time(15禁) | ホスト金時×警察官土方

愛しい君よ、君に変わる人は他には。

最近、どうも寝ていない日が続いていた。
熱帯夜が続いているというのもあるかもしれない。
どうせうちのオンボロアパートのクーラーは効きが悪いから、熱帯ではない日であっても暑い。
それでも何とはなしに毎年過ぎてしまうのは、身体が慣れてきているのかもしれない。
仕事も、同じく佳境に入っても忙しさに慣れており、あまり眠らなくても平気だと思っていた。
とはいっても年々寄る年には適わないから、回復するのに深い眠りを必要とする時間は長くなる。
大きな案件が一つ片付き、後は署内で書類整理だと思った矢先だった。
グラグラと視界が揺れて、軽い目眩に目を瞬く。

「…、大丈夫かァ、トシ?」
「……なんでもねェ、それより早く、」
「トシは、署に戻ったら帰る事。で、明日はオフな」
左隣を歩いていた近藤さんに、そんなことを言われ眼を僅かに見開いてしまった。
その隣を歩いていた総悟も此方を見ながら、ケケケと笑う。

「鏡で見てくだせェ、アンタ、酷い顔してやすぜ?」
旦那も100年の恋から呪縛が解けちまいやすぜ、と俺にしかわからない小声で呟くのに眉を顰めてしまう。
しかし、先ほどから度々眼球の奥の部分が僅かに痛むのに、これ以上い続けても迷惑をかけるだけだと素直に近藤さん頭を下げた。

「…すまねェ、」
「いいって。そうじゃなくても最近連勤続きで無理させちまったからなァ」
片付けなければならない仕事を頭の中に反芻させても、ただグラグラと頭の芯が痺れるようになるだけだ。
これは、近藤さんの言葉に甘えたほうがいいかもしれない。
署に戻って荷物を纏めると、少し早めに退社した。
帰り支度をしながら携帯を何気なく見れば、メールが一件届いていた事を思い出した。
しかし、携帯を取り出すことも億劫で、何とかスーツの上着だけは脱ぐ事は出来たが、途端に襲った眩暈に目が開けられなくなる。
「…ットシ…ッ」
焦ったような近藤さんの声が耳に届いたが、後は何にも覚えていない。
ただ身体を襲った衝撃は、思ったより軽く済んだのは、幸いだと思ったことぐらいで。

少しの間だけ夢を見ていた。
そう、まだ金時と出会う前の事。
仕事に没頭し、アパートに帰ることもままならない俺に、あの人は切なげに眸を向けてくるものの何も言わなかった。
その眸から逃れるために更に仕事に没頭していた気がする。
叱ってくれれば良かった、構って欲しいと縋ってくれれば良かった。
そう思いながらも決して口にはしない、その人に甘えていたのは寧ろ自分の方だったのだ。
最後に見たのは、聖母の如く微笑む彼女の顔と、俺を責めることなく唇を噛む総悟の顔。
絶望が胸の内に広がり、それでも尚且つ己の保身の為にしか働かなかった自分に絶望したのだ。


「………、ん……?」
床の硬質な感触はいつの間にかなくなって、柔らかい感触と洗いざらしのシーツの香りが鼻を掠める。
それに少しだけ頬を擦り合わせ心地よさに再び眠りの波へ誘い込まれそうになって、ふと目を見開く。
俺は署内で意識を失った筈で、なのにこの感触はおかしい。
誰か気を回して署内の救護室へ運び込んでくれたのだろうか、しかしこの柔らかさと広さは。

「…お、目が覚めた?どっか気持ち悪……、」
「…、き、んとき……」
視界一杯に広がる金色に、赤が混じる不思議なアーモンド色の眸は心配げに眇められる。
コイツが入るって事は、コイツが所有するあの広いマンションで、此処は寝室だという事は分かる。
でもどうして、と視線を向ければ肩を竦めた金時がぎしり、とベッドを揺らして俺が寝る傍に腰掛ける。

「…言ったでショ?俺は土方のモノなんだから、何でも分かるって」
最近帰って来てねーみてーだし、アパート寄っても飯も減ってないし、と続けるアホホストはストーカーまがいに俺の部屋に入り浸る。
住民の俺ですら知らないご近所事情ってヤツを、俺より詳しく知っていたりする。
視線の合うご近所の主婦たちになんて思われているか、色々不安だ。
俺があの時、雨の中、コイツと出会わなかったら、コイツはどうしていたんだろう。
俺よりもいい飼い主が現れたんじゃないだろうか、とかそもそも男なのもおかしいとか。
余計な事を考えてしまうのも、ただの疲れのせいなのだろうか、それとも。
さっき見た夢のせいなのかもしれない、感傷的になってしまうのは。
黙り込む俺に、金時はベッドを軋ませて顔を寄せる、顔を覗きこんでゆっくりと包み込むように大きな掌を頬に押し当てて。

「…何でも、分かるなら…、俺が欲しいのも分かるのかよ」
「ん、…勿論。たっぷり注ぎ込んであげる」
その言葉に、お前が欲しいだけじゃねーのかと笑おうとして見上げた金時の顔が妙に真剣で笑えなかった。
頬に触れた掌はそのままに寄せられた唇が、熱く俺の唇を捕らえていく。
それに俺は身体の疲れよりも、何よりコイツの熱に飢えていた事に気付かされるのだった。
いつの間にか着替えさせられていた部屋着を脱がされ、程よく空調の聞いた室内に真新しいシーツが少し冷たくて震える。
お前は何もしないでもイイよ、そんな風に言った金時に足を掬い取られて、足先に口付けられれば何もつけていない下腹部が震えてしまった。

「…ッ、くすぐって、……ッ」
「…くすぐったいだけェ?…指先ってさァ、神経集中してるから…、敏感にならない?」
足元からクスクスと笑う金時の声が聞こえ、それにすら煽られながらも気付かない振りをする。
金時を覗き込めば必然的に自分の下半身に視線を向けることになるからだ。
じゅ、と生暖かい感触と共に水音が響き、むず痒さが背筋を駆け上がる。
くすぐったくてむず痒いだけだと思っていた感覚が、違う感覚と摩り替わるのに時間は掛からなかった。
僅かに腰を震わせれば、金時の目の前で隠しようもない身体の変化にいち早く金時は気が付いた。

「…心配かけさせた御詫び、してくれるよね?」
ゆるりと吊り上がる金時の唇を見た瞬間、どうして此処に連れてこられたのかを悟る事になった。
じんわり注がれるように全身に落とされたキスは、優しくもじれったくて何度も身体を捩るもキス以外何もされない。

「ふ、ぁ…ッ、…ッんん…ッ金、時……」
「…大分顔色良くなった。…なぁに、十四郎?」
分かっているくせに、と歯噛みしたい気持ちで眉を顰めれば、性質の悪い笑みを浮かべた金時はドンペリを開けさせる極上の笑みを形作る。
そういうときの金時はとても意地が悪い。
反応をしていた乳首に指を引っ掛けられ、突付かれると全身が既に昂ぶっていたため思わず息を吸って咽喉を鳴らす。
益々金時の目の前で固く尖りきっているんだろう乳首に視線を向けられずに眼を閉じればクスクスと笑う声。

「此処よりも、こっちも可愛がって欲しそうだよね?」
「…ッぁあ…ッ、何でも、…わ、かるって…ッ!」
「分かってるけど、確認?みたいな」
「性悪……ッ、…ァア…ッ」
口付けが全身に施されて、その度に何度も縋るように何度も手を伸ばすけれど、それでも金時はキスを止めない。
不意に伸び上がった金時が唇に唇を合わせ、それから深まっていく、そんな口付けをする。
金時の熱に焼かれるというよりも包み込むようなそんな暖かさを感じて眼を閉じてしまう。
しかし、そんな優しい口付けですら、全身が火傷したいみたいに熱くなっていくのが分かる、分かっているくせに。
霞む思考でコイツの本当の目的を知る。
もしかして、金時はこの手を待ってたんじゃないのか。
一人雨に濡れながら、手を伸ばして待っていたのと同じように、…俺から伸ばされる手を。
習い癖のようになっている仕事で、我慢してしまう事。
体調が悪くても、ほぼ我慢してしまう事。
それをどこか、金時は気付いていたのかもしれない。
それなのに、それを指摘せず俺から言い出すのを待っていたんじゃないのか。
もうこの手がないと、俺は生きている価値がない、そういって憚らない金時が俺の言葉を待っているということは。

「…も、ぅ、早く………、…ッ」
「…早く、…何?」
「…金、時、…でいっぱいに、しろ……ッ、…、ァ…ッ」
俺が言葉を言い終わったか否かで、下腹部に感じた熱は俺の身体で燻っていた熱を押し流すもので。
それに縋るように金時の背に腕を回すと、金時はゆっくり唇を緩めると再び口付けを唇に落として、それからは。
腰に来るようなそんな激しい波に浚われるように、熱に翻弄されていく。
そんな金時に縋りつくように腕に力を込めれば、薄明るく白く閉ざされていく俺の視界で金時は笑った気がした。
それは、此方も笑みを浮かべてしまいそうな幸せな顔で。






体調が悪いというのに、無理をさせられた(無理をさせたのは俺か?)ため、再びベッドへ逆戻りを強いられてしまった。
それなのに原因の一旦である金時は、「ゆっくり休めるチャンスじゃない」と綽々とした表情で此方を見やった。
もしかしてこれを狙ってたのか、と言わんばかりの痺れ、あらぬところが痛む身体に言葉も出ない。
ゆっくりと痛む身体を抑えて手を伸ばせば、その手を取られて、指先に口付けられた。
自然なそのやり取りは、金時がホストという職業柄か堂に入っていてチクリと何処か痛む。
だから不意に金時を見上げて毀れた言葉は、何処かいつも聞けなかった本音。

「お前は俺でよかったの、か?」
「何言ってんの。…俺を拾ってくれたのが十四郎じゃなかったら、…いや無理やりにでもお前に拾ってもらうわ」
「悪徳商法かよ、テメーは」
そういって笑った金時の眸は笑っていなくて、寂しげに細められたけれどそれには気付かないふりをして。
そっと両腕を回して力を込めれば、その存在の大きさを今更ながらに知るのだった。


愛しい君よ、君に変わる人は、これからも他には。