39 | ホスト金時×警察官土方

いつも俺を精一杯愛してくれる貴方に感謝を。




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今日もホストクラブは多くの客で賑わっていて
流石に客の入りの多い年度末、羽振りも良いためホストも余念がない。


1である以上自分にも最近苦渋を強いられているといっても過言ではない。
そうでなくても、冬から春にかけてのこの時期はイベントが多く
掻き入れ時といったら失礼か。
先月バレンタインイベントをやったばかりだというのに、もう今週は
ホワイトデーイベントである。

ソファに半ば埋まるようにして、ふわぁと大きな口を開けて欠伸を洩らし
涙でぼやける手の指を折って数える。

何日あの子とあっていないのだろうと。バレンタインデーは次の日に無理やり
落とし込んだ休みに腰が砕けるように抱き合った。それから…。


「…3週間も逢ってねェ…」

「ホストがだらしないですよ、…何が3週間なんですか?」

閉店時間を過ぎ、別のホストが最後の客を見送っているのを確認したのだから
別にいいでしょ?とそのままの姿勢で視線だけ寄こした。


「…今日も割れてんな?」

「お疲れのところ弄って頂いて有難う御座います、なんていうかボケがァアア!」

集合掛けて下さい、ナンバーワンらしく!と言われてもう集合掛けなくても店の大半の
ホストが金時の声を街此方へと視線を寄こしている。
あー、メンドクセェと言いながらもこれをしないことには帰れないと、金色の髪を
掻きながらソファより立ち上がった。

「集合。…今日も店のためにありがとな。我儘姫さんが今日もいねェから
アゴから売り上げ発表」

「アゴっていうなァアア、あーコホン。じゃまず上から発表します、…1位、

金さん、売上総額47万」

冬から不動の30万越えですね?と言われ歓声が上がる。数字で言われても
見当もつかないが、ヘネシーやらペトリュス辺りが高かったか?と思いながらも
もはや良く分からない。それから次々と売り上げが発表された。

ホストクラブによって異なる部分があるが売上総数の読み上げを行う店は多い。
やる気とライバル心を煽り、より一層競い合い磨かれていくことを望み、さらに売り上げに
貢献されることを願うからだ。
しかし、いつの間にか頭角を現してしまった金時にはライバルらしき磨き合う存在がいない。
昔はいたのだが、今は袂を分けてしまったのだった。


「売り上げが伸びた人も伸びなかった人もこれからも精進して
明日も頑張って下さい」

「今週末に向けた準備はもう済んでるよなァ、まだの奴はこのアゴに相談しなさい。
…明日もとびきりの夜を。…以上」

解散、と告げれば「有難う御座いましたッ」とホストが一斉に言いながら頭を下げる。

「そ、相談って…、…おわっ」

「アゴ先輩、俺まだ決まってないんですけど〜」

「俺も俺も!」

戸惑うケツアゴを残して控室へと戻れば、手早くアクセサリー類を外して
ロッカーへとしまえばスーツを脱いでいく。
ここのシャワールームを使うものは他にはいない。というか神楽が金時のために
作ってくれたものなのだ。

シャワールームが欲しいという金時に神楽は意味深な笑みを浮かべてカツカツと
ヒール音を立てて近づいてきて見上げた。

『…ワタシのものであると言うなら取りつけてあげないこともないアルよ?』

『はいはい、…坂田金時はお姫様のものです』

『ふふ、相変わらず誰のものにもならない目してるアルな…、…それなのに
飼われてる方が目が生きて綺麗アル』

土方に拾われた日から、この女には調べがついていたのだろう。しかし干渉してこない
ということは何か別の意味があったのかと思っていたが。
飼われているという評価は一番合っている気がして思わず目を閉じた。


スーツを脱ぎ捨てるようにしながらシャワールームへと入って香水や甘い化粧の
香りを湯で落としていく。
ざっと身体も流してしまうと幾分薄れたアルコールにお湯を止めてタオルを巻いて
ロッカールームへと行けば、よれよれになったケツアゴ…新八に睨まれた。


「あぁ言うのは人に決めて貰うんじゃなくって自分で考えるのがイイのに!?」

「だからアドバイスつったじゃん、先輩として」

「…う、まぁそうですけど。じゃ金さんもして下さいよっ」

はいはい、気が向いたらなと言いながら普段着であるパーカーに着替えて
マフラーを巻くと「お先に」と声を掛けて出ていく。

「明日は覚えといて下さいねっ、お休みなさい」

そう背に掛かる声に軽く手を上げて答えるとふとイベントの書かれたカレンダーを見上げる。

日付越えた、本日は3月9日。


…3月9日…?




………、あ。







扉を開けて駆け出す金時を、ホスト達は不思議に思いながら見送った。


「…金さん?」

新八も首を傾けながらも自分も閉店準備のために部屋の中を見渡した。




自分のマンションよりも行き馴れた道を辿り、一軒のアパートへと。
合い鍵を出すのももどかしくなりながらも、深夜という時間もあり、アパートの廊下も
静まり返っている。何より中の人物を起こすのは躊躇って。

鍵を開けて中へと入れば、やはり室内は暗く靴を脱いで、奥の部屋の扉を開けて。



「…十四郎」

小さく呼びかけるものの布団に行儀よく寝ている土方は規則正しい寝息を乱さない。
その寝顔にホッとしながらも、明日の勤務が分からない以上起こすのはやはり躊躇う。
ベッドの傍へと座り、寝顔を見下ろしながら伝えなきゃならないことを口の中で回す。


「…今日は感謝する日だよな…、…いつも言えねぇけど、マジでありがとな」

出会ってくれて有難う、拾ってくれて有難う。…自分を愛してくれて有難う。
そんな簡単な言葉なのに中々伝えられねぇ自分を待ってくれて…マジで感謝。

静かに眠る土方の横でそんな言葉が転がり出る。

寝顔は安心させる効果と素直にさせる効果もあるのかもしれない。
そう思いながら小さく一人で笑ってしまいながらももう一度「有難う」と呟いた。


(…ありがとう、を伝えられるやつがいるってこんなに嬉しいんだ…、…)


半乾きの自分の髪の毛をくしゃくしゃと掻き回すとそんな優しい気持ちに
胸が温かくなるのを感じた。




今日中に伝えたかった感謝の言葉。




それでは足りないけれど、次の休みは必ず傍にいて甘やかすからと軽く頬に
顔だけ近づけて口付けると、すぐに顔を離し今日はソファで寝るかな、と
立ち上がりかけたその時。




「…っ」

「…、…ばーか。…お前だけ言い逃げすんじゃねーよ…」

「…と、…しろ…?…もしかして起こしちゃった?」

手を引かれ再び床に座ってしまいながら、ベッドを仰ぐと布団に埋もれたまま
こちらに視線を寄こす土方がいた。
暗い室内でもしっかり開けられた瞳を見返すことになってしまった。
自分の疑問符には答えず、自分と体格がほぼ同じの俺の腕を引くと
ベッドに引きずり込まれた。
一人分の体重しか本来支えないシングルベッドが不満げに軋んだ音を立てて
二人を支える。ぴったりくっ付いていないといけない狭いそこに
入り込む金時を土方は今度は両腕を回して抱きしめた。




「…十四郎、…」

「金時、…俺だって言いてぇよ…、俺と出会ってくれてありがとな」

「俺のこと見つけてくれたのは十四郎でしょ?、…だから有難うって」

背に回された腕に力がこもり3カ月ぶりだというのにいつも傍にいたような安心感を
感じさせられて土方の首筋に顔を埋める。
シャンプーの匂いと、少しの汗の匂いがする。腕を回して同じように力を込めると
夜に溶けていく吐息のように儚い互いの身体を抱きしめる。



いつかこの思いごと土方を置き去りにしてしまう日が来るのだろうか。
そんな恐怖に身を竦ませると、土方が慰めるように背を撫でてくる。

それに不安を少しずつ溶かされていくのを感じていた。




「今は何も考えなくていいから…」

だから安心して、俺のことを愛していたらいい。そっと囁かれた言葉に
目を瞬くとギュウッと土方の背を抱きしめた。
路地で捨てられたゴミの様に扱われていた自分に、手を差し伸べた土方。

今もその暖かな手はずっと向けられていて。


「ねェ、もっと強く抱きしめてイイ?」

「…あァ。……」



「……、もっと触ってもイイ?」

「…、場所と程度による…」





「……、…セ、ッ」

「それは、ダメ」

明日仕事なんだよ、と素気無く間髪を入れず甘い雰囲気無しにそんな事を言う
土方に抱きついたまま小さく笑ってしまうと、同じように笑いを零して
キスを強請った。
薄く開いた唇に柔らかく唇を塞いで、そのまま絡められた舌は熱く柔らかく
情欲を煽られるけれど、いつの間にか甘やかすつもりが甘やかされている事に
気付くのだった。


この手の中で”いつか”を考えるなんて、寂しい事だろう。
今はこのままでイイ。
この存在にありがとうの花束を送りたいから。
出会いに感謝するようなそんな存在を自分に与えてくれた、カミサマに
小さく感謝の言葉を口にして互いに身を寄せ合い目を閉じた。




これからの朝日に、…2人で生きていける機会を与えられた。
やがて部屋が暖かく朝日に包まれるまで互いを抱きしめたままで。










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いつも言えない言葉を、今日は口にして言えたらいい。
今日は最高のサンキューを貴方へ。