Miracle Cake【前】 | ホスト金時×警察官土方

*この作品は銀さん誕生日おめでとう2010年度版です。
 






誕生日おめでとう!!
貴方のために作ったケーキを召し上がれ。





**




「今日さァ、良い物見つけたから思わず買っちゃった」


そんな風にご機嫌な様子で金時は買い物袋から食材を取り出している過程でにんまり笑った。
その時から、少々嫌な予感がしていたのだが目は瞑っておいた。
まさか、このときの自分を後で罵りたくなるほど後悔するなんて思ってもみなかったから。







オフが重なったので家でゆっくりご飯でも食べようと金時が誘ったので
買い物を終えた金時が俺をアパートまで迎えに来たのだ。
今日の夕飯は?と他愛もなく聞けば急に寒くなってきたから生姜たっぷりの炊き込みご飯を
作った、なんて応えられて期待に胸が弾んだ。
料理上手な金時は、俺の体調管理も確りこなしているようだ。
買い物に出たのは、果物を探しに出たらしい。
相変わらず目立つ車だな、と思いながら眉を潜めてアパートの下に止められる車を眺めた。




「…此間のマンションと違う、な」
「そうそう、また入られちゃってねェ。最近防犯も煩いからさァ、管理人さんがちゃんといるところにね」
そういって地下の駐車場に止められたマンションは此間とは場所も違っていたので眸を瞬いてしまった。


相変わらず人気が高いのか、それともまたキナ臭いことを手伝っているのか検討も付かないが。
あの怪しげな中国訛りのオーナー共々繁盛していると言うことだ。
顔を途端に顰めて歩いていると、金時は僅かに苦笑を浮かべるだけだった。
買い物袋をぶら提げて、管理人へ挨拶し、オートロックのキーを打ち込む。
それからまた、最上階への入り口でもう一度キーを打ち込む徹底さに肩を竦めた。




「この先にどんな重要機密なものが保管してあるんだ?」
「…この先には、十四郎の事がスキでたまらないヤツがいるよ?」
「保管されてねーじゃねェか」
ねェ?と首を傾げて笑う金時の背中に付いて行きながら密かにこの辺りの警備の強化を決める。
ストーカーにしろ暴力団関係者の小競り合いにしろ起きてからではないと警察は動けないと思われている。
しかし、注視する事は出来るのだ。
ただその判断が後手に回さざるを得ないのは悔しいが認めるしかない。
沢山の犠牲の元にそれがあるのだとしたら、それはあまりよくないことなのだと思う。
未然に防げば、哀しむ人間は確実に減る。
しかし、警察は表立って動く事は出来ないという法律の縛りがある。
また難しい顔をして黙り込む俺に金時は、角の部屋へと足を進め、鍵を開けた。




「此間より手狭だけどねェ、まァ入って入って」
「…、………それは、嫌味か?」
進められ開けられた扉の内側には一人暮らし用とは思えない広い玄関が広がり、思わず呟いてしまった。
俺達サラリーマンがまともに働いて稼げる収入では一生お目にかかれないだろうモデルルーム並の
佇まいに相変わらず圧倒されてしまう。
しかし、相変わらず生活感がないのはどこも変わらないようだ。

電気が人の動きに反応してぽつぽつと付いていくに対し、

見えてくるダイニングキッチンは白基調で、広々としているが逆に人の気配がせず悲しくなる。


そこに無造作に置かれたエプロンを付けると、テーブルに買ったものを並べる金時が嬉しそうにしている
のを見て冒頭に戻る。


ともかくまァいつも幸せそうなヤツであるが、その顔がいつもよりもと言う注釈が付いていることを忘れてはいけなかった。
適当に椅子に座り、取り出されたものを何気なくみながら自分はまともに食事をしたのはいつ振りだろうと思う。
(…此間ガサ入った時、…近藤さんと食べた牛丼が…、…てかそれ1週間も前、か)
自分の思考に陥っていた為、ふと気付けば食卓へサラダスパゲティが盛られた皿が出されていて
「平気?」と覗き込まれていた。




「…ほん、とーにマメだな、って感心してたところだ」
「ふふー、好物件でショ?」
テーブルに置かれていく料理に頬杖を付きながら小さく嘆息すれば、こんな場所には似つかわしくない
漬物やお吸い物が盆に載せられて出てきたときには少し安心してしまった。
立ち上がってまだ運ぶもんがあるか?と伺うようにキッチンを覗き込めば(対面式になっている)ささっと
何かを金時が何かを隠したので、首を傾けながらも嫌な予感が的中した気がした。
そうでなくても警察としての職業上そういったことには敏感に察することが出来るように出来ている。




「………、何を隠した?」
「しょ、食後のデザートにと思ってさァ、…ま、冷めちゃうから早く食べよ?」
「……ふん、?」
確信はないが、何か隠したことは分かった。
それ以上追求すると、確かに何か嫌な予感がして追求の手を緩めてしまったのだった。
テーブルに並べられた食事が美味そうで、腹の虫が騒ぐので食べてからにしようと思ったのが運の尽きだった。
所狭しと並べられた食事の数々を見て「こんなに食えねーぞ!」と叫ぶのが精一杯だったから。
丸々と獲物を太らせてから食べようとしているように、一瞬光った金時の赤い眸には気付かなかった。
箸を取った俺は、そんな事にも気付かずに金時の食事に舌鼓を存分に打ったのだった。
火の通ったものを食べるのは美味い、とはいっても一人では食事をするのも億劫でどうしても
暖めたものや出来合いのものに頼ってしまう。
栄養価は確かに保たれているかもしれないが、味気がなくやはり腹に溜まらないような気がする。


金時と会う以前はそういったものを流し込むように腹に入れ、動いていたように思う。
全く、金時と出会ってこういうものに舌が慣らされてからというもの、出来合いの弁当などが美味しく感じられなくなった。
いや、以前も美味しいと思って食べていたのかそれすらも思い出せない。


『舌ってねェ、3ヶ月で馴らされるらしいよ?』
そういってクスクス笑う金時に、飲んでいたお茶を拭き出すとそのまま噎せて無言で睨みつける。
『美味しい物は特にね、その味に飼い慣らされちゃうの』
『テメーは、いちいちいやらしいんだよっ』
『…そんな事を思う十四郎のがよっぽどさァ、…やぁらしいんじゃね?』
そう溜め込まれて呟く言葉に反論は出来なかった。そのまま金時の舌を強引に味合わされて。
確かに金時の味に何処も彼処も慣らされてしまっている様だ、と眉を潜めた。




「…ナニ難しい顔してんの?辛かった?」
「…え?…あ、いやなんでもねェ」
どうやら回想に沈んでいたらしかった。覗き込む金時の視線に目を瞬き、再び箸を進めると金時は
釈然とはしていないのだろうが、それでも箸を進める。
仕事の話や時事の話、金時は疲れない程度深く聞かない程度に話を混ぜる。
此方は決して話し上手ではないが、気付けばいろんな事を話してしまっている気がする。
仕事の立場上決して話さないこともあるが、その事には触れずに金時は切り替えす。
それが彼の仕事たる所以なのだろうか。
途中から出されたビールも飲み、

ほろ酔い気分になりながらふと白い壁に掛かっているシンプルな時計を見つめ
「あ、」と声に出してしまった。




「ん?」
「あ、いや。お前、そろそろ誕生日だな、と思って」
「あァ、覚えててくれたんだ。嬉しい」
去年も一昨年も、ちゃんと祝ってくれてるもんね?と片目を閉じられ、その行為まで思い出してしまい顔に熱が集中する。
アホかっと反射的に怒鳴ってしまいながら、今年も当日には祝えないだろうと言う事は悟る。
職業上誕生日すらもその集客にはもってこいのイベントになるため、こいつは不本意かもしれないが店にとってはこのチャンスに逃してくれるわけがない。


ここぞとばかりに着飾った女性が金時の周りを取り囲む様子を想像し、少しだけムッツリと黙ってしまう。
ホストである金時の仕事であるのだから何も言えないのは分かっている。
こんな時素直になれない自分の性格がつくづく嫌になるが、それを掬い取るようにして金時は笑う。




「…誕生日覚えててくれただけでも嬉しい、…そうやって忘れないでいてくれるだけで」
「…金時」
「こうやって覚えておいて貰えば、…また…ッ」
「金時ッ!」
掌で顔を覆う、その仕草に大きな声で彼の名前を呼ぶ。金時の手は小刻みに震えていた。


明るく笑っていても、飯を作っていても彼に掬う恐怖は忘却だ。
金時は2年前、何もかも記憶を失った状態で路上に座り込んでいた。
その時はまだホストではなく、仕事をしている様子はなかった。
もし、明日また全てを忘れてしまっていたら、そう思う恐怖が心の中を占めている。
名を呼ばれハッとして、その仕草をとめて此方を見る金時の視線を受け止める。




漣の立たない瞳で、彼の縋るような眸を飲み込むようにする。
俺たちは互いに不完全な心を持ったまま生活している事に気付かされるのだ。
それは互いと言う存在に出会ったから。




「テメーみてーな奴、忘れられるかよ。…誕生日も…何もかも」
そういって缶ビールの缶を置くと、頷く金時の表情が少し晴れたのを見て肩を竦める。




ふと気付いたように、大分減った皿を見ながら、「何か欲しいもんでもあるのか?」と何気なく口にする。


その言葉を待っていたかのように、掌から顔を外して此方を見る金時の顔にさらに嫌な予感は増大。




もう引き返せないところに来ていると警察官である勘が告げたときには遅かった。
先ほどの表情を吹き飛ばすようなにんまりした猫のような表情に最早引き下がれない。
ナニを強請られるのかと、唾を飲み込む。
(…誕生日だからって何でも許されると思ったら大間違いだからな…ッ)
そう言いながらも、金時が俺に甘いように、俺も金時には大概甘い。
それが金時の特殊な嗜好を目覚めさせている事に他ならないのだが、其処には目を閉じておいた。
何か別な事を思い出してしまいそうだからだ。
そのように心にガードをしつつ、一応聞いてやろうという姿勢で金時を促せば、にんまり笑った金時は
じゃベッド行こう?と誘う。
…この流れも、まァ想定内だとばかりに頷けば、「片付けていくから先に風呂使って?」と促される。




いたってノーマルな言葉に先ほどの笑みはなんだったのかと思わせるほど普通で少し拍子抜けながらも、自分がかなり金時の特殊な嗜好に流されてしまっている事に気付かずにいた。