく広げてよ」










トーンを落とさない声音と車の音に、男の声は震えながらも従うらしく椅子の音が
しっかり聞こえた。
気づけば店の前まで来ていたため、その雑居ビルの一角に足を進めていく。


電波に乗せて相手を思い通りにする。
それを携帯調教というらしい。





携帯を使って相手を意のままに操るのは根気がいるが、一度身についてしまえば
こんな楽なことはない。相手の身体に触れることもせず、仕事の報酬が貰えるからだ。
携帯を握りしめたままEVで上がっていくと、目的の階にて
マンションを改造した後の事務所のような所を引き開ければ、部屋の中央よりサングラスがトレードマークの長谷川さんが「おう」といった様子で声を掛けてくる。





他には、今日は誰もいなかった。







「銀さん待ってた、待ってた。これ、今日のオシゴトね」





銀は”drinker of midnight ”で働いている。言わば男性専用の男性デリヘルだ。
銀というのは呼び名で本来は坂田銀時と言い、都内に住んでいるごく一般的な青年である。
年は少したち過ぎているが、それなりに顧客を増やしている。
メモに書かれているのは常連の顧客名と新規の印の入った名前。










「あー、またあの変態爺…、いつものとこね。あ。ねぇねぇ、長谷川さん、タクシーで行って良い?」











渡されたメモにそう独り言を付け加えると、覚えたというようにメモを受け取らず
媚びるように甘い声を出した。
長谷川は腰掛け店長で、派遣された時はここが何の店か知らなかったらしい。
未だに10代のデリヘル達にも「マダオ」呼ばわりされてる少々情けない店長ではある。
なので、銀の言葉に「う」と詰まった後、タクシーチケットを引っぱり出した。




「優しいねェ、…じゃ、お仕事頑張ってきまーす」










部屋に置いてあったジェラルミンの鞄を掴むとくるりと背を向ける。
その間にも携帯は鳴り続ける。






麻薬のように絡みつく彼の言葉に誰もが逆らえない。
それが話題に話題を呼んで、現在はリピーター数で言えば、店でトップの成績である。




その称号を手に入れたかったわけではない。
ただついて回るその呪いのような言葉が一人で、自分も周りも踊らされている。
そのうわついた気持ちを表現する様に、タクシーの窓から月が見えた。








月が奇麗な日は犯罪が起こりやすいと聞くが、それは自分の心のように浮ついているに相違なかった。

自分はいつも月を手に入らないものとして投影していた。
手を伸ばせば届きそうなのに、決して手に入らないもの。


それは歪んだ自分の思いを受け止めてくる人かもしれなかった。月のように乾いて。











今日も俺は勝手にそれを待っていた。








**











「あー…疲れた…、」




土方はデスクに就業の時刻を告げる鐘と共に倒れ込んだ。
最近まともに寝れてない。意外に雑務の多い仕事ゆえに神経もすり減るし
体力も奪われるのだ。なのに身体は眠れないと悲鳴上げている。

それでも寝れないのは暑さだけのせいではないだろう。




そんな彼を背後からぽんと叩く人がいた。





「よ、お疲れさん。トシ、大分疲れてるみたいだなァ?」







その声に振り返れば、近藤がいつもと同じようににこやかに立っている。
相変わらずバイタリティのある人だ、自分が情けなくなる。




顔を上げて立ち上がりながら。


「…近藤さん。お疲れ様でした。あ…、いや、明日休みなんでちゃんとし・・」




「トシ、なんか痩せたんじゃね?ちゃんとってなァ…、よし。俺が良いところ紹介してやる」






心配げに眉を寄せた近藤に覗きこまれて少したじろげば、名刺入れを取り出して
その中から薄ピンク色の名刺を抜き出して、差し出してきた。




「…風俗?…近藤さん、俺ァそういうとこ苦手だって…」




「まっまっ、たまにはいいんじゃねェの?スッキリ出来るしな」







そう言って掌に名刺を握らせると、晴れやかな笑顔で帰って行った。
きっと自分も現をぬかしているスナック嬢のところへまた行くのだろうと。







その名刺をもう一度見た後、そっとポケットにしまい込んだった。


土方十四郎は、自分にも周りにも厳しいが、実直で真面目なので信頼が厚い。
容姿が整っているため社内の女性職員からは熱い視線が絶えないが、
特定の相手はいない。都内に一人暮らしをしているごく一般的な青年である。




今日はホテルにでも泊まってゆっくりしていくつもりだった。


スッキリするのも悪くないかとタクシーに乗って月を見上げた。













空にくっきり浮かぶ月を何げなく見ていた。
月は精錬でもういなくなってしまった人を思い出す。触れられないからこそ奇麗なままの
思いと一緒に。





昇華出来ない思いは胸の奥で燻ったまま
吐き出す機会を失って、濁って溜まった。






















運命が月を見上げる二人を引き寄せる。


それは望んでいなくても、必然である。


雨が必ず止むように、夜が必ず落ちるように、…月が空に昇る様に。

























Next lesson...?