language | ホスト金時×警察官土方

言葉が足りないと思うことがある。
それはいつも相手が去ってからのこと。
後悔して手を伸ばそうとしても、既に失われたものは届かない。
それすら望んだことではないかと素気無くあしらわれる。
それだからこそ必要以上に声に出さないようにする様になった。
声にすれば、足りない部分がはっきり表れてしまうから。
それならば全部を口の中で飲み込んで、それから息を吐きだして。



言葉が大切だと言われたことがある。
言葉には力が宿ると。
一度放たれた事の葉の刃はもう二度と戻ってこない。
いつか誰かが言っていた。人を殺すのに、刀も銃も要らない。
ただ一言で良いという。
それだから、言葉には気をつけろと。
気を付けていても口から言葉が転がる。まるで無責任な風の如く。




**




仕事で珍しくミスをした。
それも取るに足らない部類の。それなのに、体調の低迷も手伝ってか柄にもなくへこんで
しまった。表情にはでなかったからか、特には気づかなかったようだが
それでもミスをするなんて珍しい、という部署の視線が余計に陰鬱にさせた。
何とか業務をこなし、終わったミス分を取り返し被疑者の家族へと電話をかけ
後を明日へと回そうとした時には就業時間を既に2時間も過ぎていた。


省エネのため半分消されたディスクに一人、取り残された気分になって息を吐きだした。
パソコンの電気を切ると、警備員の長谷川が顔を出した。



「残業でしたか?…お疲れ様です」
「あ、…いえ、もう帰るんで、消しといて貰えますか?」
署内の電気、というと分かりました、お疲れ様です、とサングラスがトレードマークの
警備員は頭を下げて戻っていった。鞄に荷物を纏めると仕事場を出た。
梅雨だというのに季節は夏のように暑くなった。
それだというのに未だスーツが制服なのはおかしいと思う。
せめて上着だけでもディスクワークの時以外はやめてもらいたいもんだ、と思いながら
もう辺りは暗いというのにじわりと湿気の纏わりつく季節柄
上着と荷物を抱えて歩き出す。
宵の口とはいえ、気分は乗らず一人で店に寄る気も起きなかった。
こういう時、一人は侘しいものだと思っても、それが気楽なのだから仕方ないと小さく肩を竦めた。
週末の街の中は賑やかで、胸に忍ばせていた携帯電話を取り出して
画面を眺めるもすぐに再び胸ポケットに仕舞った。

電話の相手がどれだけ忙しいのか分かっているので。


途中コンビニに寄って、ビールとツマミ買って、食ったら早く寝よ、そう決め
口にすることなく希望を喉奥へと飲み込んだ。



言葉にすれば、それがどんな言葉であれ力を持ってしまう。
大切に思うからこそ、口には出せなくて。




コンビニの中は少し冷えていて、纏わりつく気持ちを和らげてくれはしたが
それは一時のものでしかない。適当に選ぶとものの10分程度で買い物も終わってしまう。
店員の「有難う御座いましたー」の声に押し出されるようにして店を出れば
すぐに自宅のアパートが見える。
それにホッとしながらも、明かりのついたまま自分の部屋に目を瞬いてしまう。



(…朝、電気つけたまま出ちまったか?…いや、…)
階段を上がり、部屋の鍵を取り出して差し込もうとした瞬間に部屋の扉を開けられて
顔を打ちそうになって除ければ、そこには金時がいた。



「…と、…なんで、お前…?」
「俺がいるのおかしい?…何時もいるじゃん〜」
「…じゃ、なくて今日は…、仕事は…?」
今日はもしかしなくても金曜日で、いつもなら深夜過ぎに訪れるというのに。
もしかしたら自分を幻を見ているのではないだろうかとさえ思いながら
玄関でそっと手を伸ばせば、顔を近づけた金時の頬に手を触れる。
そこには確かな温もりと感触があって夢ではないと教えてくれた。



「んー、なんか呼ばれた気がして」
別にぶっちぎったわけでもねーから心配すんな、といいながら手を引かれて戸が閉まる。
そのまま「お疲れさん」と言って両腕に抱きしめられた。
同じぐらいの背丈なのにすっぽり収まってしまう。
それは今自分の心が弱っているから?
身じろぎもしない俺に金時はどう思ったのか背を軽く撫で浴室へと誘った。



上着を脱がせ、ネクタイを解くと流石にそれ以上は、と離れようとすれば
逆に引き寄せられ、ワイシャツのボタンを外されていく。
手際の良さに、顔を赤らめるものの金時は知ってか知らずか、脱がせたワイシャツを
洗濯かごに入れる。そうしてベルトに手をかけズボンも脱がしてしまえば、

下着にも手を掛ける金時に、下着を引っ張れば、その手を取られて口付ける。



「風呂入るのに…着てちゃいけないでしょ?」
「…ッ、…た、確かに。そうだ…けど…、あ…」
スルリ、と下ろされれば焦ったような声が漏れてしまい、ナニ想像したのとニヤニヤ笑われ
頭を思いっきり叩いてやった。
浴槽には湯が貯められており、「もう帰ってくると思ってさァ」と相変わらず嗅覚のすぐれた
動物の様なことをいう金時に目を瞬きながらも、一人しか座れないような洗い場に座り、ワイシャツを
腕まくりした金時に隈なく洗われてしまった。


擽ったような力加減に「もっと強く」と伝えれば、「後でベッドでも、それ頼むな」と
言い返され二の句が紡げない。

しかし耳の後ろまで足の先まで磨かれてしまえば、身体は熱くなってしまう。
そう触られたわけではないのに、脚の付け根を持たれ、ズボンの上にかかとを乗せられた時は
濡れるだろ、と思いながらも殆ど抗えなかった。
それほど自分が疲れているとは自覚できずにいた、それに今気づかされた気分だった。

「んじゃ浸かろうか…、頭こっちにして?」
そう言いながら半分上せたようになっている自分を招いて浴槽に入れ仰向けにさせると
浴槽の縁に頭を置いて、湯をかけて髪の毛を洗っていく。
指が柔らかく髪の毛を梳き、泡立てていくのが心地よく眼を閉じてしまうと
泡立てながら根元まで爪が掠める金時の指を意識して喉を鳴らした。
仰のいているからきっとその様子は丸分かりで、クスと笑いながら流すなー、と伝えられ
シャワーを掛けられれば、言い訳が出来ず口を引き結んだ。
指がシャワーのお湯とシャンプーを洗い落とすように通っていくのが心地よく
目を閉じると今度はリンスを髪にしていく。以前は二つに分けるのが面倒でリンスインシャンプーだったのだが
金時に「はぁあ!?この髪質をキープして!…せめてリンスはわけろや!」と猛反発されて
こうなった訳で。寝室のドライヤーとイイ、過保護になりすぎるというかなんというか。



「気持ちよさそう、…ね。仕事でなんかあったろ?」
「…、……え?」
「気づかないと思った?…舐められたもんだねェ、金さんも」
お前のことなら何でもわかるよ、そっと横から唇に唇を落とされれば目を閉じて観念した。
お互いの前では隠してもすぐばれるって気付いていたはずなのに、咄嗟に隠してしまった
自分の浅はかさに舌打ちするように眉根を歪めると柔らかいキスを何度もされた。
くすぐったさに歪めた眉根から力が抜けるとリンスを洗い流されて軽く絞られた後
持ってきたタオルで頭を拭われた。
しかし金時はそれ以上何も聞かなかった。だから俺もそれ以上は何も言わない。
それだけで伝わってしまったのなら、きっと取るに足らないミスだったということ
直ぐにその分を取り戻したことなど一目瞭然だと思ったからだ。
髪の毛の水分を取って脱衣場へと招くと、パジャマが置いてあり
「飯用意してるから、すぐ来いよ」と言い置いて金時は脱衣場から出て行った。
そのあっさりした様子にタオルを持ったまましばし固まってしまい、「え?」と
声になった時には、顔を赤らめてしまった。



(いや、…だって入る時には……、…)
そう考えてしまった自分に熱くなった顔を隠すようにタオルで拭えば、仕切りになった
カーテンの向こうから顔を覗かせた金時がにやりと笑った。



「…着るのも手伝って欲しかったァ?」
「…ッち、違う…ッ!…さっさとあっちいってろ、よ…」
必要以上に身体をタオルで隠し、そう憎まれ口を吐いてしまうと、喉を震わせながら
居間へと戻っていく金時にはァとその場でしゃがんで息を吐いてしまう。
何でもわかるって言うのなら、俺は金時に勝ち目なんかないだろうと思う。




言葉に出さなくても伝わるというのなら。
今の思いも伝わっている訳で。




「綺麗な顔が好き、サラサラの髪が好き。綺麗に付いた筋肉が好き、長い手足も手の指もイイよ。
でもね、…覚えといて。ミスをミスと認めて、立ち向かう十四郎の心根が一番好きだからな」
そんなことを真顔で言われて、このバカホストが…と思いながら顔を上げられない。
顔を上げた時には、微笑む金時は唇を吊り上げて笑って。



「でも身体の中でさァ、一番好きなのはァ、お尻の形とおへそかなァ?」

「…ッ!……も。早く、…いいから…ッ」

連れてけよ、言葉にせずに腕を伸ばす。
はいはい、と言いながら金時は俺の背に腕を回して撫でた。お疲れさん、と呟きながら。





**





言葉が大切だと言われたことがある。
でも言葉だけが大切ではないのだと気づく。
口にしなくても、口にすることはなくても気づくこと。

それだけ相手を思っていることに他ならない。

それだけ人を思えるならば、それは大切な言葉よりも必要なことなのだろう。



心と心には距離はないのだから。
言葉が届かない距離にいても、心はずっと傍にいて伝えている。









My feeling is beyond words.