Birth | ホスト金時×警察官土方

*坂田銀時誕生日記念作品です☆(2009年度版)














真っ白の紙を一枚貰った。
それに何か好きなものを書いてといわれた。
その紙は今一番好きなものを書くと
願いは適うよ、なんて言われてクレパスで一生懸命描いた。

あの頃の自分は何を書いた?
そして今は。




**





(10月2日 PM16:04/都内某警察署内)



ピピピ…、
署内に携帯の着信が鳴り響くのはごく当たり前の光景だ。
しかし、自分の携帯が 鳴るのは滅多にないので皆興味ありげに
視線を向けてくるのに気付かない振りして音を止める。

あの日金時が忙しくなるといって不安げな顔をしていなくなってから2ヶ月余りが経っていた。
その間は長く感じられることはなかった。
何せ自分の仕事も半端なく忙しくなってしまったので。
中国系のマフィア同士の抗争らしいが、それが水面下で行われており、
水面下なので干渉しようがないが、水面上に浮き上がってきたものの処理などに
追われていたのだ。そしてそれが上がれば薬物の密売ルート等のために
店を回ることになり、検挙率は随分上がった。それなのに燻ったような空気が
署内には立ち込めていた。



「あーぁ、結局誰も口を割ろうとはしねェ。困ったもんでさァ」
どんだけ言い募っても吐きやがらねェと不完全燃焼でイライラとしながら戻ってくる
総悟の声に携帯画面から顔を離して「ダメか?」と短く問う。
携帯を仕舞い込んで顔を上げた自分の傍までいつの間にか来ていた総悟に
椅子ごと後ろへと下がる。



「おわああっ、何でいきなりそんな近くに…」
「俺が真面目に仕事してるって言うのに、土方死ねコノヤロー!」
仕事中にラブメールですかィーと大声で言うので署内の視線を集めてしまった。
慌てて黙らせようとすると好奇の視線に晒されてしまうのだった。



中国系のマフィアたちはしょっ引いても挙って口を割ろうとしない。
言葉が通じないわけではない。
何せこの日本で仕事をしていたのだから、通じない分けないのだ。
それなのに中国語が分かる署員に話しかけられてもだんまりを繰り返す。
業を煮やした荒っぽい取調べで有名な総悟がいったがどうやらダメだったらしい。
子ねずみ一匹を捕まえた所で何も上がらないことは分かっている。
しかし、それでもきっかけになるのなら糸口にしたいと思う。
中国当局との公安の話し合いも芳しくないようだ。
捕まえた者を引き渡せと言ってきているらしい。薬が広まっている
一角は必ず関わっているはずなのにそのルートすら割り出せずに燻っている。
班長の近藤さんは上に呼ばれ、引き渡すまで取調べするなと釘を刺されたらしい。
どうせ何も出せないまま引き渡すことになるだろうから、ということだろう。
無駄な労力は使うなというとっつあんの案だろうが、それでもイラつくことには変わりない。
検挙したところで元締めを抑えなければまた広まることは分かっているが、それを見逃すなんて
出来るわけはないと思った。
しかし、これが一介の警察官の限界なのだと思い知るのだ。あくせく働いても
しらみ潰しに捕まえても悪の芽は決してなくならないことを知るだけ。
大きく溜息をついて、視線を向ければカレンダーはいつの間にか残すところ3枚になっていた。


仕事帰りに再び携帯を見えばメールの到着を告げるライトがちかちかと点滅していた。
2ヶ月前から姿を見ていないが、それを思い出すのはこんなときだった。
仕事は激務に加えて宿直が続いていたから殆んど家に帰って寝るだけの日々だったから。
きっと向こうも忙しいのだと思う。



(それなのに、あの馬鹿は……)
折りたたみ式の携帯を開いて確認すればやっぱり、金時だった。
『寂しくないようにメールするからね』なんて深刻な顔して出て行った割りには
お気楽なメールが届いたのが出て行ってから一週間後。
本当に女の家に転がり込んでいたらはっ倒す、と心に決めつつ
メールの文面を眺める。


『今日は、マーボー春雨作っといたから暖めて食べてねー』


なんて気楽なメールの後に俺のうちのフライパンで調理する自分の写メ。
こんなに近くにいるのに会えない事を自覚するだけなのに、気楽な金時に
少しだけ文句を言いたくなってしまう。



「余計寂しくなんだろーが…」
そうポツリと呟いて携帯を仕舞う。
写メ撮る時間があるなら逢いに来いつーの。
そうメール出来ずに分かった、のみ送って家路に付いた。
携帯電話の呪いは今も続いている。


肩を落とすと数時間前におさんどんをして帰っていった恋人の残り香を無意識に
探してしまいそうで眉を顰めて知るか、とスーツの上着を脱ぎ捨てた。
勿論性格上直ぐに拾ってハンガーに引っ掛けたが。

冷蔵庫に仕舞われていた春雨を取り出して暖める。
ご飯も炊けていてどんだけまめなんだっつーのと思いながら手を合わせる。
食卓に置かれた携帯を開けば、写メールに添付されてきた金時が笑う。



「ばーか」
ニンニクが利いていてとても美味しいのに、何故か味気なかった。
一人で食べる飯はこんなに美味しくなかったか?と金時がいなかったときを
思い出そうとして結局思い出せなかった。
いつしか俺が見つけた存在が大きな存在になっていく。それはあの時感じなかった
一つの符号だった。




(10月9日 PM11:00/都内某警察署内)



事あるごとにあるメールに気楽な、と思うが、其の実マフィアの抗争は
激しさを増していくようだ。喧嘩に巻き込まれた若い部下たちが怪我を拵えて
戻ってきたのを近藤さんと二人で迎えに行く。
歩けないほど怪我をしているわけではないが頬に痣や唇を切って
流血しているもの、皆服は乱れ散々な風体だが一人無傷の総悟は大分派手に暴れたのか
すっきりしたように傷だらけで半死状態の男を引きずって歩いてきた。



「ご苦労だったな、皆」
労いをかけていく近藤さんの横で、人数を確認しながら意識のあるものは
取調室を宛がう。
すっきりした様子の総悟は意気揚々と引き摺っていこうとするので
取り合えず警察病院へと連絡を取った。ぶーぶーと不平を言っていたが
引き摺ってきた男は最早意識もなかったので「全く無茶しすぎなんだよ」と詰るように呟くに留めた。
無茶をするが目立った酷い怪我のない署員にホッとした。
また中国の国籍を持つ人たちなのだろう、罵るような言葉を吐かれた、それに
眉を顰める。
中国語は理解していない、しかしそういった類の言葉はニュアンスで伝わりやすいのだ。
それに胸倉を掴んで引き寄せれば唇を吊り上げた。
こっちだっていらだっているのだ。手加減はしない。
中国に引き渡す前に、扱いて差し上げろ、そう部下に指示をすればふーと肩を竦めた。



「トシ、お前どうしたんだ?」
「…いや、なんでもねェ、せっかく捕まえたって言うのに無駄になっちまうからな」
「そうだな、力が及ばなくて済まんな」
殊勝に謝る近藤さんに首を振ってよくやってくれてると言うように頷くとほっと
したように笑う姿に安心させるように笑う。
心の優しいヤツは敏感なセンサーを持っているという。人の心を知ることが出来る、そんな優しい。
肩を叩いて署内へと戻っていく。


少しだけ心がざわついていくのが分かる。詳しくは話さないが、金時の店も強力なパトロンが
付いているといっていなかったか。中国語訛りの変な言葉で話す女…。
一度だけ話したことがある。
突然携帯に電話が掛かってきた。

名前も名乗らず「お前、綺麗な鳥籠アルな。金ちゃんが飛んでかないように
確り鍵を掛けとくヨロシ」と。
何もかも知っていてそれを許すといった口振りだった。番号をどう調べたんだ、とかどうして関係を
しっている、などの疑問は直ぐに切られた電話に呆気に取られてしまい聞き返せなかったのだ。


この抗争と忙しくなった金時に何か関係があるんじゃないだろうか。
そういえば2ヶ月前、怪我をして帰って来たではないか。
最後まで酔っ払いに絡まれて、なんていっていたが切り口は鋭い刃物のようだったように思う。
昨日の春雨を作る金時も写真も金時なりの精神安定なのかもしれない。
元気である姿を送ることで、俺がこうやって勘付くのを知っているのかもしれない。
メールの着信が告げられ、表示画面を見れば名前は金時。



『明日は俺の誕生日だよ。でもきっと帰れないと思うけどね。
…土方のおめでとうと可愛い顔が見たい』


気づけば今日は10月9日。と言ってももうそろそろ日付が変わる。

気楽な写真付きのメールをして、金時なりに心配掛けまいと思ったに違いない。
あんな怪我までして、もしかしてあの鋭い刃物が腕ではなく腹部だったら?
金時は並外れて反射神経もいいし、喧嘩も強いが特別な訓練を受けたわけでもない。
ただの一般人なのだから。
そんな恐怖に打ち勝つため、写真を撮る時だけでも笑顔で。
その瞬間だけでも、俺のために飯を作ったり洗濯をするときだけでも
伝わらせないように恐怖を排除して、俺のことだけ思って。



「本当に馬鹿、だな…」
だが、気楽な金時の表情の奥に隠されたものに気づかずにいた俺も馬鹿だった。
恐怖を恐怖として伝えてしまえば、簡単だが相手に不安を与えるだけで。
心配掛けまいと一人で耐え切れずにメールをする。
でもそれは恐怖としてはかけ離れたもので。


分かりにくい謎掛けは、捨てられた犬のように路地に座り込んでいたあの時のようで。
濡れるから、と傘を渡そうとするといらないと言うように首を振った。
一時的に雨を防げるものよりも、いつでも雨を防いでくれるような両手を欲しがっていたのだ。



署内に戻る前に携帯メールを打ち返した。
今日も宿直であるから、と気持ちを切り替えた。
しかし心の内には、あの時から何かを必死に欲しがる寂しがりやの目をした金髪のホストがいるのだった。









(10月10日 AM0:03/都内某ホストクラブ)


明日は俺の誕生日だと言うのに前日から花の注文や届いたプレゼントの整理に追われ、
めまぐるしい状態にスタッフルームに戻れたときには既に開店30分前だった。
誕生日前夜なので今日も俺の指名権はない。
しかし、誰もが前夜からお祝いに駆け付けてきてくれているので全テーブルを
満遍なく回らなければならないから、始まった早々目まぐるしい様子だった。
酒は昔からあまり酔わないが、流石に足に来てスタッフルームに戻ってきていた。
何か摘むもの持ってきますね、と気を利かせた新八が消えてから数分。
椅子に座り込んで目を閉じていた。



そして今日は神楽は来ていない。
父親の急な呼び出しがあり、屈強な男たちに囲まれながら戻っていった。
しかし、早く戻れると思ってもこの様子では明日朝まで掛かるだろうし、明日は誕生日で
絶対抜けられないだろうと肩を落とす。

誕生日に死ぬことはなさそうだけどなァと物騒なことを呟きながら
口にしたことで恐怖が揺り動かされ、手で顔を押さえる。
早く土方に会いたいなァ、と漠然と思う。そう思うだけで、そんな存在があるだけで
狂わずにいられる。
怖いはずなのに怖くないというのは、既に狂っている状態なのだから。
だから恐怖は生命の防御装置だ。



甘えるようなメールをさっき打った。
それにもきっと冷静に冷徹に短い文章が返って来ているのだろうと予想が付く。
律儀だが、そういったものに対し免疫が少ない土方はそうする事を苦手としている。
それでも回された腕は温かく優しい熱である。
充分甘やかされているし、自分も甘やかしている。
ぶっきらぼうで意固地な土方の優しさは、気づきにくいが優しい色をしているのだ。



気づいて顔を上げれば日付が変わっていた。
スタッフルームの入り口で「金さん!早く戻って」という声にハッとして携帯を取り上げると
メールの届いたランプが点滅しておりそれに急かされるようにして
開けば、土方からのメールで。



『おめでとうも面の写真も送らねェ。
早く直接言わせろ、バーカ!』



「……、ッぶ、く、く、くッ」
土方らしい文面に思わず笑ってしまうと、スクロールを下げる。
いつもはここで終るのに?と思いながら首を傾けて下げれば現れた文章に目を見張ってしまう。



『テメーは俺のもんだ。傷一つでも付けたら許さねーからな』



無傷で帰ってきたら、何でも好きなことさせてやるよ。
そんな文章が続いて再び吹き出してしまう。
でも今度は、文章に隠された暖かさに気づいて幸せな気持ちになった。
無事に戻ってくるのを心待ちにしてくれている存在がいること。
それだけで自分は、頑張れると思う。


メール表示画面にキスを一つ落とすと立ち上がって携帯を閉じた。

早く戻らなきゃなァ、そんなことを呟いて店内へと戻っていく。


店に?うちに?




否、…愛する人の傍に。











また、俺は一年を生きる資格と…泣きそうな位、幸せな言葉を貰った。






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紙に自由に書いた好きなものは
もちろん現実になるわけはない。
でも自分の心にある一番好きなものを知ることが出来る。



描いた大きなハートは、誰のもの?
いつでも貴方を想う心を大切に思っている。









HAPPYBIRTHDAY!!