on call | ホスト金時×警察官土方

会えない時間は不安や苛立ちなど余計なものを連れて来る。
忙しく没頭していればまだいいが、ふとした瞬間に思考に沈む。




まるで分厚い硝子越しに背中合わせの俺たちは。













**














「だぁああ!もう、うるせェなっ。いい加減切るぞ!」

『あぁあ、待ってまだ切らないで。…いいじゃん、まだ夜は始まったばかりでしょ?』

「お前にとってはそうでも、俺は違うんだよ!」

携帯越しにそう怒鳴っても、金時は低い声音のままクスクスと楽しげに
笑みを電波に乗せてくる。耳元で囁かれた気がして
思わず携帯を離して口を押さえた。







GWが終わり、6月ともなると雨の時期でもあり、街を行く人たちもどこか
陰鬱な様子で歩いている。
重い雲が圧し掛かり、湿気で重たくなる身体を何とか引き摺り歩いているようだった。
せめてもの救いは衣替えの時期だったこと。
学生も社会人も一気に夏の装いとなった。

重い上着を脱いで素肌を晒す季節はどこか開放的になると思った。
だから警察というあこぎな職業をしているからこそ、その開放的になる季節にどうしても
犯罪が増え避けたい季節ではある。

しかし、何も考えずに仕事に没頭できるのは幸せなことだし、この不況では仕事に
ありつけずにいる人も多いと聞く。その中で働けることは貴重なことだろう。


とはいえ、金時との時間が取れないのは非常に困ることであり、癒しのなくなった自分は
自覚できるほどピリピリしていた。
心配してきた部下の山崎を叱り飛ばしたり、上司である近藤さんに八つ当たりしたり。
梅雨の季節も手伝ってか余裕がなくなった自分にはどれだけ金時の存在が
大きかったかと気づいた。
あと一日待っていたら、夜中だろうがなんだろうが金時のマンションへと足を
運ぶつもりだった。金時の香りに深く眠れそうな気がしたからだ。
金時もいつものごとく忙しいのかマンションに帰れてるのかいないのか
時折車中から眺めるマンションは電気が付いていない事が多かった。
忙しくしているのだとお互いにすれ違う心が寂しいと思ってしまう。


こんなこと金時と出会うまで感じたことがなかった。
少しの時間も足りないと思う。二人でいる時間は。

明日はどれだけ遅くなっても、金時のマンションに行くと決めてパジャマを着て
ベッドに横になったところだった。




ディスプレイが青白く光り、着信を告げたのは。

「…金時…?」

それは今まで考えていた、いつも思考の真ん中にある人物からの電話だった。
遠慮がちに抑えられた着信音は、金時に設定されたもの。(金時に勝手に設定された)

「…どうした?」

『あ、…十四郎、仕事中?』

「いや。今寝ようと思ってたところだ…」

金時の声が篭って聞こえ。携帯電話を握り締め直すと耳に押し当てた
それにほっと息を吐く吐息が耳元で聞こえたようで、思わずくすぐったく布団で丸くなる。

『お仕事お疲れ様。・・・最近忙しくね?』

そう聞かれるのは自分への気遣いからだろうか、自分も疲れているだろうに
その気遣いは天性のものだろう。
だとしたら稀有な存在である。
布団で寝返りを打って小さく笑うとその衣擦れの音でどこにいるかわかったらしく、
含み笑うのが電波に乗って聞こえる。

「忙しいのはお互いだろーが。今日はどーした?」

『ん、別にないんだけどさァ。…十四郎が寂しがってると思って?』

「…、寂しがってるのはお前だろ?」

図星だったため思わず言いよどむもそう言い返せば、『わかった?』と素直に返されて
笑ってしまった。他愛もないこういった時間が貴重であること、金時と出会ってから気づいた。
携帯電話なんて仕事と自分を繋ぐ鎖でしかないため、煩わしいと思っていた。
電話が鳴れば、必ず仕事場か現場に駆け付けねばならないからだ。
それを金時が変えた、それどころじゃない世界の全てを。
金時は携帯電話を仕事用とプライベート用にきっちり分けているようだった。
聞いたことはないが、二人でいるときに職場からの携帯をよく無視して
あとで新八とかいうケツアゴに怒られるらしい。本人に言わせると
プライベートを邪魔するなんて野暮だろ、ということらしいが。

それでもお前を待っているかもしれないと、急がせるのだが構わず傍から離れない
金時に呆れたものだった。
それでも誕生日には呼び出しにも応じるから仕事という意識はあるのだろう。
確かにそれがなかったら大変だが。


『ねぇ、今って俺があげたパジャマ着てる?』

「…もう寝るぞ?」

『良いじゃん、…やっぱ似合うよ、その色』

見えていないにも関わらず、思わず布団の中でパジャマを見下ろせば
「派手な色買ってくんじゃねーかって心配してた」と憎まれ口を叩いてやる。
紺色と緑の合間のミッドナイトグリーン。月がぽっかり浮かぶ静かな夜のような色が
気に入ってこっそり着ているのがばれているのか、それともいないのか。
笑みを含む声が耳元に吹き込まれる。


『ねぇ、最近ちゃんと抜いてあげてんの?…あんまり体に溜め込むと…

「…っ、もう、いい加減に…ッ」

体に毒だよ?の声に被せるように何を言い出すかと瞬時に理解して言い返すと
『愛を感じるねぇ』なんて笑っている。このエロホスト、と小さく詰って顔を赤らめた。
本当はそれが図星だなんて思いながら小さく息を零せば、その息も拾ったのか
平気?と小さく呟かれる。

「俺と十四郎しかいないんだから、…言いたいことは全部言って?」

どんな我侭も叶えてあげるから、そんなことを言う金時に目を閉じてしまう。
どんな我侭も、なんて言って叶えられることと叶えられないことはあるはずで。
それなのに、その言葉の甘さに縋ってしまいそうで。

目を閉じて息を吐き出す、金時は黙って耳に携帯を押し付けているだろう、
そんな気配で近くになったような気がする。



「…じゃあ、もっと声、聞かせろよ」

『…了解、それじゃあ…前弄ろうか?』

「違っ、・・・そういう・・・」

そういいながらも操られるようにパジャマの上から熱を指先で弄ると
もう硬くなった箇所がその姿を現し始めていた。
思わず息を呑むと、クス、と笑みを零した金時に「もしかして、もう濡れてる?」と
呟かれた。



『ねぇどんな風になってるかちゃんと言って?…ズボン濡れちゃうと
洗濯大変だろうから、脱いで?』

「…ッ、・・・エ、ロホスト…ッ」

『エッチい御巡りさん、今夜はどこを取り締まってくれるのかなァ〜?』

矢次に指示をされるままに、いつもはずらしていじるだけの前を
指示通りに下着ごとズボンを脱いでしまうと指先で柔らかく熱を摘めば
もう言われたように熱を帯びて湿っていた。
小さく息を飲む気配が電話越しに伝わったのか、含み笑う金時の声に
顔を赤らめてしまう。しかし手は止められず、見られていないから大胆に動いてしまう。
そう言えばいつも金時はこうしてた、といつしか金時の手を追いながら。


『先のほうもっと強く、根元は焦らすみたいにそっとでいいよ。…ん、可愛い』

「・・・ぁあッ、くぅ…き、んとき・・・ィ・・・ッ!」

えろい声、と言いながら金時の声も何処か熱っぽくて。


金時の言われるままに、手を動かして、恥ずかしい事を言って。
あっという間に熱を掌に吐き出してしまうと肩で息を吐いて吸いながら
傍に居ない金時に歯をかみ締めてしまう。


どうして傍に居ないんだろう、どうしてここに金時が居ないんだろう。
そればかり考えてしまう。

眦から涙が零れ、嗚咽が伝わらないように電話を少し離すと、金時は
耳を欹てるようにそっと耳を寄せたようだった。


『…いつになったらその涙を掬って上げられるんだろうなァ』

「…もう、…切るぞ…」

『まだ、…涙が止まるまで』

そう言って身じろぎした自分の音が聞こえたようだった。そのまま嗚咽を洩らして
涙を零し始めた、その時だった。




ピンポーン、がちゃ。



チャイムと鍵を開ける音がして思わず玄関を見ると、電話を押し当てた
金時がそこに立っていた。


「…ぇ、…ど。…して?」

「言ったでしょ、どんな願いも叶えてあげるって」

そう言って電話を切ると、部屋へと入ってきた金時に抱きしめられた。
金時に驚いたものの、その温もりはやっと本当だとわかり腕に力を込める。

数週間しか離れていなかったのに、電話をしただけで堪らなくなって。

そうして反応した浅ましい身体に戸惑って、心が付いていけなくて。







「十四郎、…願いは叶えてあげるから」

言って?そう言って首を傾げる金時にやっと落ち着きを取り戻した俺は、
早く抱き枕になれと告げてベッドへ引きずり込んだ。
抱き枕じゃなくてもいいのに、といまだ裸のままだった下半身を触られ、身体を揺らすと
慌ててズボンをはいたが、時すでに遅し。
寂しかった心など何処かにいってしまったかのように激しく金色の波にさらわれていったのだった。














その日、大遅刻をしてしまった俺は、後日金時からの電話には十分気をつけようと
心に誓ったのだった…。






















**
















傍に常にいることは出来ない。
でもこの心は既に貴方だけのものだから。




待っていて。帰る場所は此処しかないのだから。






















My heart stays near you.