reliance | ホスト金時×警察官土方

近づく気配よりも先にざわめきが聞こえるのが煩い。
目を閉じて気配を感じるのが好きなのに。
まず他人の声で存在を気づく日が来るなんて思っても見なかった。


俺が一番好きで、一番先に気づきたいのに。
邪魔する周囲がいて。


なぁ、それは俺だけが思っていることか?
お前はそんな不安にかられたりしねぇの?




落ち着いた雰囲気の喫茶店にて金時を待っていた。
休日の昼下がりとはいえ物臭な自分が出かける用事もなかったが、
今日も夕方からという金時は「なら外にデートに行こう!」と張り切った。

しかし、電話で店からの連絡だったらしい、金時は慌ただしく携帯を耳に当てて
仕草で何度もごめんごめんと誤った。


仕方なく日差しのよく当たるテーブル席へ座り、珈琲を頼んだ。
自宅のあるマンションから程近いここは、日当たりもよく程よく明るくためか、
女性客が多いがゆっくり過ごすには最適な立地条件だ。

珈琲の香りが漂い、落ち着く。

(…煙草…、は吸えねーんだったな…)

最近煙草の本数がうちにいると減ったような気がする。
それはどうしてか。


先ほど運ばれてきたカップを持ち上げる。



唇を緩めカップを口に付けた時に冒頭にアレだ。
女達が騒ぐ、それにつられる様に視線を上げればいつものにやけ面で
金時は姿を見せた。
胸糞わりィため、「待たせた、十四郎」と目の前の椅子に座る金時から
視線を逸らし「まったくだ」と言葉を紡いだ。

ラフな格好をして、目立つ金色の髪をニット帽で隠しているがまずはそこにいるオーラが違う。
整ったパーツは何度見ても作りものであるように精巧であり、
すれ違った女どもが小さな悲鳴を上げて振りかえるのもうなづける。

柔らかく表情を豊かに変えるが、
普段は顔は隠されているが、ふとした拍子に覗く視線に。
目が奪われて離せなくなる、幾多の奴が。


「十四郎、…何考えてんの?」

煙草吸いたかった?と首を傾げながら言葉も紡がず黙ったまま
頬杖をついて窓を見つめる自分を見つめる視線が痛い。


ふと、その沈黙に窓に映る金時は首を傾げた。


チ、お前のその鈍さのせいだ。




「…お前のことしか、考えてねぇよ。ばーか」


顔を戻し、目の前にいるだろう金時を睨み付ける。

ぴんと指先で弾いてやればすぐ間際に近寄ってきていた金時の前髪を本当に弾いてしまった。
軽く弧を描いて落ち元へ戻ろうとする前髪を摘んでガラス越しの瞳を見上げた。


ざわめきはもう耳には入ってこなくて。こいつの目が目の前にあって。
テーブルに置き去りにされた色の濃い珈琲の表面がゆらゆらと揺れる。
まるで自分の心みたいに。




「…、…て、おい」

「…何か、問題?」


「あのな、…白昼堂々日当たりのいい喫茶店なんかで
ヤロー同士が顔なんかくっつけてたら…」


「だから、それが何、って聞いているんだけど?」


「……、…」


こいつの余裕綽々ぷりに翻弄される、こんなにも。
煙草の本数が減ったのは、精神を穏やかにしている存在があるからだ。

それなのに今無性に煙草が吸いたい。




やけに近いと思ったら。
近づいた鼻先に俺の鼻先がぶつかりそうなほど。




「俺もお前のことしか考えてねーよ、十四郎」


そういって甘やかす。柔らかな眼差しに迷いなど何も無い。
ざわめきが邪魔なノイズとなるのなら、それにも勝る声音で金時を呼べば良い。

ただそれだけのことだった。

それだけのことに自分は、一人で迷って雁字搦めになっていく。
金時を賞賛する声にも不安になるなんて。

自分だけが迷って迷って、それでも答えをくれるこいつに心底、…。


ざわめきは少し大きくなる。
それでも構わなかった。もう金時の声しか聞こえない。



俺の気持ちを汲み、瞳を眇めた金時の唇を掠め奪ってやった。

もちろん、自分の唇で。












ざわめきにかき消されない、俺たちの思いはここだ。




















(おまけ)




電話に耳を傾けながら窓越しから十四郎を見た。

あいつは物憂げな顔をしてため息ばかりをついて上の空だ。
そんな十四郎の横顔を狙う眼差しは…多い。






(…お前も早く気づけつーの)









柔らかく濡れた唇を離し、艶やかに唇の端を吊り上げる笑みに
同じように笑みが浮かんだ。












Than the cigarette of the heart rely.