チョコっと微熱ダーク│W教師/32歳×45歳。ついったで流れてきたネタ、です。



手を伸ばして、大きな声で笑って、飛びついて抱きしめて。
それが子どもだったら好きなだけやれたのに。
子供の時間はあっという間に過ぎ去ってしまう。かといってガキに戻りたいわけじゃないけれど。



「…、先生、坂田先生、……目を開けたまま寝るな、アホッ」
「…ッ、っあたッ」

俺の頭の上にお見舞いされた拳に声をあげて見上げれば、いつの間にか傍に来ていたのは土方先生だった。

年の差、十二。俺はやっと土方先生の年齢に追いついたけど、先生はそのはるか向こうに進んでしまった。

銀色の眼鏡フレームに紺灰のベスト、ワイシャツもネクタイも折り目正しい、清廉な美人。
しかし、その実、礼儀に厳しく授業中雑談でもしようものなら正確無比なチョークが額に向かって飛んでくる。
争い事は好かないと言いながら、喧嘩っ早いのもこの人の魅力だったりする。
俺はこの学校に生徒として入った十二年前、土方先生はすでに土方先生だった。
綺麗で、喧嘩っ早くて、怖いけど情に脆くてちょっと天然が入っている、俺は先生の事が一瞬で好きになった。
それからというもの高校生と言う性欲の塊みたいな、勢いだけはある盛りの付いた獣のように先生を追っかけまわした。
どんどん知れば知るほど、好きになった。始めは邪険にしていたが、(むしろ蹴り飛ばされたり拳をお見舞いされたりした)鬱陶しがられながらも傍にいた。
押して押して押しまくった結果、この人を落とすことが出来たのだけど、本当は落せていないかもしれない。

そんなことを思ってしまうばかりで。


「ったく、卒業式の打ち合わせしてる間もぼーっとしやがって」
「…見てたの?」
「見ていたんですか?、だろーが、向かいの席だったから嫌でも視線に入るんだ」

国語の教師のくせに敬語使え、敬語と言いながら隣に座りこむ様子は普段と変わらないが、ここでは土方先生と坂田先生だ。
ここは旧校舎の屋上。新校舎の屋上とは違って裏庭に面している為、下からは見えにくい。
俺が学生だったときにも、喫煙所は定員オーバーでなァ、そんなことを言いながら菓子パンを食べる俺の傍でライターに火をつけた。
端正な顔立ちで、ニヤリと唇を曲げて笑うと壮絶に綺麗でエロいと思う。だけど、それを今言えばこの白衣に消えない靴跡を付けられること必至なので言葉を飲みこんでおいた。
飲みかけの紙パックを足元に置いて、煙草を吸う土方先生を見上げる。


するとさっき、この校舎の真下、裏庭で行われていたことを思い出してしまうのだ。

『先生、好きです。これ受け取ってください』

そういって女子生徒に差し出された赤いリボンのついた平らな箱。赤いリボンのごとく頬を赤く染めた女子生徒の表情は裏庭へ続く渡り廊下にいた俺には見えなかった。
しかし、こちらに背を向けた白いワイシャツにベストの姿は、土方先生だった。
思わず見たくなくて方向転換したから分からなかった。あの箱を土方先生は受け取ったのだろうか。


今日は折しも聖バレンタインデー。チョコレートを渡して、愛の告白をする日である。
今年は日曜日だったけれど、自主勉強や部活動のために登校してくる生徒も多くいるため、あちらこちらでそんな風景を目の当たりにした。
だから、土方先生の目の前に立っていた女子生徒を見た途端、またか、と思ったのも事実だ。
そうしたら見覚えのある背中で、息が止まりそうになった。先生が告白されるなんてよくある事。
きっと今まで何十回もあった光景に違いない。それなのに、呼吸が苦しいのはどうしてなんだろう。
あんなふうに自分を偽らず、告白できていた時は良かった。
勢いだけで先生に好きだと言って、押していたばかりの頃とは違って、今は年だけ重ねてしまった。
しがらみと言う名の年を。

見上げたままぎこちなく視線を逸らせる俺に、土方先生は眉間に皺を寄せる。勘の鋭い先生は、いつも俺の隠し事など暴いてしまう。
いつものように軽口を叩いてしまったら良かったのに、「チョコレート貰ったの??羨ましい、コノコノー」みたいに。

それなのにいつもは良く回る口が何も紡げない。絶対変に思われる、そう思いながらも何も話せないでいると、「立て、坂田」と低く命令口調で話されて思わず立ち上がってしまった。

すると正面には先生の顔。視線の強さは変わらない。確かに目尻に皺が少し増えたけど、背丈も同じ位で止まってしまったし、そうするとまともにぶつかってしまうわけで。

逸らすことも逃げることも許さないといった、そんな強さで俺の横の金網に手を伸ばされ退路も塞がれてしまう。

あれ、これ、今流行の壁ドンじゃね?とか、いや、これ金網だから金網ドンかもしれないとかそんな思考は消し去ってしまった。



やたら甘い唇に唇を塞がれてしまったから。


「ん、…」

漏れる吐息は、互いの咥内に消えていく。やたらとろりと絡み付く舌先の味はチョコレート味。
唾液と絡み合って喉奥に落ちていくのを感じながら夢中になり、熱と甘さに貪る様に舌を絡めると苦しそうに喘いだ土方先生は掴んだ金網をカシャカシャと音を立てて揺らす。



暫く甘く絡み付かせていた唇は、ふいに鳴ったチャイムで解けてしまった。


互いに息を少し上げて、互いの吐息が触れるほど近くで見つめ返せば、ふっと細められた土方先生の眸に再び魅入られてしまえばにやりと、濡れた唇が弧を描いた。

「ごちゃごちゃ考えてんじゃねーぞ、…クソガキが」

目の前にいるのに考えすぎなんだよ、テメーは、そんな風に呟きながら金網より手を外し背を向けて歩き出す土方先生に縫い付けられたように動けずにいると振り返らず告げられた、言葉。

「早く帰るぞ、駄犬が」
「う、うんッ!」

良い子にしてたら、もっと褒美をやるよ、そんな風に告げる土方先生の視線が結構マジだったので、全裸土下座で何とかなるだろうか、とふと遠くを見るしかなかったが。


自宅に戻ったら、湯銭に掛けられぼこぼこと泡の立つチョコレートを用意されて悲鳴を上げることになるとは夢にも思わなかった。




手を伸ばして、大きな声で笑って、飛びついて抱きしめて。
子供でも大人でも、大好きなら迷いなくやろう。
ただ、常識の範囲内で。

ついったで、見かけた三十路の銀八先生と壮年のオジサマの土方先生の話です。
エロいのに続きます…(ぇ)