kissing | ホスト金時×警察官土方

何回しても飽きない、貴方との口付けを。





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何でかこいつは口付ける時、目をあけたままだ。
キスをするときに目を瞑る法則でもあんの?とからかわれそうだ、こいつには。
それだから俺は必ず目を閉じる。
こいつの唇に負けて、溶かされた自分が
あいつの眼球に映るのを見るのは御免だから。
自分が口付け以外も欲しがってる媚びた目を向けるのが怖いから。


それに気づいているのなら、そんなに口付けるな。…金時。





珍しくあいつの店の近くで用事があったため、一緒に帰宅しようとメールを送れば数分後
あと少しで終わるから待っていて、という
短めの変哲もないメールが帰ってきた。




勝手知ったる何とやらで店の裏口から中へと入っていけば、ピアノの音が響き
もう夜半過ぎにも拘らず、多くの従業員が自分を何事かと見やり、
それから丁寧に挨拶される。それに「取り締まってるわけじゃねぇから」と伝え
店の奥まった一室へと入っていく。そこにはケツアゴの新八が待っていた。



「お久しぶりです、土方さん。…何か飲みますか?」
金時に何か言われているのだろう、従業員用のロッカールームの奥には座って話せるような小さなスペースがあり
そこに促されるとソファに座った。


廊下やフロアには人がいたのに、ここにはケツアゴと自分だけだと思って視線を上げれば首を振った。




「いや、いい。お前も仕事中だろ?適当にやってるから、気にすんな」

客じゃねェし、と付け加えれば、金時から何か言い含められているのか迷うような素振りを見せながらも
忙しいからか灰皿を目の前に置いて出ていった。
そして途端に静まり返った部屋の中、さすがホスト、気遣いの出来る新八の様子に
ポケットから煙草を取り出して銜えた。


時刻はすでに1時を回っていて。


自分は夜勤通しだったから、この時間の忙しさは分かっていて。
それでも俺はこの時間が酷く苦手だった。
余計な事ばかり考えて、ひどく惨めな気分になるからだ。



自分は困らせているんではないだろうか。金時を焦らせる事になっていんじゃないか。

待つことが出来ない、堪え性のない自分の悪い性格だと
言い切られてしまえばそれだけのもので。
それなのに自分は考えることを止めない。



俺は金時にどうしようもない思いを抱えている。
どうにかなっちまいそうなほど人を思うことが
こんなに苦しいと分かっていたなら
俺は金時と引き合わせた運命ってやつを呪うかも知れない。
でも、その苦しさに自分はどうしようもなく依存していることが
分かってるから何もいえない。




何気なく金時に私物の置かれたロッカーを眺めてしまう。
ロッカーにつけられたアザラシのマグネットは、水族館に行きたいと駄々を捏ねた
金時と昼間に初めて出かけた時に、買ってやったものだった。
その白とふわふわな手触りが気に入ってお土産にすれば、抱き抱えるほどの大きなアザラシのぬいぐるみを
お土産に貰った。流石に持って帰るの恥ずかしい、というと
俺がいない夜もちゃんと寝れますように、と言われて顔がかーと赤くなった。
付けられたマグネットはふわふわな手触りといい金時そのもので、そう選んだのがばれたのだと
気づいて恥ずかしいやら嬉しいやら、だったが。意地の悪い自分の性格が災いして
馬鹿な事を言うな、と憎まれ口を叩いてしまった。



しかし、そのアザラシのぬいぐるみはいつの間にか、自分のベッドの上が定位置になっている。
金時が来るたびに、金時の匂いがしみ込んだそれはいつしか俺が一人で寝るときに
傍にいる様な気がして安心して眠れる。




馬鹿ヤロ、…こんなに俺様に想われてうんともすんとも言わないのか。
古いソファがギシリと高い音を立ててどうしようもなく孤独を感じさせられた。
無駄に香水臭い部屋と慣れない場所に置いていかれた、そういった気分だった。


昨日も別れ際に口付けられた自分の唇を何気なく触れる。
頬に熱が集まり忽ち自分が情けない顔をしていることに気づいた。
金時との口付けはただ執拗に長いわけではない。
なのにぼう、と頭の芯が痺れて何も考えていられなくなる。
それが好きだった。
仕事のことも、何もかも金時との口付けの前では無意味に感じてしまう。
それなのに金時の顔は見られない。
それが即ち冒頭にあった、瞳を開いたまま俺に口付ける金時のせいだったりする。




あぁ、クソ。誰のせいでこうなってんだと思ってんだ。
イライラと金時のロッカーを睨みつけたまま何に苛立っているのかも分からないまま。

口付けは気持ちを高揚させ不安を取り除く。
けれど口付けが終わった後は必ず不安が
舞い戻るのだ。則ちプラスマイナスゼロではなく
マイナス一個分損をする。
あぁ、なんて理不尽な出来事だろう。





しばらくすると人の気配がして、控え室の扉が開いた。
賑やかでお気楽に声を掛けるのは原因の一因で。






「待たせちゃってごめんなー?…、……土方ァ?」


「…キスしろ、今すぐに」

立ち上がり、金時に視線を向けぬままにそう伝える己に目を見開く気配がする。
そして無駄な不安を抱えた自分の脳を溶かしてくれ、早く。



察しのいいこいつは全て分かった上で、俺を見るのだろうと
思ったら無性にムカついて掴み上げたい衝動を堪えて俯く。

暫くその場に縫い付けられたように、
俺を見つめる視線に耐え切れなくなって
顔を背けたまま逃げ出そうと足が半歩動きかけたその時、強く引き止められて目を瞬いた。
引き寄せられたまま相手を見上げると金時は静かに此方を見つめていた。



「十四郎、」



名を呼ばれ、肩を揺らし目を開くと案外近くに金時の顔があった。
不安よりも己の情欲まで引き出してしまう華やかな顔立ち。
くるくると表情が変わる金時の、真摯な顔を
見られるのも特権ではある。




口付けの最中も俺が金時に酔うように金時も俺に酔えばいい。





濡れた唇を何度も絡み合わせ、吐息や唾液も奪いつくす。
何度も何度も角度を変えて、その場に不安などという無粋なものが消え去るまで。







場所も時間もない口付けが続く。









I am your thing besides kissing time.