一輪華| ホスト金時×警察官土方


唯一ものが欲しい、と願っていても届かなかった。
だから閉じて膝を抱えた。
欲しがらなければ、手を振り払われた時に傷つかずに済むから。

そうして失ってきたもはなんだろう。
手にできなかったものはなんだろう。

そうして閉じられた世界で一人目を閉じていた。





**










目映い宝石のように天井を飾るシャンデリア。甘い香りと芳醇な酔いで夢の世界へと誘うアルコール。
眠らない街の奥に構える店、そこは金髪碧眼の外人ホストの店に匹敵する昔ながらのホストクラブ。
その中で外人並みの生まれながらの金髪と話術で多くの顧客を持つ…。




「ねェ、素敵な夜になる魔法を教えようか?」







目を閉じて、そう囁く言葉は甘い毒。
頬に押し付けられた唇は僅かに笑みの形に形作られていく。それが痺れる様な熱量を生んでいく。
客が応じるままのスタイルではなく、彼が見せる様々な顔を客の方が引き出したくなる。
そんな魅力に溢れた彼はこのホストクラブの1に知らず知らずの内に伸し上がっていた。

特にやるつもりもなかったらしいホストクラブでそんな地位を物にしても
鬱陶しがるだろう。




本当はお酒よりも甘いものが好きで、積極的な女の人が少々苦手な面を理解しているのは
この世で一人しかいない。


そう、誰のものにもならないホストは自ら首輪をつけることを望んだ。
たった一人の人物によって。








明日は自分の誕生日である。少しでも気を引きたい女性たちが群がる。
すなわち欲しいものは何なのかと。







「んー、今年は赤い色の薔薇がイイ。…唇みたいで綺麗でしょ?」




そう女性の唇をなぞってやると真っ赤になった顔が可愛かった。
素直で単純、と思いながら微笑んでやる。
赤い薔薇と言ったのはものよりも形に残らないからだ。
花には悪いが、枯れるまでの数日目を楽しませてくれればいい。あ、俺らみてー。
枯れるまで、みんなが飽きるまで綺麗に咲いて楽しませなければならない。
俺は、一人のために咲きたいんだけども、そう言ったら解放されるのだろうか。
窮屈なこの花壇から。…いや、花瓶からか?
何度目かの乾杯をしてグラスを開けていく。


今日も眠らない街の中心で偽りの花が咲いていた。










朝3時、バックヤードでケツアゴの新八に呼び出されていた。


「ふぁ、なんだよ―ケツアゴ。お前の顎が割れてたのは俺のせいじゃないだろーがー」




「違うわァアア、ボケェエエ!…じゃなくって、さっきチラッと聞いたんですけど
今年は赤い薔薇って言ったんですって?」





一応突っ込みの血が流れていると確認するように軽くウォーミングアップを入れてやると
食いつく新八も毒気を抜かれたような顔をすると、首を振るって本題に入った。
誕生日のことらしい、それが何?と言うように視線だけ向けて。




「何じゃないですよ〜、あれだけ去年だって花が来てるのにさらに
花だらけになっちゃうでしょーが」




「えー、イイじゃん。俺、花好きだし」







「そんなこと、アンタから初めて聞きましたよ…」








クスクスと悪びれなく笑うその顔に新八は深いため息をついた。
それから折れるように、「明日は1時間早く出勤して下さいね、明日という日はアンタのためにあるんだから」
そう告げてスケジュール帳を胸元から出して捲った。
返事をせずにいると返事は?と鋭く眼鏡の内から睨まれた。


「はーい」


いつもみたいにギリギリに来るとかダメですからね!と念を押してバックヤードから去っていく新八の
後姿を見送りながら小さく笑った。
明日と言う誕生日が俺のためにあるなんて。


美味いウソをつくなと密かに笑みを零した。










当日は少し早く出勤したが、既にそこは花を届けたりプレゼントを並べる業者と新人、
そしてそれを指示するケツアゴで千客万来と言う感じだったが、自分が入ってくると新人が
まず挨拶をしてくるためケツアゴの視線にとまったらしい。





「金さん、待ってたんですよ。一時間前には入れって言いましたよね〜〜?」




「悪ィ悪ィ。…わかったからそんなに顎近づけんなよ…、で、プレゼントのリストは?」




これです、ときちんと書きこまれたリストを手渡され、物を見ながらくれた顧客の名前を瞬時に
覚えていく。やる気がなさそうに見えて、金時の記憶能力は半端ない。
それを後ろで見ていた新八は少し安心したように肩を竦めると他の業務へと戻っていく。




プレゼントを見終わると、誕生日イベントの段取りの打ち合わせになった。
誕生日は俺のためとか言いながら、ほとんどファン感謝祭みたいなもんだなーと思いながら
打ち合わせに耳を傾けていたが、やはり眠たくなってしまう。
何度か舟を漕ぎ、目の前に座っていた新八に拳で頭を殴られた。


「アンタのことでしょうがァアアア!」







「…ん〜?だって去年とそう変わらないじゃん。回る顧客の数は増えたかもだけど。
後は22時に誕生日ソング歌ってくれるんでしょ?」




「う、…まァそうですけど、でも顧客が増えたからこそスケジュール通り行かないと
皆アンタのお祝いのために来てくれているんですからね」




顧客のリストとプレゼントの先ほどのリストを照らし合わせていく。





今日はいつもの紫のスーツじゃなくって、黒で、ワイシャツはワインレッドを選んだ。
出かける際にも襟がおかしいと直してくれた、彼を思って少しだけ微笑んだ。
客寄せパンダみてーじゃね?と嗤う自分に皆お前のことが好きなんだっつーのと諭すように
だけど少し寂しそうに笑った彼を今すぐ抱きしめたいと思った。
それは叶わない現実だけど。


自嘲気味に口端を吊り上げると業者の花を運び終わりました〜と言う声が掛かるまで
話し合いは進んだ。


他のホストがずらりと揃った店内は既に清掃も終わり、花も所狭しと並べられていた。
今年は薔薇が多く目立つのは、金時のあの言葉だろう。
少しでも気を引きたい客は、欲しいものを聞きたがるだろうし、それを贈るだろう。


シャンパンタワーが中央に準備されており、その下に飾られた飾りすらも
ベルベットローズで思わず唇を吹きたいほど滑稽だった。
血のように赤く染まる店内は、大きな花瓶に飾られたバラの香りで噎せ返りそうに
なるが、それもシャンパンや開けられるであろうウィスキーの香りでどうせ消えてしまう。


蕾の一輪を手に取ると軽く水を払って胸元に差した。










そうして夜が始まる。








店の外まで飾られた花で今日はこの店でどのレベルの人が誕生日なのかが分かるという。
店の外どころかテナントのシャッターが下りた隣まで選挙された花輪の数、開け放たれた外扉
から噎せ返るような花の香りに、通行人すらも足を止めてしまう。
そこに横付けされる高級車から煌びやかな女性が下りてきて
そして次々と店へと入っていくのを気圧されたように眺めてしまう、今日はあの店の1が
誕生日なのだろうと推測が容易だった。


「金さーん!お誕生日おめでとうー」




「おー、さっちゃん。ありがとな、後コレ、付けてみたけどどォ?」




そう言ってかけよって来る長髪の女性に腕時計を見せると蕩けるような笑顔になった。




「あぁん、銀さんったらーvでもメインの誕生日プレゼントはワ・タ・シ!」







そう言って抱きついてくる客を抱きしめながらテーブルへと案内する。
ほぼ抱っこしてテーブルまで連れていくと赤くなった彼女にくすりと笑った。







「その誕生日プレゼントは、また後日受け取りに行くわ。縄、買っとけよ?」





そう囁いて椅子に座らせると、それだけでさっちゃんは赤くなった顔さらに赤くして無言で何回も頷いた。
それから酒を頼むためにカウンターへと戻りながら、ドンペリ用意しといてなと小声で呟く。
バーテンダのスタッフは分かってますよと合図をして忙しく動き始めた。




開店から数時間でほぼ満席となったテーブルは、今日は2時間の入れ替え制である。
シビアだが、それだけ人気のある人だからといくら金を払おうとも今日の彼の独占権は少ない。
しかし、それでも祝いの言葉を言うと女性たちは満足して帰っていく。
しかも短い間に高級なアルコールも入れて。




「はーい、ピンドン入りまーす!」







そう元気な声が店内に何度か響き、それに被さるように答える声、「ピンピンドンドンはいりまーす」と
応対する声が飛び交って、何処彼処でお祝いのための言葉が飛び交う。
グラスを傾けながらそんなお祝いの声に礼を言いながら、テーブルからテーブルへと移っていく。




途中でオーナーの神楽も姿を見せ、お祝いの言葉に何度目か分からない礼を言うと
「金ちゃん、疲れたアルか?」と声が帰ってきた。




「…うーん、でもま、みんな俺にお祝いしたくって来てるしなァ」







肩を竦めて椅子に座ればそこかしこに楽しそうな笑顔が溢れ、祝うために高い酒が開けられていく。
噎せ返るような花の香りはアルコールでさらに深められたようだった。
チャイナ服を翻して神楽がそっち近づいてくれば、座る俺の目の前に立って笑った。




「…じゃあ、私からの誕生日のお祝いアル。今から20分間自由にしていいアルよ」




「短ッ」





「そう言ってるうちにどんどん短くなっていってるアルよ〜?」





立ち上がると、新八がすと、一輪の薔薇を差し出した。その色は白。


「これ、今日朝一番に届けられていました。で、差出人が不明なんですけど…」


心当たりありませんか?と続けようとする新八の言葉を聞かずに薔薇を手にして店の奥から外へと
でていく。




「え、ちょ、金さん?」




「新八、野暮なことは聞かない方が身のためアル、それよりも喉が渇いたアル」







ソファの上で足を組む神楽の頼みとあっては、出ていく金時を追いかける
事は出来ない。肩を竦めグラスを用意させるとVIP専用のワインセラーから
彼女の好みのワインを取りだした。



















20分と言っていた。時計やアクセサリー類はテーブルに行くたびに外して
新しく付け替えるので手元にはない。
後で箱に入れて自宅に届けられるのが通説である。
しかし、自宅には向かわない。自宅があるマンションよりも大分ランクの
下がったアパートの一室へ向かう。


合鍵を出すのがもどかしく、チャイムを鳴らすともう23時を回った時間だったが
いつものようにスウェット姿で土方が顔を見せた。


「…金時?…まだ早くねーか…?」




「…うん、ちょっとだけ時間貰っただけ。…何作ってたの?」

鼻をヒクヒクさせて、土方に抱きつく様に近づけば甘い香りが
漂いそのまま靴を脱いで部屋へと上がっていけば、「ちょ、おい、こら、待て!」と
抗う土方を抱き抱えるようにして居間へと行けばそこに置かれていたのは。








「ケーキ…?」




歪な形をしたケーキは、明らかに円ではなくところどころ色が変色しているのは焦げたせいだろう。
それどころかクリームも固まって均等に塗られていない。


「これ、十四郎が…?」


「…、…そーだよ、悪ィか!」


「悪くない、スゲ嬉しー」


赤くなって俯く土方にくすりと笑って手を伸ばす、そのまま抱きしめると
「薔薇も有難う」と囁く様に告げた。




満開の赤い薔薇の中に一輪だけの白い薔薇。


欲しいものを差し出してアピールするのではなくって、自分も思っているとアピールする
健気な彼にとんでもなく惚れてしまっている。
薔薇の所在に対して白を切るのではなく、顔を赤くしてスーツを握る手に
力を込める土方が愛しい。


こっちから一目惚れみたく彼の手を握ったけれど、こうして不器用に手に力を
籠めるその力が嬉しくって僅かに開いた土方の唇に
唇を触れさせる。柔らかい口付けに目を閉じた土方を見下ろしながら口付けを深めようと
顔の角度を変えた途端、鳴り響く携帯のメール到着音。








「うわッ、…ち、なんだよーいい所で。…ゲ、神楽かよ」





抱きついたまま動きを硬直させる土方が赤くなった唇を抑えるようにして
流された自分を恥じているころ、舌打ちして肩を竦めた金時にもう一度強く抱きしめられた。


「あと3分で戻らねーと、裸で町内一周させられる…」




「な、…そんなことなったら猥褻物陳列罪現行犯で逮捕するからな…ッ…早くい…」


そういいかけた土方の言葉を再び今度は押し付けるだけのキスをして
客には見せない子供っぽい笑みを浮かべる。










「仕事終わらせたら、ケーキごと十四郎を喰わせてよ」








そう囁いて唇を離した金時に、土方は僅かに目を見開いてから小さな声で
「ケーキと同列にすんじゃねェ…」と呟いた。
可愛くてこの場で押し倒して食べてしまいたいけれど、それもあと数時間の我慢だ。


「じゃ後で、寝てても起こすからそのつもりで」


そう呟いて玄関から出ていく背中に、早く帰ってこいよと声が響いて
思わず笑ってしまう。
自分の容姿や生活などどうでもよかった。ただ誘われるままに店を手伝っていたし
酒も飲めるし適当にやってりゃ飯も食えるその生活。
このまま自分がいなくなっても誰にも探されないだろうなと思っていた時に
救いだしてくれたのが土方だった。




誰に必要とされるよりも、土方に必要とされたい。
そう言ったら驚くだろうか、うざがられるだろうか。











眠らない街、かぶき町で誰よりも有名で1の名をほしいままにする一人のホストは
不器用で、でも飾らない恋をしていた。










**







自分よりも傷つけられても手を伸ばすことを諦めない存在がいた。
傷の舐め合いじゃないのか?そう自問したこともある。
自分よりも可哀想な奴を見つけたかったんじゃないのか、とも。

それでもぎこちなく手を伸ばして振り払われることなど恐れてもいなかった。


そんな存在に一人の世界を壊された。
否、修正してくれたのだ。


そんな存在に今日は、感謝を。































The present which is the best your love than the expensive present.













HAPPYBIRTHDAY!!