umbrella | ホスト金時×警察官土方

雨がけぶる様に地面を濡らす、そんな日は。
何かを思い出して嫌になる。

守れなかったそんな、後悔と不安と、…そして孤独を思い起こさせるのだ。
手を伸ばしても、届かなかったそんな思いが心を占める。

雨が今日も地上を濡らす。
それは途切れず進み続ける時の秒針のようで酷く残酷だった。






**





店から出たら、星の見えない空からぽたりと頬を濡らした。
そんな小さな滴がどんどん大きくなって降り注ぐ。
傘を持ち歩くのが面倒で、雨が降ると出勤拒否を平気でしていたのだが
最近は真面目に仕事をしている。



『本当に珍しいですねぇ、…いっつも梅雨の時期になると仕事に来ないのに』

そう驚いたように言いながらもケツアゴ新八は嬉しそうに笑う。
この時期は時期的にも売り上げは少しばかり落ちるのに、俺が休む月でも
あるから陰鬱になっていたらしい。



月を越せばボーナスだ、バーゲンだと人は浮足立つからイイらしいが、
なんにせよ、時風に一番影響を受けやすい商売だと思う。
そして土方の商売は、いつも変わらないと思う。確かに昔よりも犯罪件数は増えて
変な奴も多く存在するが、所詮人間だから、と言っていた土方の言葉に突かれた気がした。

町は変わっていくのに、人も変わっていくのに。人間と街であることは
変わりがないのだ。
そう言われた気がして小さく笑った。

今日も土方は忙しくしているんだろうと思いながらかぶき町の夜を歩いていく。

傘を差さずに歩く俺を不審に思うものはいない。




元より人との係わりが気薄な繁華街だからこそ、自分という存在も弾き出されず飲み込んでくれたのだ。
そう気付いていたからこそ、相手には何も求めないようにした。
土方と出会うあの日までは。



傍にいることを享受してくれた、あの存在にいつも生かされている。







雨が次第に強くなり、金色の髪が水を吸って濃色になっていく。
額を流れる滴は顔を滑り落ちて、スーツを濡らす。
ネオンが水に透けて綺麗だ、と思いながら空を見上げてしまう。
あの時もこうして光の中で、雨を見上げていた。

身体を濡らす水もさほど冷たくもなかった。

それよりも誰の上にも平等に降る雨が、自分を慰めてくれるようでほっとした。

しかし、それよりもその雨を防いでくれる傘があるってこと、その時は知らずにいて。
降り注ぐ雨を止める術はないってこと、それを全身で受け止めていた。






ふとその時、後ろから雨を遮るように色の濃い傘が頭上へと差し出された。
その様子に目を向ければ、すぐ傍に土方が立っていたので驚いた。

「この馬鹿ッ、風邪引いたらどうするんだ?…傘嫌いでもタクシーぐらい使えるだろーが…」

「…んー、ちょっと面倒になっちゃってさァ」

「……きんとき…?」

濡れた身体をのままにそう呟く自分に違和感を覚えたのか土方が聞き返してくる。
小さく笑って首を振るうと、相手の手の内から傘を奪う。



「ちょ…何…?」

「雨、降ってたから感傷的になっただけ」

傘で往来から切り離して口付けをすると、合わされただけの唇は
暖かかった。それに少しだけ目尻を和らげるとぐい、と傘を持つ側ではない手で土方を引っ張る。


「…金時…」

「なんか速攻抱きたくなっちゃったんだけど?」

「な…、な、…なに…?」

お前ン中、入りてェと耳元に囁いて音を立てて口付ければ、その唐突に欲に塗れた
自分の視線に気づいたのだろう。往来があるからか、こんなところでサカるなッ!と
小声で言い返された。


この存在は傍にいると言うだけでこんなにも余裕がなくなるほどで、
雨の滴を受け止めるしかなかったそんな冷たい優しさを両手で防いでくれる。
自分が不安定になればなるだけ、大きな傘を差し出してくれる。



「…帰ろう、金時」

目元を少し赤らめて、そう強く宣言する言葉に、そういえばあの時も
そういってくれたと思いだして小さく頷けば、ガキみてェなんて笑われた。


「帰って、滅茶苦茶キスして、お前ン中ぐちゃぐちゃにしたい」

そんなことを囁いて再び土方の目元を朱色に染め上げると、続く衝撃が
頭か背中かと笑いながら待っていた。




それでもいつの間にか傘を持つ手に絡められた手はいつまでも解けなかった。












**










雨は慈雨。
全てのものに平等に降り注ぐ、けれど。
大きな傘に寄ってその雨を防ぐことが出来るのだと教えてくれた。

雨が降るのを止めることはできないけれど、時が進むのは止められないけれど。

濡れないように、流されないように。






今日も暖かい存在が傍にいてくれた。













続…?