Compensation | ホスト金時×警察官土方

その舌で、感触で、匂いで覚えていて。
視覚を失っても、手足を失っても、私を覚えていてほしい。

蔦の絡まる塔の中で、そう孤独な姫は囁いた。




男は姫を抱きながらそんな呟きに耳を傾けていた。










**




今日は仕事帰りにメールで金時のマンションに招かれた。
すぐに返信で食えるものいるか?と聞けば「俺が料理を振舞ってやるよ」と
返り帰宅していた足取りが幾分軽いものになる。

スクロールして下の方に書かれていたのは、こないだのうどんのお礼。と
書かれていて小さくラーメンの絵文字がついていた。
でもその横にあるフォークとナイフの小さい絵があり、いったい何を
作る気なのかと楽しみで。

金時はうどんがかろうじて温められる俺と比べて、料理が出来る。
休みの日は暇だからと言っていたが、かなり本格的なものをつくってしまうのは
金時の性格であるといえる。

物臭な普段とは違って、料理には拘りがあるのか今は残りものを生かしたものが主流だ。
それはたまに家主がいないうちに、俺のアパートに侵入して料理を
つくって冷蔵庫に入れていくからだ。
ちょっとしたものだが、非常に助かっている。最近は金平にこっているらしく、冷蔵庫の
中で使う用途もなく忘れられていたニンジンが金平になっていた時は本当に感動した。


後輩にもらった料理本をもあっという間に埃を被ってしまった。
それなのに飢えずにいるのは、金時の食材のおかげかもしれない。


特に甘味に傾ける情熱は並大抵ではなく、ほぼ甘味好きの金時自身のために
作られているといっても過言ではない。
俺は甘いものが好きではないが見ているだけでいい。

たまに甘さ控えめのゼリーやシフォンケーキを食わせられるが、それは
大抵自分が疲れを感じている時で。
顔に出ているかと思って金時に問いかけたことがある。


『なんか、元気がねーような気がしたから』

こう匂いっていうか気配を感じるんだよなと、動物的勘を披露した。
それがホストであるなら、気配りというジャンルになるから人間は面白い。





相変わらず生活感のない綺麗に片づけられたモデルルームのような場所に
招かれる様にして入って行けば「早かったな」と部屋のキッチンより声を掛けられた。

何度か仕事帰りに寄ったのだが、いつ来ても見回してしまう。


「…まだ出来るまでに時間掛かりそうだから…座って…、
じゃなくって…スウェット貸すから寝てていいよ?」

台所の椅子に置かれていたスウェットの上下を投げられて受け取れば
目を軽く瞬いてしまう。
顔に出ているほど疲れているだろうか、と思いながら今日の仕事のことを思い出していれば
確かに眠気は強く残っているのが当たり前だった。


呼び出しのあった深夜から夕方にかけて仕事をしていた。
しかし、流石に金時も知らないはずでそれなのに察することのできる
その心に礼をいい寝室に向かった。



自分が住んでいるアパートのような場所ではない買い上げのマンションであるため
きっと億単位であることは間違いない広さと窓からの景色。
それなのに綺麗な箱であると感じた。

金色の綺麗な動物を入れておくためだけの箱。
箱の中はきれいに磨かれているけれど、そこには何もない。
だからこそ孤独を募らせて一人きりで膝を抱えるどこかしこに金時の影が
あるように感じて招かれた寝室でスウェットに着替えてベッドに体を沈めてしまう。



その横には大きな窓がありそちらへと寝転がったまま、夜景を見る。
高い高層マンションの高い位置のここからは遠くに東京タワーも見えた。
自分のアパートからもほど近いというのに、俺のアパートからは見えない。

それをぼんやり考えながらも、自分のベッドの数倍はあるベッドに体を沈みこませながら
瞼を下ろして行き。




日向で誰かと寝ている夢を見た。金色の太陽に抱かれて。
ふと、誰かの声がして覚醒のために意識が浮上し。



「…とーしろう?、…十四郎」

「…、……き、んとき?」

「…飯できたけど、どうする?」

軽く瞬けば体を丸めほぼベッドの中央で寝ていた土方に腕を回し
横で寝転がる金時がいた。薄暗くされた部屋の中で腕が暖かく思わずすり寄って
しまったようだった。それだから温かい夢を見た。



「赤ちゃんみたいに寝てる十四郎ってさ、可愛い」

すり寄ってきちゃって離さないってどーよ、と告げられぼんやりしている頭でも
顔を赤らめれば、無意識なんだから仕方ないだろ…と言い訳にならない声で呟いた。
腕を回されて背中を撫でられるその優しい動きに、こちらからも腕をまわした。


「お前の、…夢を見た」

お前が太陽で、お前がいたら寒くなかった。…だけどお前は一人だったから
一緒にいることにしたんだ、そう温もりに抱かれたままと夢うつつで呟けば
いつの間にか金時の身体の下敷きにされていた。

「あぁもう、煽るの上手いってこういうのを言うのかなァ。…1ホストの
俺をメロメロに出来るのは、…お前しかいねーよ?」

俺の夢見てたなんてさァと呟かれ上から首筋に口付けられそのまま動物のように
舌で辿りマーキングされる。

辿る舌も触れる金時の顔も心なしか熱い気がして、沈むベッドの上で体を仰け反らせる。





その時。






ぐきゅるるる〜〜〜〜。



なんて高い音が鳴り、はたと互いの顔を見つめれば、吹き出して笑ってしまい。


「…ま、漫画みてェ…はははっ、ぐきゅーっていった!」

「あはははっ、…どうやら腹ペコのお腹に邪魔されたなー」

笑いながら、滲んだ涙を拭い金時に引き起こされて軽く鼻に口付けられる。
その柔らかな感触にくすぐったくて、何よりも嬉しくてそっと金時の唇に口付けをし返した。


軽い口付けの後、「ご飯食べたら続きな」なんて口端を吊り上げた金時に
顔を赤らめながら「エロホスト」と罵るのが精いっぱいだった。








**




視覚を失い、地に落とされた男は、同じく落とされた
姫のもとへと足を向けた。そこには変わり果てた姿で
しかし懸命に生きている様子を目にした。

感覚で、匂いで姫を覚えていて。
姫はその男を腕に抱いて小さく微笑んだ。
孤独や苦行の果てに、やっと欲しいものを手に入れた、と。












It is your love to have wanted me most.