Open Door | ホスト金時×警察官土方

どうして、そんなに窓を大きく開けているの?
少女は、母に向かって言いました。
少し寒くなってきた夜、庭が見渡せる私の部屋の窓を開け放つのです。
そうして木の椅子に座り、ベッドに横になる私に絵本を読みながら決まって
そっと外を見つめるのです。




迷子を待っているのよ。
母は少女に言いました。
小さな男の子が、迷い込んでこないかしらって。
意味は分からないが、母の楽しそうな横顔にワクワクする気持ちを抑え切れませんでした。







それはそれは、影を探しに着た少年と少女のお話。





**










中国系のマフィアの事件は一応沈静化した。
連日マスコミに騒がれ、若者の間でも薬の乱用が社会現象になった。
結局根元の根絶とは行かず、全ては闇に包まれると思っていたが。
一応というのは、政治官僚と中国当局の一部が薬の運搬を裏でしていたことが発覚したのだ。
マスコミが連日騒ぎ、紙面は面白いように書き連ねられている。
そして捜査は2課に託され、自分たちが出来ることは終了したのだった。
燻る気持ちを抑えつつ、本部が解散しデスクに戻った。




「もう終わっちまいましたかィ?」
「総悟、今日本部の方に集合つったよなァ…」
ンで、そんなとこで寛いでんだと、自分のデスクにてお菓子を食べる姿に怒りが沸々と沸くも。
そのあっけらかんとした様子に気を削がれて肩を落とした。
「本部解散だってよ」そうとだけ、伝えるが相互も薄々分かっていたのだろう。
「そうですかィ」とだけ告げて付けっぱなしになったテレビに視線を向けた。
テレビは連日、同じように頭を下げる、偉い人間の寂しくなった頭を映している。




この国は、誇りを何かに変えてしまったらしい。
地位かそれとも金か。
それでも自分はこの国に飼われこの国に忠誠を誓った人間だ。
この国をこれ以上守ってなんになる?そうきかれたら自分は困ってしまうだろうか。
守っている国ごと潰れればいいな、と吐き捨てデスクへと鞄を持ち上げて荷物の整理をする。


近藤さんは警視庁に呼ばれ、とっつぁんと今回の事件の全貌を把握するために出かけている。
今日は直帰するだろうと、時間を見上げて立ち上がった。


投げやりでも自分もこの国に依存している。
この国で飯を食わせてもらい、仲間に入れてくれたこの場所も、そして。
あの甘党ホストに会えたのも、この国があるからで。




「あれ、今日はお帰りですかィ?」
「あァ、3日前から全く家に帰ってねぇんだ」
お先にな、と声をかけて横切ろうとすれば、「土方さーん」と呼ばれて振り返った。
ニヤリと笑った総悟の顔は暫くトラウマになるだろう、凶悪な笑みで。




「金色の鳥の旦那に宜しく伝えてくだせェ」
「……ッ、ハァアア??お前、何知って…ッ!?」
「咄嗟に嘘がつけねェ何ざ情けねェで、さァ」
そう意味深に笑う総悟に勝てず、踵を返して走り去る。
これ以上口から生まれ、人を貶める術しか持っていない総悟の猛攻に耐えられる筈もなかった。
それより自分が何を口走るかわから内というのもあったが。
もしかして何もかも知っているんじゃないか、と思いながらも問い質している時間はなく。
とりあえず帰ってそれから冷静に考えようと心に決めて職場を飛び出した。


家に帰れば冷静になれる時間も取れるだろうと。

すっかりもう秋が深まり、朝夕は上着がないと寒さが身に凍みるようになった。
ブルーグレーのマフラーを首に巻き、上着は風に浚われて靡く。


もう何ヶ月会っていない?
もう何ヶ月声を聞いていない?


この街には、あいつのことを忘れさせてくれるほど薄情には出来ていない。
あいつは有名なホストなのだから、駅前に出れば否応なしに看板が飛び込んでくる。
マンションに何度か立ち寄ってみようかと思ったが、一人で大きな部屋にいる勇気もなく、
ただ虚しいだけだと断じた。
(寒い、冷たい……、…寂しい)
そう胸に湧いた言葉に目を閉じる。
あいつと会うまでは一人だった。
しかし、こんな感情を覚えたのは、あいつと出会ってからだった。
煩わしいと思っていたそんな感情が胸を占める。それなのに自分を繋ぐ思いは暖かなものばかりで。
思い出すのは、そんな感情ばかりではないけれど。
メールも煩わしく来ていたが、最近はメールも全く来ていない。
忙しくしているんだろうという反面、やはり不安で。
怪我でもしているんじゃないかだとか。

動けなくなっているんじゃないかとか考えるのはそんなことばかりで。


気付けば最寄の駅までたどり着いてしまった。
煙草を買って帰ろう、なんてコンビニに寄ったまではいいが、この所本数が増えている。
(…スッキリするってのもあるかもしれないけどさァ)
身体に毒だよ、なんて自分と差ほどしか変わらないのに、偉そうにアドバイスをする金時に
反発するように煙草を銜える。
最早それは口寂しいというよりも癖のようなもので、やめる事は出来ない。
それでも金時の傍に居るとなんでか本数が少し減ったような気がする。
説教が面倒だったからではない。

(署内でも煙草を控えろという奴はいくらでもいるけど減らしたことはない)
それは、口寂しくないから。
煙草を探そうとまどろみながら手探りをすると口付けられ、食事の用意をするまめまめしい徹底振りにいつしか身体も胃も金時に作り変えられてしまったらしい。
其処まで考えて顔が耳まで赤くなってしまう。


でもこの思いがあるから、自分は生きていられると思った。
それは確信。







深夜近い夜のため、自部屋のあるアパートの辺りは街頭も少なく人通りもない。
頬の熱を冷ましながら、アパートを見上げる。
部屋の明かりはついていない。

事件が片付き、もしかして金時も戻ってくるのではと思っていた気持ちが萎んでいく。
勝手に関連付けた自分が間違いだったのか、それともやはり何かあったのか。


焦燥に駆られ、もどかしく階段を上って部屋の前まで行こうとすれば、部屋の前に座り込む男がいた。







「き、…んとき…?」
そう呼びかければ、伏せていた顔を上げて金髪の男がへらり、と笑って手を上げた。
まるで出会った時のようだと、漠然と思ってしまう。





あれは、雨の日。
ゴミ捨て場に蹲るようにして座るこいつを見つけた。
薄汚れていて、捨てられた犬のような顔をして。


でも差し出した手を拒んでいた。


人一倍人恋しいと思いながら、そのくせ人を怖がっていたあのときと同じように。


しかし、今は驚きと嬉しさ、そして不安などが入り混じって脚が進まない。
ギクシャクと視線を向けて、そのままの状態で動かない金時に身体の調子でも悪いのではないかと疑う。
外傷は取り合えず確認できず、足を懸命に金時へと向けると平静を装う。




「…、ンで部屋ン中に入ンねーんだよ」
いつもは勝手に入っているくせに、と言外に込めた言葉は次第に震える。
何か理由があるのか、と声に恐怖が混じってしまう。

自分の悪い癖だとは分かっているがそれは止められなくて。


何ヶ月会っていない?


声だって聞くのは久しぶりで、嬉しいのにそれを隠そうとして出来ない、気持ちが抑えられない。
すると金時は、ふと笑みを零して立ち上がる。

扉の前から少し離れ、ドアを指差す。




「だって、…十四郎に開けて貰っておかえり、って言ってもらわないと」
「……ッ」
その一心で俺が想像を絶するよりも酷い出来事を潜り抜けてきたのだとしたら。


この言葉にどんな意味が含まれているのだろう。


慌てて鞄の中から部屋の鍵を探す。
焦っているとその一瞬すらもどかしく感じてしまう。
ガチャガチャ、とキーホルダーも何もない鍵を取り出して鍵穴に差し込む。
捻って扉を開ける間の長い時間を、自分は暫く忘れないだろうと思う。
いつもは音が鳴らないように考慮する時間帯だと言うのに、そんなことも、もう気遣えなくて。
(早く、)
やっと鍵を回し、扉を開けば狭い玄関が見えた。

明かりも灯っていないままに背後にいた金時に飛びつかれる。




「ぅわ…ッ」
勢い余って狭い玄関によろめきながら入り込み、玄関に二人して座り込む。
明るい光の下で、じゃないけれどそれが幸いだと思える互いの顔。
二人とも必死にすがり付いて、その手に同時に笑う。


しかし一瞬後、どちらからともなく近づけた唇を合わせる。




その熱は、電話や気配を探るよりも確かなもの。
それは軽く合わされ、再び深く合わせられる。
口付けの合間に呼ばれる名前に、益々顔を向けられずにいると金時も同じような顔をして笑っていた。
眦に滲んでいるのは、恐らく俺と同じ。




「ちょっと会えねーだけで重症だな、俺ら」
泣いちゃったよ、と誤魔化すことなく鼻を啜る金時に、自分も同じような顔をしているんだろう。
それを誤魔化すように再び口付け、没頭するように金時の髪の毛に手を差し入れた。
口付けに唾液が絡まり、どちらのものか分からないものを嚥下した。
互いに赤い目をして、それでも見据えた眸は、ずっとこの胸のあった。













「おかえり、…金時」
「…ん、…ただいま。……十四郎」
万感の思いを込めて告げた言葉に答える言葉。
それは一人では為せない、相手がいるからこそ意味の為せる言葉。
それをこうしてまた言えた事に感謝をしつつ縋るように腕を回す。

背中を撫でつつ、他の部分も無事か見せろ、と泣き笑い呟けば、

無傷だったらっていう約束果たしていいの?と笑われた。


「上等だ、…」
そう挑発的に呟けば、同じように口端を吊り上げる銀時の笑みにぞくり、と背中が震えた。





二人の背後で扉が音を立てて閉まる。


それは外界から切り離されたようで、それでいて二人だけの世界になれたようなそんな気がした。













今、この世界は、二人だけのもの。














**













影を探しに着た迷子を、少女は引きとめようと影を隠しました。
兄弟もいて、家族もいるのにそれでも少年との出会いを無くしたくなくて。

閉じ込められた少年もいつしか、少女の本当に寂しさに触れました。


大人になんかなる必要はないよ。
さぁ、行こう?子供だけの国へ。

そう少年は、永遠の少年だったのでした。




















It is words of thanks to the people who waited "I'm home".