月の犬(擬人化)│原作銀土。金土ベースの犬×警察官の話。獣姦ではない、つもり。

*金時(ゴールデンレトリーバー/犬)×十四郎(警察官)です。 






話すことは出来ないし、何ができるわけでもない。
それでも傍にいるだけで心が癒される、そんな存在。
自分のことが一番好きでいてくれて、従順である。

名を呼べばいつまでも傍にいてくれる。
それは。




**




扉を開ければ、いつものように其処に金色の毛並みをふさふさとさせて一匹の犬がお座りをして待っている。





「金時、ただいま」
「ウォン」
集合住宅ゆえに、おりこうにも声を押さえ尻尾は最大限に振る。
そんな姿が可愛く、撫でてやると鼻を擦りつけて来た。


ゴールデンレトリーバーの金時は、公園の片隅に捨てられていたのを拾った。
今より身体は貧弱で毛並みも悪く、所々薄汚れていた。
そして人に対して酷く臆病になっており、手を伸ばせば威嚇し大きな声で吼えたのだった。
何か人間にされたのは明らかだった。
何とか病院まで連れて行くと、内臓を酷く痛めており、所々に火傷の跡もあった。
そんな状態で人をもう一度好きになることは出来ない、と医師は首を振った。
傷は日々回復していくが、見舞いに来た俺を見る目は変わらず怯えたような目だった。
威嚇して吼えることはなかったが、食事も取らず傷は回復しているのに衰えていくようだった。
大きな金色の身体を丸めて此方を見る視線に、医者すらも首を振っていた。
『後はこの子の生きるって気力だけなんだがね』
つまりは生きたい、食べたいという気持ちを引き出すということだ。
毎日通って俺は、金時に話しかけた。
話すことは大学でのことや友人のこと、家族のこと。
犬相手に何を話しているんだろうな、と呆れながらも此方に視線こそは向けないが耳をぴくぴくさせて
聞いている気配が可愛らしかった。
言葉が分かればいいのにな、なんて思ったこともある。
そうして怯えた眼をした金時は俺の家に貰われて来ることになったのだ。
まだ子供とは言え大きくなる犬種であるし、信頼の置ける人に貰われていったほうが幸せだと医者に言われたからだ。
人をもう一度好きになる確立はうんと少ないけれど、それでも可愛がって欲しいと。
なんか押し付けられただけじゃねーかと思っても、押し付けられて無碍には出来なかった。
集合住宅とは言え、家族が残してくれた部屋は一人では広い。
両親は他界し、他兄弟は遠くに住んでいるため大学生にしては大きな家が残されたのだ。
成人するまでは、と一人未成年だった自分に家を残してくれた家族には感謝するけれど、一人は寂しいといえなかった。
というよりも、言わせてもらえなかった。
言えば皆に迷惑が掛かると考えたから。
それが高校生の時だった。
もう高校生といえば大人の部類に入るだろうが子離れしない両親と年の離れた弟を可愛がる兄弟のせいで
中々の甘えたに育ってしまったのだ。
(まァ別に甘えてねーけどなっ)


そんな時、捨てられて怯えていた金時がどうしても他人事だとは思えなかった。





「此処が今日からお前の家だ」
「…、…ウォン」
返事をするように吠えた金時の頭を撫でると、足を拭いて玄関から上がった。
その時、二人同時にお腹が鳴った。
金時は気付いていない振りをしてとことこと部屋の中へと躊躇いがちに入っていくが、
俺は鳴った腹を摩りながら呟いた。





「…まずはメシ、だな」
肩を竦め、警戒しながら色んな所の匂いを嗅ぎながら歩いている一匹のゴールデンレトリバーの
背中を追いながら飯の準備をした。勿論今日からは二人の。(正確には一人と一匹の、だが)
それに何かくすぐったいような気持ちになりながら、それを誤魔化すように息を吐き出した。








それからというもの、金時を中心に生活は変わった。
今まで生き物を飼った事がなかったから、手探りにハウツー本を買ったり、
餌は何がいいかペットショップに通ったりした。
今までの自分では考えられないことだった。
いつも両親に甘え、兄弟に助けられていた自分でも頼って来る存在が愛しくなり、
流石に止められた同じベッドで寝るまでになった。
始めは警戒していた金時だったが、段々俺に慣れて一定の距離を保ちながらも
傍にいるようになったし、名を呼ぶと反応するようになっていった。
躾にも根気よく付いてきていた。
大きい犬は散歩も沢山行かないといけないから、とペットショップでアドバイスを貰った
その日にリードを買ってきたが、始めは引き摺られて大変だった。





「ちょ、…待て…ッ、き、ん…ッ」
名前を呼ぼうとするものの、あまりの速さに剣道を続けてきた自慢の脚力が
歯が立たないことを知って驚いた。
しかし、何とかアドバイスやハウツー本の助けを借りて隣で歩くことが出来た時も
感動したもんだ。
金時は少し早足に隣を歩く俺を見上げてハ、ハ、とリズミカルに息を吐いた。





「よーし、いい子だ。金時」
そういってリードを持っていない方の手で撫でてやると、金時は更にスピードを落として
俺に歩調を合わせるようにした。
人好きのする優しげな金色の眼、人と歩調をあわせることの出来る金時。
その金時が、人を怖がるまでにされた事を思うと胸が痛む。
この春より、自分は警察官になった。
あまり金時との時間は取れないが、取れる時は金時と思いっきり遊ぶ。
それから法の難しさを知った。
金時のように犬に明らかに危害を加えたと分かっても器物損壊と同等に扱われる。
命があるのに、それはおかしなことだった。
また、行方不明になったとしても警察は捜すことは出来ない。
金時は家の中にいる犬であるが、それでも目を離したスキに玄関から顔を出していた。
警察に持ち込まれる行方不明のペット数、でも警察では取り扱ってくれないからきっとこれの何倍も
いなくなっているに違いない。
命のある存在なのに物と同じに扱われる法のおかしさに眉を潜めた。
警察官になってからも法律の勉強は多岐に渡って存在する。





家に帰ってきて全書を眺める俺に金時はゆっくり近付いて近くで身体を丸めた。
その身体を触ってやりながら、机のスタンドを消して立ち上がった。





「…寝るか、金時」
「ワン」
応えるように鳴く金時は立ち上がり部屋を横切っていく俺に付いてくる、そんな存在に危害を加えた人間を許せないと思った。
もふもふ、とその尻尾を振りながらベッドに上がる俺の足元で丸くなり、俺が呼ぶとその横に身体を寄せる。
この遠慮深さが人間に植え付けられたものなのだろうか。








身体に手を伸ばすと、その毛深くて金色の身体に顔を埋めようとして、感触が変わったのに気付いた。
つるつるとしている、と思った。それに跳ね起きて横を見やれば…。





「………ッ!な、…誰だ・・・ッ!?お前ッ!」
今まで金時が寝ていただろう場所に一人の男が寝ていた。
しかも全裸という状態に目を瞬かせながら大きい声を出せば、眠そうにその男は欠伸を零しながら身体を起こした。





「ふ、あぁ…、ん?何だよ、十四郎…、そんな顔して?」
「って言うか俺の名前、…どうして…ッ、金時、は……?」
ハッとしてベッドを見るも愛犬の姿はなく、代わりに金髪天パの男がいるだけだ。
そのくるくると髪を跳ねさせながらぼんやり俺の方を見やる男に混乱しながらも何とか状況を掴もうとするが無理で。








その上、その男はとんでもない爆弾を投下してきたのだった。





「…ナニ言ってんの〜、目の前にいるじゃん」
「……………、……は?」
「だから、俺が金時でしょーが。十四郎が名前付けてくれた…って、あれ?どうして俺の言葉、十四郎に通じるの?」
首を傾けて、カーテンの引かれていない隙間に映り込む自分の姿に「アレェエエエ!?」と男が悲鳴を上げるのが一瞬後。




月のない夜に、星が瞬いた空の下。
とにかく何かが始まった予感がした。





とりあえず、寝ようと混乱する男をほっといて布団に包まって眠ることにする。
最近忙しかったから、アレだ。きっと疲れてんだな、うん。
そう自分を無理やり納得させる。








それに気付いた男が「えええ!俺だけ置いてきぼりィイイ!?ちょ、いっしょに悩んでよォオオ!!」
そんな風に悲鳴を上げるその声を無視して布団の中で目を瞑るのだった。


しかし、全く眠りは降りてこず、喚く男に「ウルセェエエエ!」と怒鳴ったのは、それから数秒後。











星の光が瞬くよりも早く、横たわる事実に向き合わなければならない。
しかし、今夜はとりあえず眠れそうになかった。














金土ベースの擬人化なんですが、犬が人間になったらどうするか?というわけで従順な犬彼氏をチョイス。
続モノなんで更新を気長にお待ち願えれば幸いです…;