truth | ホスト金時×警察官土方

草木も眠る丑三つ時。







鍵を開けて入ってくる金髪に、緩む口を尖らせて悟られないように
憎まれ口を吐くために開こうとした。

しかし手にした女物だろうか。小さな紙袋にその口は止まってしまった。



「ただ今ー、いい子にしてたァ?」



そうへらりと笑う金時に、ハッとして憎まれ口を叩く。
贈り物だろうその紙袋如きに心を揺らした自分が情けなくて。




「お前の家じゃねーだろーが」

ぷいと唇を尖らせて再び台所に戻ろうとするとギュッと背後から抱きしめられた。
ふわと香るのは金時の匂いと僅かなアルコールの香り。
女を抱いた手で触るな、と言った時からシャワーをきっちり浴びてくるのか
シャンプーと汗の香りが僅かに残るのみになった。アルコールは飲んじゃうから
ごめんね、と言われ、肩を竦めて譲渡した。
不特定多数の女性を相手にする仕事だとはわかっていても、そこだけは譲れないとばかりに
噛み付いた自分に、はいはいと言いながら嬉しそうに見えない首輪をした金時を忘れない。

かさりと紙袋がなったのを耳にしたとき僅かに体を揺らしてその腕から逃れた。
その手にむぅと唇を尖らせた金時は幼く見えて思わず噴出してしまう。


出会った当初はあまり見せてくれなかった、こういう表情の変化に少しだけ嬉しくなって
撫でてやれば、すぐに復活した金時の表情は柔らかくなった。



「ねぇ、何作ってたの、今日は?」

ふんふんとケーキのときみたいに鼻を鳴らす金時の頭を撫でながら、本当に犬みてーだな
と呟きながら、「ちょっと遅いけど、鶏肉うどん」と告げるとぱっと顔を上げた金時は
「腹減ってたんだよなー」と嬉しそうに台所へ入っていく。

その背に呆気にとられるようにして見送ってしまうと慌てて台所へいけば
うどんの汁が作られたなべには一人分には多すぎて、用意されたうどんも
一人では多い量だったりして。


「腹減ってたから…」

「・・・やっぱり金さんの家じゃねぇの?」

ここに俺が来ることを見越してた?と嬉しそうな金時の呟きに頬に熱が集中するのを
抑えきれずに「待ってなくたって帰ってくるじゃねーか」と自分の声とは思えない小さな声が漏れた。


此間のケーキは、結局ベッドの上で文字通り自分ごと食された。
誕生日だと聞いたので、慌てて悪戦苦闘しながらオーブンでケーキを焼いたのだが
とてもみれたものではない代物だった。しかし、全部食べた金時に感慨を覚えた。
しかしそのときされた口付けが甘くはなく、しょっぱくて苦いものだったから
負けず嫌いの自分は立ち上がったのだ。

料理好きの同僚に料理本を貸してもらい、一人暮らしをしてから
初めての自炊に結構はまってしまっているという状況だ。

『だけど、珍しいッスね。土方班長が料理なんて』


本を貸してくれた同僚にそういわれ、うまく誤魔化せたかどうかは分からない。
ただ自分の行動は珍しいものであるらしい。そう自分で気づかないほどの
珍しいことに気づかずにいる。
そしてそれがフツーになっていることをこういった他人から認識させられるのだ。



いつの間にかそれが習慣になっているようにしっかりと根付いて。




**


狭いベッドの上で腕に抱きしめられて長く口付けられている。
髪の毛に絡む指が柔らかくて思わずくすぐったくて肩を震わせるとクスと笑みを差し向けられた。


「プルプルしてて、可愛いんだけどォ…」

「…っん、…は…くすぐっ、い…」


そう熱に潤んだ瞳で睨みつければ余計に火を付けてしまったようだった。
散々搾り取られ肉華は赤く爛れ閉じられず、先ほどまで受け入れていた熱を
誘うように収縮するのを感じて太腿を擦り合わせると、口付けを解かれて髪の毛を
かきあげる姿は一匹の肉食獣のようだった。
味は薄いながらも深夜にもかかわらず、うどんを啜った二人だったが、
腹が満たされると、心も満たされたくなるものだ。
容易く欲情する金時に自分も胸を焦がした。先ほどまで贈り物らしき紙袋が
気になったというのに。
自分の単純さに僅かに眉を潜めてしまう。

でも明日は仕事だから一回だからなっと後ずさりしつつ、元気な金色の獣は
「大丈夫大丈夫〜すぐ寝かしてあげるからァ」と気楽に笑って飛びかかってきたのだった。


それから焦らされ焦らされやっとのことで互いに濃く長い一回を終えた後だった。
焦らされ続けたせいで身体は溶けるようにまだ熱いままだし、痺れるような充足感は
いつもよりも深い気がする。断定した回数が不平らしい。


かといってこれ以上貪られたら、明日の仕事に支障が出るということで大きく息を吐いて
目を閉じようとした時、ふと鼻先に先ほどの紙袋を突きつけられる。


「…ちょ、…何、…?」

プレゼント自慢かよ、と口付けで蕩けた瞳でジッと見つめれば、くすりと笑って
「じゃーん☆」と効果付きでプレゼント、と差し出された。
客からの贈り物かと思ったそれは、自分へのプレゼントだったわけで。それに先ほどまでの
切ない気持ちを霧散させてしまう。
紙袋にしみ込んだのは女物の化粧品の匂いで、手を伸ばして紙袋をひったくれば
入っていたのは箱に包まれた一本の…。


「マニキュア…?」

「そ。限定色でさァ、そういうのって凄いのなー女の子たちが店で並んで…」


「じゃなくって…っ、なんで、俺に?」


似合うものを付けてほしいからに決まってるシィ、と笑みとともに呟かれてそれ以上二の句が
続けられない。ともかく金時とは話が噛み合わないらしい。
下着のみを付けて袋に戻し、枕元において布団を被ろうとすると、その手首をがしっと掴まれて仰向けに転がされてしまう。

それに驚いて見上げると笑う金時の顔が傍にあった。


「…つけてみてよ」

(あ、…やな予感…)

「男がそんなの付けてたら、…変だって思う奴がいるかもしれねーし」

明日は仕事なんだ、と再び布団を被るようにすれば、その手を放して布団に埋まる
自分を尊重しようというらしい。眠りに落ちる、逆らわずに訪れる瞬間が
その目元に浮かんでくる。
ベッドから離れ戻ってきた金時の手には何かが握られており、それを確認しようと
僅かに瞼を開けようとしたものの直ぐに眠りの波に浚われた。
ごそごそと動き出す金時に、何やってんだ、湯たんぽ。早くこっち来いよという声が
音として響いたかそれすらも確認できずにいて。




次の日の朝、いつもよりも寒く感じる12月中旬。
温かい頬に当たる人肌に触れて眠っていたらしい。ほとんど裸のような格好だったが
肩まで布団が掛けられ、すっぽり金時に抱きかかえられていたために寒くもなかった。
僅かに頬を銀時の胸へと擦りつけて熱を惜しむ。

腕を解いて伸びをすれば、目覚ましを切り、ベッドから降りようとしたその時だった。


「…え!…、…こ、…のっ馬鹿…っ!」


ベッドから降ろされた両足の爪に塗られていたのは、先ほど寝る前に差し出された
ネイルで、しかも先端に行けばいくほどグラデーションがかかり先端にはラメの
ネイルが塗られていた。
器用な金時ならではの見事なネイルアートで、先端もやすりで綺麗に磨かれていた。
よく見るとグラデーションがかかっているそこには、手描きらしくフリーハンドで波になっており。
微妙なズレからこれはシールではないというのが容易に知れた。
思わず見惚れながらも、丁寧にマーキングされたことに気付く。

そこに指で触れると、マーキングした金時に触れたようで、その指に口付ける。


(こんなことされなくって、…俺は)




柔らかく腕に抱かれた、甘く溶かされた黄金色の夢に
身体中どこも彼の名前が刻まれているようで。


甘い物好きな金時の匂いが身体中から立つ気がして
思わず顔を赤らめた。

ベッドを揺らしても、こんな大きな声を出しても一向に起きない金時に
時刻が迫っていることに気づいて着替えをするためにシャワーを浴びる。

当然ネイルはそれでは落ちないとは分かっているが、念入りに湯をかけたりして
みながらも仕方ないのでその上から靴下を穿く。
しかし、起きない金時に焦れながらも、自分もこんなに細工までされて
気づかないなんて金時のことを悪くは言えない。
しかし疲れさせた原因は金時のせいだろうと軽く頭を叩いてやれば
「んん、…もォ、たべらんな…、」と意味不明の言葉を吐きながらも眠りの虜である。


しかしやられっぱなしは性に合わない。枕元の箱に再び納められたマニキュアを手にとるとニヤと笑った。




**



「ん…ん?」

左腕で湯たんぽ代わりにと抱きしめていた十四郎がいないため、ふと探すように
手が這うがやはりいなくて、それにしばらく頭が回らず暫くしてから
「今日は出勤かァ…」と残念そうに呟いてゴロンと反転する。
十四郎の指にはやはり似合っていて、自分の見る目はまだまだ衰えたもんじゃないと思う。
急ごしらえだったのであまり丁寧には出来なかった。

それに不平を言うわけにはいかないから。また今日の夜チャレンジするかなと考えて立ち上がる。
布団がそれにつられてずれて乾いた音を立てる。
もう太陽が高く上っている部屋は案外あたたかく光が入り、伸びをすると
催した尿意のために部屋を横切りトイレへと行けば、備え付けられた鏡に己が映る。


そこには。


「んん?…ふはっ、ははは…っ」

思わず笑ってしまう、こんな行動をした十四郎を今すぐ抱きしめたい。
本当になんて可愛い子なんだろう、と。
首から胸に斜めにマニキュアで「土方十四郎」と書かれていて。
細い刷毛では塗りにくかっただろうが、それにしても大きく書いたものだと思う。

警察署に乗り込んで十四郎を浚ってしまいたい気持ちを抑えつつ、
ジッと鏡を覗き込み、それから書かれた文字を指でなぞってそれからその指に
口付けた。

(書かれなくたって、もう…)




マーキングされたそこをジッと見つめながら、その色に十四郎を思う。
こんなことをされなくたって、いつのまにか心の名前は刻まれている。

それは除光液では消せない奥深くに。


ふと髪の毛から、十四郎が好んで吸っている煙草の香りがした。
それだけで彼のことが細胞にしみ込まされているのに。






互いの体にしみ込ませた香りとマーキングによって
彼らは互いに貪りあう。
心に書かれた、互いの名前によって甘い檻の中で二人。










**


その後。

自慢げにその状態で出勤した金時に、ケツアゴ新八の雷が落ちたのは言うまでもない…。