芽吹く春光│虎牛。中学生同士の初めての恋の導入話。オフラインで本になりました。

※オフィシャルのマスコット銀さん(トラ)×土方君(牛)の話です。
 干支のマスコットなのですが、今回は未成年の二人にしてみました。

※いつもお世話になっておりますほのか様のお誕生日に贈らせて頂いたものです。















この世界は食べられるものと食べられないもので出来ている。
まだ牙の生えていないころ、そう言ったら髪の長い先生は苦笑した。
それから優しい声でこう言った。


"確かに、食べれるものと食べられないものの二つで出来ているね、銀時はなかなか賢い”


そう言って撫でる大きな手が嬉しくて、陽だまりの中で笑った。
それは暖かくて幸せで…少し切ない想い出。







**




「…銀時、…ぎーんときッ」
「ん、…あ?」
ゆさゆさと布団を揺すられ、美味しそうな…もとい同居人が顔を出した。
眠りから急速に目覚めさせられた俺は、朝日に照らされる部屋で布団から身体を起こした。

森の奥にある虎の住処である小屋に、牛が一緒に住み始めたのは一年ほど前。
捕食者と家畜である牛の同居はやはり奇妙なもので、

森を住処にしている動物は首を傾げたものだったが
虎が非常食として牧場から牛を浚ってきたに違いない、という言葉で締められている。
それしか推測のしようがなかったから。


しかし、前半部分は確かに当たっていたが、非常食としてではなかった。
初めは非常食として浚ってきたに違いないが、情が湧いてしまい逃がそうとした。
そしたら相手は浚われてきたというのに意地を張って逃げないのだ。
もやはこれは互いの意地のぶつかり合いだと思う他はない。
しかし意地の張り合いも一年が過ぎれば立派な同居と思う他はなく、牧場からも毎日のように
十四郎の友達は遊びに来るし、俺の知り合いも十四郎を認識しているから襲わない。
猪の高杉だけは、何処か高飛車な態度でやってくるのだが、あれはただ人見知りだからピリピリしているだけだろうと
ズラに分析されて怒っていた。
そんな愉快な仲間たちに囲まれ、一年が越え、後二度春を迎えるとシーズンだ、と感じる。
それは誰に教わるでもない本能の感覚で、育っていく体と心のバランスを計る。
見境なく、周りのものを襲ってしまうと効いたあのシーズンがこの身の内のリミットを伝える。
鼓動が秒針の音のように聞こえ、ぎゅっとその身体を布団の中で縮こまらせた。
しかし、それを知ってか知らずか自分が草食動物だということも忘れテリトリーである部屋にもずかずか入ってくる。
そうして意識もない自分を起こそうとするのだから怖いもの知らずというか。
(っていうか何もしらねーんだろーな…)
十四郎の友人達も気のいい奴らばかりだった。
だから何も説明してない、としてもおかしくはないだろう。
何も知らないまま食らってやれば良かったのかなァと思うこともある。
しかし、自分の腹にふにふにと頬を擦り付けてくる十四郎に何ともいえない感情が湧き上がって来る気がして目を閉じた。




「…なんか嫌な夢でも見たのか?」
向き合わせで飯を食っている最中、草をマヨネーズ塗れにした十四郎はそう聞いて俺を覗き込む。
甘いキャラメルを口にほおり込む俺は首を傾げる。




「…目に嫌なものなら今見せられまくってるけど?」
「マヨネーズは万能な食いもんだろーが、じゃなくて…、目が覚めたとき泣いてた」
「…………、…」
フォークを置いて顔を俯かせる十四郎は、何か迷っている様子で口を空振りさせてから
悪ィ、と謝った。
それに目を細めながら夢で見た昔の思い出を思い出していた。
今日みたいにもう直ぐ春で、冬とは思えない暖かな日差しが降り注いでいるときだった。
何の心配もなくて、暖かくていい匂いがしてずっとこの日が続けばいいなんて思っていた。
しかしもうあの時にまた一人にされることは既に決まっていたのかもしれない。
運命とは過酷だ、とズラも辰馬も高杉もそういってた。
悪夢よりも現実の方がよっぽど辛い、そう言った。
そうしてまた虎である自分は一人になった。
肉食獣たるもの一頭で生活してなんぼだ、気楽でいいねと嘯いていたその心を一頭の牛が看破したのだ。




「後でつれて行きたいところあるんだけど、」
早く食おうぜ、といって牛を促すと、何か言いたげだったが頷いてフォークを動かしていた。





自分はほんの小さなときに本当の親から捨てられたらしい。
まァ虎は我が子を崖から突き落とすって言うしな、と思いながら特に恨んでもいなかった。
広い世界にたった一人。
それがどんなことを示すか分かってもいなかった。
ただ腹が減っていた、美味しいものを食べたとき美味しいといっても誰も返事がなかった、…ただそれだけで。
何処へ行っても何処へ行こうとも誰にも咎められない、それは自由という名の孤独。
それに気付かせてくれたのは、きっと。
雪が解けて草や土が顔を覗かせている、そこをさくさくと踏みながら森の奥、少し開けたところにある草原へと出た。
日差しは温かいがまだ風が冷たく感じるので、自然と寄り添うことになるが、特に警戒もされていないのか逃げない。
草原の真ん中には花の蕾があり、それが春だと勘違いしているようで思わず立ち止まると、自然横で歩いていた十四郎も立ち止まる。




「…まだ春でもないのに気が早いなァ」
「最近暖かいからな、…やっと草も美味しくなる」
草を踏みながらその場に座る俺に、向かいに十四郎も座ると「ここか?」と首を傾けられる。
天空の光が落ちてくるような森の奥の静かな草原。
僅かに空を見上げると夏のように強い日差しではないが、春へと向かうその日差しが目に刺さるようで思わず瞬いた。




「そう、…此処の木の陰で俺は昔一人でいたんだ」
「…先生に拾われたって話しか?」
その言葉に、うんと頷いて指を指す、あの時は大きな木の下でなんて思っていたけれど、それは子供の目線だったからだと気付いた。
確かに大きな木ではあるけれど、それは森の中心に立つ樫の木の方がもっとずっと大きい。
ただそこに座って空が広く開けていくのを感じていた。
餌には困らなかった。
木の根や木の実は周りに豊富にあったから。
でもただ一人ぼっちでそこにいただけだったのだ。
それが何を意味するのかさえも分からないままに。





その時だった、牛が俺の背に腕を回してきたのは。

正面からしがみ付くように背丈の変わらない十四郎は俺に腕を回す。
その腕が暖かくて暫し思考を固まらせると、どうしたというように背中を撫でてやった。




「どうもこうもねェ、我慢強いだけの虎を慰めてやってるだけだ」
その言葉に目を瞬けばク、と咽喉を震わせた。
それから此方からもその柔らかい毛を撫でてやると、牛の首のカウベルがカラコロと賑やかな音を立てる。
どちらからともなく唇を合わせると、胸に何か温かいものが広がっていくようで、幸せだけど何処か苦しい。


そんな気持ちにさせられてしまうのは何故?
もうじき成獣になって、来年にはシーズンを迎えるだろう。
柔らかい牛の唇を舌で舐めるとくすぐったいのか腕の中で少し震える耳が見えて目を細める。


シーズンを迎える前に、覚悟を決めねーと。


そんなことを静かに思いながらも、唇の温かさと柔らかさに次第に溺れて行くのだった。
















**




この世界は食べられるものと食べられないものの二つで出来ている。
そういって笑った自分に髪の長い先生は微笑みながら視線を向けた。
その優しげな視線は永遠に失われてしまったけれど。


視線が言わんとした言葉を伝えている。







温かい日差しの中、より添うように隣で寝息を立てている。
そんな存在が自分にはいる、それだけで。


(食べられるものと食べられないもの以外に…食べちゃダメな存在?)
二分化した世界に一つだけ出来た特別なもの。
黄金色に輝く毛並みはふかふかで、お腹も空いていなくて温かいのに何処か切ない。


その根源を知る頃には、二頭の獣はいつしか大人になっている。




それは逆らうことの出来ない時の流れと共にやってくるのだった。
























In two simple world, you belong to neither.

虎牛で可愛い感じの、というリクエストだったのですがエロしか書けない私には試練でした(はは)
この続きもリクエストいただいたら(笑)書こうかなと思ってます、気薄なかんじですいません〜。