smile | ホスト金時×警察官土方

今どんな顔をしているか、あなたは認識できている?






**











別に何があったわけじゃないけれど
気が晴れなかった。一人でいる感覚で仕事をしていた。

顔を見ればみんな楽しそうに笑っていて、自分も笑っているのに
どこか遠くて。
実際最後の客の見送りをして肩を落とせば、ケツアゴはぎょっとして自分を見返した。




『酷い顔してますよ、金さん』

疲れているんですか?と聞くケツアゴの言葉にこっちこそぎょっとしてしまう。
鏡なんて見返していなかったからそんなことを言われると思わなかった。
だからただ自分がどんな顔しているかわからなくて。

軽くいなして店を出る。
何が嫌だったわけではない、苦手な客がいたわけではない。
それなのに、笑っている皆より自分が遠ざかったしまったのは。
あんなに大勢人がいたというのに、一人だと強く感じた。

空虚、とはそんなことを言うのかもしれない。




だから余計自宅であるマンションには帰りたくなくて
繁華街を抜けて、近くの公園で足を止めた。
変質者が出るから近所の若い女性は立ち入らないで欲しいような場所で。

そこを抜けると恋人である土方のアパートまですぐで。

時計を外しながら見れば、すでに午前2時を回っていた。
肩を竦め、見上げてから帰ろうかとセンチな思いを抱いて
公園を抜けてアパートまで歩いて、ふと見上げればやはり土方の部屋の辺りは暗く
そっとお休み、なんて呟いて踵を返そうとすれば。


「…十四郎…?」

ベランダにてタバコを吸いながら此方を見下ろしているのは十四郎で。


「何してんだよ、そんなところで…?」

「煙草吸ってんだよ、…早くあがって来いよ。近所迷惑だろ…」

今日はこっちへ来るとは言わなかったのに、その勘の良さに呆れながら
もしかしたらこっちに来ない日でも、帰って来る時間は大体アフターがない限り
この時間であるからこうやって待っていたのかも知れない。
煙草を吸う名目で、ただ目が覚めたという名目でベランダに出て自分を探す。
いなければそのまま部屋に帰ってイルカのぬいぐるみでも抱いて眠るのだろうかなんて。


一目散に階段で上がり、玄関の鍵を開けようとすると、中から鍵を開ける音がして
土方が顔を出した。
「お帰り」なんていいながら嬉しそうな顔を隠そうとはしない、ぶっきらぼうに視線を逸らして。
土方の体に腕を回すと思いっきり抱きしめた。

その身体にはシャンプーの香りよりも深く煙草の香りが染み付いていた。


「ねぇ何本、外で吸ったの?」

「はァ?あれが最初の…」

寝巻きにしているスウェットを引っ張って胸元に顔を埋めれば、すんと鼻を動かした。



「…5本は吸ってるでしょ?」

「……、そんなに…」

「じゃ、4本?」

その言葉に腕の中で身じろぐ土方にふと笑みを含めてぽんと背中を叩くのだ。


「待っててくれて、ありがとー」

その言葉に小さく頷く土方が堪らなく愛しい。
この手から離さないでいてくれるなら、自分は何でもできると思った。
其れほどまでの激しい執着が土方に向く。

それでも止められない。




玄関先で抱きついていた俺を引き剥がすと、部屋へ招いて
スペアのスウェットを投げ渡された。お揃いの色であるからコンビニすらこの格好で
出たくないといわれるほどだ。
特に気にするなら、別の柄を買ったらいいじゃんかと言えば、2枚で2980円だったんだよ!
と言い返された。庶民感覚の御手頃値段に少し圧倒されつつも
俺も少し前まではそうだったなぁなんて言いながら笑ってしまう。

すると土方は馬鹿にされたと思ったのだろう、じゃあ着るな!と怒られた。
淡い青色のスウェットを着る土方は、唇を引き結んで顔を赤らめるとそっぽを向いた。
懐かしさに目を閉じて、スーツの上着を脱ぐとネクタイを外した。
ドレスシャツのボタンを外しながら無造作に椅子に掛けていくと、其れを律儀に
ハンガーに掛け直す土方に喉を震わせてしまう。
訝しげに目を此方へと向ける土方にズボンのベルトを外しながら喉を震わせた。


「いやー、奥さんみてーだなって思ってよォ」

出来た奥さんもらって幸せだわァ、俺と唇を吊り上げれば、眉間に皺を寄せながらも
強くは言い返さず、ズボンを脱ぎかけている俺にそっと視線を向けた。


「良かった…」

「…へ?」

「お前、酷い顔してた。…何かあったわけじゃねぇんだな」

そうケツアゴと同じことを言われて目を見開いてしまう。
目を瞬いて見返せばポンポンと背中を撫でられて、上半身裸でズボンを脱ぎかけている
情けない格好のまま、そう寂しい心をいつでも掬ってくれる存在に再び抱きついたのだった。
そのまま顎を掬うように手を添えると自然と目を閉じる土方に
音が鳴るフレンチなキスをして、ふと笑う。

情けねーな、と言う土方に、自然と笑みを浮かべられる自分を認識できた。
沢山の人に向ける笑顔よりも、ただ一人に向けた笑顔に認識できるなんて
我侭過ぎるだろうか。

自分の笑みで沢山の人を惹きつけているのはわかるが、沢山の人よりも
土方だけがいればいいなんて思った瞬間に自分の仕事は成り立たないものであるのに関わらず
そうここでだけは我侭が言える気がするのだ。

再び口付けると、目を閉じて笑みを浮かべる自分はきっと幸せそうな顔をしているんだろうと
ただそう思った。




揃いのスウェットを着てベッドに横になった。
軽く口付けながら抱きしめていると、そのままにされながら時折くすぐったそうに
笑い、時に深くなる口付けに嫌がるように首を振って。

それでも背に回した腕から決して離れずに身体を沿わしたまま。

高まる熱を時折、逸らせるようにぎゅっと腰を抓られたり、逸らされた熱を
甘く引き出すように口付けに応えるように、舌を吸われたりしながら、その心地よさに
二人して溺れていくようだった。

それでも暖かいその空気を手放したくないと思いながら、狭いシングルベッドで
身体を寄せ合った。

暖かい互いの身体に寄せたままの身体に目を閉じて唇を寄せる。
飽きもせずに口付ける自分を土方は甘やかすのが相変わらず甘い。

口付けが深まると拒絶するように痛みを与えることから、明日は朝から出勤であるのだろう。
其れなのにずっと口付けられているのは、そして時折応えるように舌を
動かされるのは。

そっと髪の毛に指を沿わされた。そのまま髪の毛を指で梳かれた後
ぐしゃぐしゃと掻き混ぜられる。

その無造作ながら暖かい手に目を閉じて軽く唇を唇で挟むと、そのくすぐったさからか
喉を震わせる土方ももう目を閉じたまま開けない。

眠りの波に誘われるように二人して身を委ねていく。

其れは幸せな瞬間で。二人、熱に揉まれながら溶け合うのではなく、互いの熱に
寄り添う、その時間はかけがえないもので。







目覚ましが仕掛けられた時刻にキッチリ鳴るのを眉を顰めながら腕を伸ばす。

自分で仕掛けたのにも拘らず、一瞬その時刻に喧嘩売りたくなるような
時間だ。
隣で眠る金時を起こさないように、ベッドから這い出せばスウェットを脱ぎ
ワイシャツとかけられたスーツを持ったまま、バスルームへと向かう。
シャワーの音も極力立てないようにしながら、なんて。

昨日の金時は酷い顔をしていた。疲れていると言うわけではないが、何か捨てられた
子供のような顔で歩いていた。
それだから掬い上げた、あの時と同じように。
派手な格好で飾りながら実は寂しい心を持って貪欲に搾取しようとしていた。
しかし外見で擦り寄る人々に彼を理解しようとする人はいなかった。

だから自分が正確に理解できているとは思えない。
まだ話していないこともあるし、聞いていないこともある。

それでも、この手にこの存在を留めておけるなら何をしてもいい。
と、意識せずに金時と同じことを思った。




軽く飯を作ると、忙しなく食べて、金時の分は冷蔵庫へと入れる。
伝言を飯台の上に乗せて、重石に甘いと言って喜んだイチゴを
ラップを掛けて置いてやる。

金時のことを待っていたと言うのは半分嘘で、半分本当だ。
嘘ではなく、そうであればいいのにと思っていた。
このぐらいの時刻になれば店が終わるのは知っている。よく来る時間だから。

ただ自分も会いたいと思っていたから、金時もそうであればいいと思った。




寝室を開ければ、まだ眠り込んでいる金時に
ふと息を零すと、漏れる朝日に金色に輝く髪に目を細めた。

そっと撫でれば、くすぐったいのか眠ったままふと笑みを刻む。


「……笑えるんじゃねぇか」

その笑顔は、沢山の人に向けられ、魅了するものではなく。
ただ自分だけに向けられた、自分を癒すためだけのもの。

其れを得るために、自分は。




朝日の中、指から感情を伝えさせるようにそっと金時を撫でていた。
時刻が出社時間30分前を告げるまで。













**







人の笑顔は伝染する。

かけがえのない人の笑顔なら尚の事。




そのときあなたは、本当に笑顔で笑えていますか?






















I want to see you with a true smile.