Healing | ホスト金時×警察官土方

殺伐としたこの世界に、一滴の水滴を。




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喉がアルコールで痺れるように痛い。
送別会や歓迎会で流石に飲まなきゃならない機会も増え
煩わしい人の集まりにも顔を出さねばならなくて。

酒はさほど強いほうでもなく、賑やかに飲むのがもとより得意な方では
なかったため、誘いがなければ断っているが
流石に世話になった人なら見送らねばならないだろうし、部署に派遣
されてくる新人なら歓迎しなければならない。というわけで、この期間だけは
何度か駆り出されねばならず、正直辟易していた。


(こんなの毎日やってんのかよ…)

そうすると金時のことを少しだけ尊敬したりする。
仕事なのだから仕方ないとはいえ、肝臓に悪い生活をしているのは確かで。


(その前に糖尿で死ぬことは確かだな…)

思い出して目を細めてしまうと気づけば自宅ではなく金時のマンションを
辿っていた。
確かに歩いてすぐの距離ではあるが、エントランスの広さや管理人の在中率から
いってもうちのアパートとは比ではない高級なマンションの前に佇んでしまい。
時刻はもう2時を回っており、部屋にいるだろうかと階上を見上げようとして
視界がぐらりと歪んだ。

仕事の忙しさも手伝って少し飲み過ぎたとは思ったが、ここまで酔っているとは思わなかった。
視界が霞んで体がどこにあるのか認識できなくなる。


(…ヤバ、い……)

そこで意識は完全に途切れた。
ふと力強い両腕に抱きあげられたのは頭の隅で覚えていて。




しゅんしゅん、…

何かが沸騰する音が響いて、徐々に意識が浮上する。
明るい陽射しが直接目の当たらない場所で、布団を着せられて
柔らかい場所へと寝かされていると気づいて身体を起こせば
その途端に二日酔いを訴える頭がずきりと痛む。

頭を抑えてしばらく唸ると、その気配に感付いたか部屋の扉が開けられ
金色の髪を覗かせて金時が入ってくる。


(…、マンションの前までってのは覚えてる、な)

「おはよ、…飲めるかァ?」

頭を抱える自分に配慮した声音で盆に乗せた薬を軽く振ると、「酔い止め、」と小さく呟いた。
上半身裸で肩にタオルを掛けた状態でほぼベッドの中央で身体を起こした
俺の傍に腰を下ろした。


「…、ん、…き、んとき…、…?」

「…酒弱いんだからよォ、そんなになるまで飲むんじゃねェつーのォ」

「…、似たようなもんだろうが…、け、ほ…ッ」

手を伸ばして背を擦られればいつの間にか真新しいパジャマに着替えさせられていることを知る。
肌に冷たい感触が気持ち良くそのまま体を横倒しに枕へと戻せば
ぽんと軽く掌で頭を撫でられた。


「まぁ付き合いだしなァ、…でも一応薬だけ飲んどけば?」

「…い、い」

首を振って再び痛む頭を抑えつつ布団を潜り込もうとすれば
布団を引き剥がされて真上から何かを口に含まれて口付けられる。

熱い舌が絡んでアルコールと金時の熱に再び頭の芯がぼやける。


「ぁ、…ぅ…ん…ッ」

「…ふ、…イイ顔」

思わず舌に絡まった錠剤を飲んでしまうと再び冷たい唇が降ってきて、水を
きっちり飲まされてしまった、もちろん口移しで。

水分を飲み込む首を撫でられてくすぐったさに身を捩ってしまうと唾液か
水かわからないものを口端から伝わらせてしまった。


「よし、…これ金さんの絶対治る二日酔い止めだから」

寝てれば治る、と再び頭を撫でられて顔が赤くなる。
普段から金時には甘やかす癖があり、こうやって無条件に差し出された手に
心が暖かくなる。打算的に差し出した自分の手とは違って。
自分の手を頼って縋る様に絡めた金時の手を思い出した。

すると自身の浅はかさに目眩がするのだ。

「ちょっとまってて」と部屋から出ていく金時の背を見つめた。
自分だけが与えられ過ぎているのではないかと思う時がある。
ちゃんと与えられたものと相応のものが自分は返せているのだろうかと。


愛が目に見えればいい、そんなことを漠然と思う。




見えていたからと言ってそんなに与えられるものはないと思うけれど。
何を捧げてもいいからあの存在はどこにもやれない、絶対に。



そんな身の程知らずな独占欲に今日も一人胸を焦がしている。





「十四郎〜?寝ちゃったか?」

「…ぁあ、…寝てる」

「起きてるし。…マネージャーから苺貰ったんだけど食う?」

差し出された赤い瑞々しい果物に視線を向ければ枕元に苺を箱ごと置いて
布団へと入ってくる金時に抱きつかれ、応えが返せなくなった。

こういう時の金時は此方の答えを必要としていないのだ。

順応に力を抜く俺に何を言うでもなく正面から抱きしめられてその熱に安心してしまう。



それではだめだと思っていながらも、まだこの熱に甘えたまま。

口にいつの間にか含まされた苺を互いの唇で奪うように
互いの咥内でその春の味を堪能していく、3月のある日。




「酒やけの声って色っぽいよね?」

「…、…」

「…散々気持ちよくって声上げまくった日の次の日みてェ」







互いの熱は未だまだ冷めないままで。
口付けは柔らかく、そして甘くイチゴの味が互いの口の中で
しなくなるまで続いていた。













**







空気がなくなれば死に絶えるように、
水がなくなれば大地が乾くように。

その乾いた土地に堕ちた一滴の水が吸収した土はやがて
緑を育み空へとその水滴を還すだろう。



そう強く願っていた。