forgive | ホスト金時×警察官土方

「美味しい〜、有難う」
「ふふ、金時のために取り寄せたんだからね。沢山食べて」
綺麗に塗られた爪で抓まれたチョコレートを口に頬張って嬉しそうに笑う。
それだけで彼女達の視線を奪う価値がある。
自分はこの場所ではそうするように、そう演じるように買われている。


店の真ん中にはチョコレートファウンテンがチョコレートの泉としてその滑らかな水を湧き上がらせ、
周りに甘い香りを漂わせている。
マシュマロやフルーツがテーブルに置かれ、客が自由に口に出来るようになっている。







ソファに座って軽めのカクテルを飲んでいる振りをする彼女に近付けば
くすりと笑って二人にしか聞こえない声で話す。


「かーのじょ、金さん美味しいチョコレート食べたいんだけど?」
「…、今散々貰った」
「ヤキモチ?…此処にきても不快なもの見るだけだって、あんなに言ってたのにねェ?」
彼女と言うには些か乱暴な口振りで、長い黒髪をポニーテールに

一纏めした表情を俯きがちにしている。
その様子にクスクスと笑って隣へと陣取って俺は愉しそうに笑う。




「あー金ちゃーん。私からもチョコレート、えーいvv」
「あーん、ありがとな」
違うテーブルからもお客様が手を伸ばして自分の口へとチョコレートを入れる。
今日は何かのゲームかと思いながらも、そう言う日なのだからと言われてしまった。
店にチョコレートの香りが充満し、甘いものが苦手な彼女もそろそろ限界だろう。
香りの高いカクテルをチョイスしたけれど、其れも無駄だったようだ。




甘いものに依存している、とはよく言われる。
甘いものは裏切らないから。




「アイリッシュコーヒー持ってきて」
「…え?」
「ここのコーヒーはカクテルより格別だから」
金さんの奢り、と片目を閉じて顔色の悪い彼女を気遣うのか、

それとも温かいアルコールで酔わせる悪い男なのか。
サイフォン式のマシンで煎れるんだよォ、と店の自慢のように聞こえる言葉でさり気なく会話を続け、
気分が悪くなった彼女に会話をさせない。
返事を期待しない会話だからだ。
其れも自分の悪いところ?それとも。




数時間前、店が始まる前に”彼女”が現れたのは可笑しかった。
来たはいいもののどうしようか考えていなかったらしい。
マネージャーの好意でスタッフルームへと通されたものの何ともいい難い顔をしていた。
突然の登場に驚く俺と何を言ったらいいかわからない様子の彼女?
視線の邂逅に終止符を打ったのは俺の方だった。




『じゃあ、店ン中で俺のこと見張ってる?』
彼女、と付け加えれば綺麗な顔を歪めて、は?と言ったのが可愛かった。
そうそう、どんな顔でも可愛いんだから。







「トシ子ちゃーん、多少は嬉しそうにして。1が隣に座ってんだよォ?」
「だーれがトシ子ちゃんだ、こらァアア」
「えーだって、俺の”彼女”なんでしょ?」
綺麗にメイクされた顔できっと此方を睨んでくる視線に咽喉を震わせる。
普段はそのままでも構わないが、今日は折りしもバレンタイン。
(なにより、どさくさに紛れて俺じゃなくって、土方にチョコレート渡そうとする奴もいるかも知れねーし)
自分の独占欲だとは気付かずに、ふふんと笑う。
というわけで逃げようとする土方を捕まえて女装した挙句、一番目立つ場所へと引き摺り出した。
即ち俺の隣だ。
此間のように仕事ではないから幾分眉間が柔らかだ。
頬に唇を寄せるように小声で囁く。




「シィ、後30分。そしたらこっそりアウターしよ?…勿論その格好で」
「〜〜〜〜〜///!!!」
ちゅ、と音を立てていつもとは違う白粉の香りのする頬に口付ければ、その様子を伺っていた周りの
女性からは溜息と嫉妬の声が密やかに聞こえる。




「…金さん、彼女・…さん、嫌がってるじゃないですか」
そうアゴの…いやいや新八が追加の酒を持って現れる。
あからさまに俺がいやな顔をするので他のホストは近づけないのだ。
新八は正体も俺のことも良く知っているので損な役に回らざるを得ない。




「ねェねェ、新八も此処のシャドーパール系にして良かったと思うだろォ?」
さすが、金さん、センスイイ〜、なんていいながら目元や唇に触れていく。
わなわなと肩を震わせる土方は、声も出せず怒りを押し込めて。




「イ、…………ッ!!」
いるわけなかった。
冷静な振りして、好戦主義な土方が黙ってやられているわけはなかった。
ヒールのある靴で、革靴の俺の足の甲を踏みつけると痛みに声無き悲鳴を上げる俺に

自業自得だとばかりに
ふん、と鼻息を荒くする。
その様子にとばっちりはかなわないと酒を置いてそそくさと退散するアゴを尻目に見ながら卑怯もの、と呟く。




「30分も待たせる気か、甲斐性なし」
「え?」
「…もう待てねーんだよ、馬鹿ホスト」
そう不敵に笑う土方のぞくっとするような挑発的な笑みにいつまでもやられているのだ。
チョコレートのような甘い呟きではなく、それこそチョコレートと真逆の苦い煙草。
それなのに甘いものが好きな自分を黙らせるだけの破壊力。
クッ、と笑みを零すと立ち上がって恭しく手を差し出す。




「…では、お詫びに好きなところへお連れしようか?」
どこへでも、なんて小さく笑うと、その手を取ることなく立ち上がる彼女…いや、十四郎は咽喉を震わせる。




「早くこれが脱げるところなら何処でもいい」
「…くー、大胆だなァ」
「…、は?」
では、何処か二人になれる場所へ、と至極当然のことをいったはずの自分の発言の誤りに気付いていない十四郎の手を引いていく。
チョコレートカラーで染まる店内から抜け出す、……二人で。




「え、え、ちょっと金さん…ッ」
その引力に自分を留めて置けるものは何もない。
背後に慌てる新八の声を受けながら、戸惑うほかの客の声すらも制止能力を持たない。


この場所は、愉しくて綺麗で美しいけれど、生きる場所を与えてくれたけれど。
それだけでは、人は生きていけないのだ。場所と理由だけでは。
回廊を上がり扉の向こうへ。
我侭だという人もいるかもしれないけれど、この手は離せない。










「おい、いいのかよ、…店…」
お前の好きな甘いものだって沢山あったくせに、と詰るように呟かれて笑ってしまう。
最後まで詰るなんて本当に。




「いいってば、…俺はチョコレートよりも甘い十四郎を食べさせてもらうんだから」
「は、ぁあ?…だ、…れが、そんなこと」
「…早く、脱ぎたいなんて言葉で誘ってくれちゃってさァ」
金髪と黒髪の大柄のカップルは大変目立つだろう。
こそこそ話しているはずなのに、その会話の耳をそばだてているものが多いこの場所では何も出来ない。
構わず、連れ出したときに繋いだ手に力を込めると何時ものように振り払われず、逆に力を込められる。




「…全くお前って奴は、」
「許してくれるんでしょ?」
間髪いれずにそう話しかけてやれば、ルージュの乗った唇を擦った土方の唇を塞ぐ。
ちょうど通り掛った大きなトラックに隠された影で何が起こったか周りにはわからなかっただろう。
しかし、土方の顔を赤くすることには成功した。
ルージュの桜色よりも明るい顔。
一発ぐらい覚悟しとくかな、その顔に小さく笑って繋ぎ直す手。
それでも、離されない手に、二人で歩いていく。







この街が自分にとって、特別優しかったわけではない、そして特別冷たかったわけではない。
それでもこの存在に出会わせてくれた。
神様は人間を一人ずつ作った。


それはきっと特別な存在に巡り合わせるために。

自分で探すためだと信じたい。



















Meet you and thank for the place of the kite now.