ビューティフル・ライフ(15禁) | ホスト金時×警察官土方

マンションまでの足取りはとても重いのは、今日の気分のせいかもしれない。
まずは店に出た途端、嫌な客に絡まれた上にその客の彼氏とか言う奴に殴られた。
すぐに騒ぎは治まったが、気分が悪い事は続くもんだ。


ツキは回ってこないまま、朝方の新宿を歩く。
アルコールが入って少しは気分が上昇したものの、これ以上飲むと悪酔いしそうだ。
朝焼けが目の奥に突き刺さるようで、思わず眉を潜めると同じように千鳥足で歩いてくるオッサンが驚いたように道を開けた。
そんな怖い顔してるかねェ、なんて横のショーウィンドウを見れば、酷く荒れていた。
顔が商売の仕事なのにネ、そんな風に自虐的な笑みしか出てこない。
いつもは酔わない量でアルコールに酔っているのかもしれない、そう呟いて歩き出した。
マンションまでたどり着けば、カーテンがきちんと閉まっているのが朝焼けに染まる外からでも確認できて。
少しだけ気分が向上する、なんて思っていたら。




「…、雨………?」
マンションから距離にしてそれほど離れていないが、急に降り出した雨はザァザァと本降りになっていく。
そのためあっという間に濡れ鼠になり、ツイていない夜の最後を締めくくった。
(カーテン、開け忘れとかそーいうの笑えない……)


管理人室の横を通り、警備の人の眠そうな挨拶を受けるとフロアに上がるエレベーターに乗り込んでいく。
厳重な門番の居るマンションであれど、もしかしたらすぐに引き払うことになるのかもしれない。
髪から零れ落ちる滴を拭いながら、照らされていく文字盤を眺める。


だから、場所や物には執着しない。…筈だった。
フロアに到着する時も、小さな音でポンと電子音が鳴って扉が開いた。
底から廊下は絨毯が敷かれ、どこかホテルの内装を思わせる優しいフットライトが照らし出す。
まず、一個人の持ち物とは思えないその重厚さにも特に気をとられる事はない。
ワンフロア全てが、俺の持ち物という事になるが、店が借りて俺に貸し与えられたものだから執着もないのも同然だった。
カードを翳し、部屋へと入れば、明かりがつき玄関に来訪者が居る事を教えてくれる。




見慣れた靴は。


それを見た瞬間、慌てふためくように靴を脱ぎ散らかし人の気配を感知し明かりがついていく、それに導かれるように奥へと進めば。




「…十四郎、………」
「ん、………」
白いソファに凭れるようにしてワイシャツ姿の十四郎が腕を組んだ状態で眠っていた。
つけっぱなしのテレビからは、今日も賑やかく朝のワイドショー番組が始まっており、何時に来たのかわからないが長い時間其処にいたのだと教えてくれる。
光を吸収する遮光カーテン、音を消し去る消音の部屋。
それでもこの部屋からなくならない温もりは、この存在の傍にあると気づいてしまったら、もう。


傍に座ってゆっくりと額を撫でれば、その仕草にゆっくりと目を開ける土方の様子にふと笑む。
空っぽになりつつあった心が充たされていくのが、ただただ心に沁みて気づく。
額に少し汗をかいているのを可愛いと擦れば、なにいってんだ?と言わんばかりに顰めた顔。
全く寝起きが良くない十四郎に、何度起こしてキレられ殴られたかわからない。




「…、おはよ。…そんで、ただいま」
「ん。…おはよう。…お帰り、金時」
疲れてる?と首を傾げて聞けば、そっと両腕を伸ばされて背に回された。
その仕草に自然身体を近づけることになりながらゆっくりと土方の温もりに浸るように目を閉じる。
こんな場所で寝こけている様子からひどく疲れているんだろうと予想できる。
仕事の擦れ違いで、そう言えばここ数週間顔すら見ていなかった。
十四郎のアパートへ行くこともあるが、明りが消されたアパートの部屋に暫く視線を向けた後帰ることが多かった。
困らせたくなくて、そんな風に思いながら自分の思いが十四郎を困らせていることを想像する。
ただ傍にいることを願っていただけなのに、この思いには果てがない。
困ったように小さく笑みを刻めば、それが見えていたわけではないだろうに十四郎は顔を上げて此方を覗きこむ。
それからそっと背を撫でるように軽く叩かれて、「ばーか」と小さく呟く声が聞こえた。


「……何いってんだ。金時、…お前の方が何かあったって顔してんじゃねーか、…」
「…十四郎、…?」
低く笑いながら、ひでェツラ、そんな風に言いながら頬を撫でられて顔を擦りつけられる。
その優しい仕草に、心に沈んでいた澱が霧散するのを感じた。
小さく笑ってしまいながら肩を竦めれば、顔を見せぬよう胸元に顔を埋めてしまう。




「…商売道具取らないでよ」
「テメーのその浅ェ道具何ざ、たかが知れてるつーんだよ」
「酷ッ」
顔を上げて十四郎を見れば、少し切なそうに向けるその眸に言葉を奪われ、そして心も奪われる。
仕事の話をするとき、少しだけそういう眸をする十四郎は仕事だから仕方ないと言い聞かせながらも酷く素直に見える。
強請ってくれたらいいのにね、そんな風に呟くものの十四郎を心得ていたのか、その耳に最大級のおねだりを。
吐息とともに落とされた言葉が、言葉として刻まれる前に音を立てて唇を唇に重ねる。
朝のニュースがどんなに酷いものであっても、二人だけの空間に切り離された場所では、二人が紡ぐ音しか聞こえなかった。






「…ッあァ、…ッふ、…ッゥ……ッ…ッ」
「ココ、気持ちイイ?」
聞くな、という意味なのか顔を真っ赤にして首を振る十四郎の色香に酔うように切っ先を擦りつけるように突き上げる。
途端、酸欠になったように喉を鳴らして体を硬直させた身体を抱きしめると大きく息を吐き出した。
それなのに柔らかく、俺の熱を受け入れた場所が締めつけるように蠢くのを眉を顰めて息を飲んだ。
ソファに座る俺を跨ぐように腰を擦りつけるのを眉を顰めて見上げれば、抱きしめるように後頭部に腕を回された。


そのままゆっくり後頭部を撫でられ、慰め癒そうとした自分の方が癒されていることに気付いた。
包み込むように柔らかく、突き放さないこの存在にいつも、自分は。
下から腰を突き上げると、背を柔らかく撓らせて「あ、あ、あ…ッ」と切羽詰まった声を出して身体を跳ねさせる様子が愛しい。
性急気味に身体を繋げたというのに、小さく息を飲む十四郎は拒みもせずに包み込んでいく。




「きん、と、き…ッ、きんと、き………ッ!…ィイ…ッ」
「とうしろ、…ッ、………ッ俺も、…ん」
キスを、そんな風に強請れば上から落とされるキスは、柔らかく降る、スイートレイン。
暖かくて、誰の上でも降る雨しかなかった俺に、俺だけにしか降らない雨が降る。
溶ける、呟いたのはどちらか分からなかった。
もしかしたら、どちらもが呟いた言葉だったのかもしれない。
弾ける白い光に包まれて、それでも互いに離さないのは、心の中にある、真実なのかもしれない。


並んでベッドに横になっていると、隣で寝ている十四郎が僅かに身動ぎして覗きこんだ。
半身を起して、十四郎の顔を見ていた俺は眼を瞬きながらも、もう一度朝の挨拶をした。
眠たい眼を擦りながら十四郎は、口端を吊り上げる。


「…ちったーマシな顔になったな、…ちょ、…ッ」
バフッ、と布団へ再び引き摺り込むと、驚いたような十四郎に再び柔らかい口付けを。
唇を吸うように、それから唇を舐めて、舌を絡めるように。
朝の陽ざしに照らされる白いシーツの中では、二人。




「…ん、…………ッ」
「…、んん」
昨夜、突然降りだした雨はこの温かな存在が全て拭いさってくれたのだと、何処か知っていて。
飽くなき口付けは、暫く互いの身体中から消えない程多く降り注いだ。
それは昨夜降った雨を軽く塗り替える、そんな優しい雨が降り注ぐ。


雨が作った海で、二人一緒に溺れようか。
そんな風に嘯いて、十四郎を覗きこめば何バカなことを言ってんだ、なんて怒りながらも、その唇は優しくて。




再び互いの唇に落ちる口付けに、しばしこのまま世間から切り離された空間で二人でいることを願う。





いつだって、明日へ進ませてくれるのは。