afterward | ホスト金時×警察官土方

連休明けはしんどい、なんていっている場合ではない。
家族サービスに努めるもの、一人身で特に予定が無かったもの平等に連休明けはやってくる。





「はァ、……」
大きく溜息をついて机にて伸びをするように大きく手を伸ばせば、署員は例に漏れず
全員気だるそうに連休の仕事に手を伸ばしている。
仕事に差異があるが、特に休みなどは無い職種にとっては連休は無いに等しい。
身体を伸ばせば付随して痛むところがあり、眉を潜めるものの其処だけは
誰に言うわけもいかない、俺は顔を顰めて連休明けと同じような顔をする。
いや、していたつもりだった。いつも悪戯を仕掛けてくる総悟に言わせればそうではなかったらしい。


「あれ、土方さん。連休じゃなかったくせに何に疲れてるんですかィ?」
「………、…ほっとけや」
そうなのだ、世間一般が連休と言う有様であろうが、自分達には関係が無い。
だから日曜であろうと祝日であろうと仕事があれば来ているのは当然である。
勿論それは、この腰から下肢にわたって鈍痛をもたらした人物にとってもそうであろう。





誕生日2日前。部屋にいた金時を迎えに来た眼鏡は、俺がいる事など構わずに金時を連れて行った。
誕生日になって一昨年前のように遅刻されても困るんですよ、と言った。
文句をありったけ言いながらもだいぶ予想していたのだろう。
金時は飯に未練を残しつつも立ち上がって着替えようとしたが、そのままでいいと掴まれた。
よっぽど信用が無いらしい状態に呆れながらも、あっけに取られてしまう。
眼鏡は、俺にやっと気づいたと言うように「騒がせてしまってすいません」と丁寧に謝った。
大の男がされる迎えの仕方じゃねーよな、なんて含み笑えば着の身着のままの金時が
忘れ物、と言いながら戻ってくる。
ワンフロアほぼ貸切のマンションで、扉の向こうに眼鏡を待たせているのだろう。





『…ゆっくりしていってね…』
『みんなお前のためにお祝いしてくれるんだからな、ブスっとしてんじゃねーぞ』
『…あー、心配しないで?…十四郎より素敵なプレゼントなんてねーから』
そうすると、触れるだけの口付けをして、片目を閉じる。
それがバッチリ嵌っていて、眉を潜めながら夜の行為を思い出してしまい、かーと頬に血を上らせてしまった。
眼鏡の焦れた声と俺の蹴り出す動作は同じだったらしい。
転がり出てきた金時に目を瞬きながらも、眼鏡は金時を回収していった。


その日は休みの日だったが、次の日は仕事だったためこうして世間一般では連休中であるが
出てきたのだったのだが。
勘のいい総悟には今日一日関わらない様にしよう、そう誓って溜まった書類に手を伸ばす。
出動以来が無い限り、事件が起こらない限り警察と言えどもデスクワークに追われる日もある。
刑事ドラマの派手な銃撃戦などはもっての他だ。
特に乱暴で傍若無人な破壊王がいるここ一課では、絶えず書類業務が合わさって激務である。
そんな破壊王は、俺を疑わしい目で見つめながらも何も聞き出せないと分かると椅子ごと身体を寄せてきた。





「…仕事しろよ、殆どお前の始末書だろーが」
「水臭いですねィ、こういう部下のフォローが土方さんの仕事でしょーが」
「総悟オオオ!!」
いきり立とうとして腰に鈍痛が走り、そんなことは出来なかった。
取り合えず手で追い払い何とか誤魔化せたとホッとしたのもつかの間、爆弾を投下させた。


すん、と鼻を寄せた総悟が匂いを嗅ぐように視線を此方へと向ける。





「…なんか、甘い匂いがしやせんかィ?おっかしーなァ、甘いもの苦手じゃなかったですかィ?」
「……………、」
疲れを取るために多少は摂取してんだよ、そう言葉を用意してきたのだが何も言えなかった。
思わず黙り込む俺に総悟はニタリと笑って自分の席に戻っていった。
(…厄日、だ…)


甘い香の原因の金髪を思い切り脳内で罵った後仕事に没頭する事にした。













部屋から連行され誕生日の2日前だと言うのに店にいる様に言い渡された。
昨年は前日に逃亡、一昨年前は遅刻とすれば店としてはやきもきもするだろうと大人しく掴まったが
帰れないと分かるとひらすら車の中で落胆していた。




「っていうかケータイぐらいは返してくれるんで、しょ…?」
中々マンションの部屋から出てこなかった俺に怒っているらしい新八に恐る恐る聞く。
マンションから出てきた俺から携帯を没収するとそのまま無言でステアリングを握っている新八を
覗き込む。


「…新八くーん?」
「オーナーから伝言で携帯電話、そのほか通信機器一切は預からせてもらいます。
それと誕生日前後は店に泊まって下さい」
「えええ!なにそれ、ナニソレェエエ!」
「仕事に集中しろってことですよ、年1回の事じゃないですか、我慢して下さい」
ってむしろ感謝しろ、そう信号で止まった車の中で睨まれれば「…ハイ」と頷くしかない。
でも携帯って酷くね?と呟けば、携帯を見に行って控え室から出てこないとかするからです、とぴしゃりと言われてしまった。
それに黙り込めば、朝の明るい都内を走る車の中から車道を眺め目を細める。
上下スエットでBMWの後部座席で微かに伸びをする。
(…今日は休みといっていたけれど明日仕事になるかなァ…)




折りしも誕生日は、きっとテメーも仕事だろうからと休みを取らなかったらしい。
その前々日に実は休みを取ってあったなんて、可愛い恋人らしいプレゼントの仕方だ。
あの場で気づいたような演技も気づいていたけれど、誕生日を思い出したように演技をする恋人の
可愛い仕掛けに思わず唇が緩みそうになって、欠伸をするような仕草をする。
自分は本当に何もなくなってしまっていたから、こうして一つずつ思い出が増えていくのは嬉しい。
どうして何も記憶していなかったのかは分からない。
残されていたものは本当に何も無かった。身分を証明するようなものを身に付けていなかったから。
辛うじて名前だけは言えたが、土方が問い合わせた管轄の行方不明者リストには照合されず、
死亡推定者リストにも記載されていなかったらしい。
過去の事を考えようとすると全て霞がかったようにしか感じられないのは何故か。
自分が何をしてきたのか、何をしようとしていたのか分からない。
(………、……ッ)
考えても浮かばないことに頭を悩ませているのは不毛だと土方は言ってくれた。
これからお前が何を為すのかが大切なんじゃねーか、と。
考えなくてもきっと思い出すさ、と少し寂しそうに笑う土方は、記憶とともに俺がいなくなる事を
少しは恐れてくれているようだ。
まるでマザーグースの歌のようだと、と土方はその旋律を唄う。


また考えに沈みこみそうになって首を振れば、もう店の付近まで来ている事を知る。
まだ連休前ですからね、それほど混んでないんでしょう、そう言いながら静かに車を走らせる新八に
感心なさそうに生返事をする。


「…よく土方さんもケーキなんかに付き合ってくれましたよねェ?」
「へ?」
甘いものが苦手そうなのに、そう唐突に言われ目を瞬きながら、ミラー越しに新八を伺えば逆に驚いたように眼鏡の内側の
瞳を何度も瞬いている。




「いや、だってその甘い匂いはケーキを食べてお祝いしたんでしょーが」
今更隠さなくたって、オーナー共々お見通しですからねと続く言葉が耳に入らなかった。
身体に染み付く甘い香は、確かに誕生日のケーキを食べた時のものに違いない。
しかし、染み付くほどの甘い香は全身から漂っているように感じる。
もちろん全身を使って食べたからに他ならないが。
ってことは、土方の方にも甘い香が移っているはず、というより寧ろ向こうのほうが甘い香がしているかも。
その可能性に至り、今度は笑みを殺しきれず唇を緩めてしまうと「気持ち悪いですよ」とすかさず突込みが入る。


「なァなァ、そんなに甘い匂いする?」
「え、ええ。何個位食べたんですか?今から店でも沢山食べるでしょうに」
とっても甘いケーキを一個だけ、そう口にはせずに口端を吊り上げると店の前に車を止めた新八は
呆れたように肩を竦める。





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互いに甘い香を身に纏って、違う場所にいたとしても。
その心は通じ合っている。
言葉は無くても、その甘い香は互いの気持ちを伝えているから。