only kiss│3Z銀八土。キスは二人でするもの。だから甘い。

"サクランボのヘタを口の中で結べる人はキスが上手い"。
総悟はそう言った。
そんな戯言はきっと昼ドラ辺りで仕入れたのだろう。

ヘタなんざ結べたって、そうかわらねぇだろうがよ。


嘲笑を浮かべ、確かそんな言い方をしたのだと思う。

言い争って、売り言葉に買い言葉。最後は口喧嘩も冷戦状態になった頃
ソファの隅っこにいた山崎がまァまァと仲裁に入ったのだ。




「そんなに言うなら、皆で試して見たらいいじゃないですか?」

その核ミサイルのような一言に「そんなくだらねぇ事、…」と山崎に一発入れようとしたが
そのまま言い淀んでしまい、「やれないと思ってるから、行けねぇんじゃねーんですかィ?」

と総悟は引き下がらず結局、全員でファミレスへと足を運ぶのだった。





サクランボの入ったサイダーは毒々しく緑で、とても飲む気がしない。
顔を背けていればそっと差し出された赤い、サクランボ。


各々、頼んだ物についたサクランボだけを食べる男子高校生というのは
異様に映るだろうが、人が少なく丁度角になった辺りなので気にすることはない。

口に含むとヘタを舌に包める、軽く尖らせて吸う。
もごもごと隣で口を動かしていた近藤さんは「無理だ」と諦めて早々に口から出し、
山崎はくるんと一つ結んで舌先に乗せていた。




「見て下さい、土方さん」
「……」
コツもわからずヘタを含んだまま少し驚いて動きを止めると勝ち誇ったように
総悟も結べたヘタをこちらに向けて寄越した。もちろん避けたが。


口に含んだヘタの味も分からずにただ含みながら考えるのはアイツとの口付け。




昨日もこちらから仕掛けたのに、リードされ離された唇からは互いの唾液が銀糸のごとく伝い
それをぼーと眺めていると、再び音を立ててキスをされて微笑まれた。




(…キスは、俺の方がうまいけど。…煽るのは多串君のほうがうまいねェ?)

それに頬に熱を上らせてもう一度、唇にちゅうちゅう吸い付いてもクスクス笑われるだけで
再び角度を変えて口付けをされると、もう何も考えられずに再び視線を彷徨わせて
身体を熱くしていた。
銀糸のような銀髪のふわふわの頭に手を埋めてしがみ付くのが精一杯で。




(……、…ッ)

生々しい感触が唇に再現されたようで思わず唇をかみ締めるとニマ、と嫌な笑みを張り付かせた総悟が
目の前に移動してきた。




「できないんでしょ?…そろそろ認めろや、土方コノヤロー」

何考えてんのかは想像つきますけどォ?と笑う総悟…ではなく、


その隣にいた山崎の脛を思いっきり蹴飛ばして口に含んだヘタを掌へ乗せる。

ギュッと掴んで立ち上がると。そのままメンバーを置いて店を出ていった。




後には脛を擦り痛がる山崎と呆れた様に見守る級友が残された。











(ムカツク、ムカツク、ムカツク…ッ)

手にしたものを路地にも捨てられずそのままにしていたら余計腹が立って、路地を歩いた。
掃き溜めに鶴のような、目立つ整った端正な横顔に、サラサラに梳かれた黒の髪、
視線を送る人は多かったが、今現在は声をかけようとも思えないほど隙はない。

それどころか口ほどにものを言う鋭い瞳孔の開いた目には怒りの炎を滾らせていて
触られば斬る、と言っているかのようだった。




それでも声をかける蛮勇はいることにはいるもんだと知る。







「多串君!どうしたー、こんなとこで」

買い物袋を提げた所帯じみた男が此方に向かって手を振っている。
隣にいる黒もじゃは隣のクラスの担任の坂本だろうか。
笑いながらも黒もじゃの方は「何ら、起こってるみたいやが〜」と笑いながら的確なことを言う。




「え〜?そうかねェ。いつもの多串君じゃね?」
ね?とウインクを寄越されて自分の何処かの血管が切れる音がした。

ツカツカと銀色天パ頭の傍へと無言で歩み寄ると耳を掴んで路地を歩き出す。
痛たたたたッと泣き叫ぶ銀八に構わずに。


坂本は楽しそうにそんな二人の背中を見守っていた。







歩き出して数分、適当な場所へ立ち止まれば、

今度は銀八に何を思ったか腕を引かれ公園内へと入っていく。
勘の鋭さはお墨付きだ。
何の話だかは分からないが人目に付き難い方が良いだろうと判断したらしい。
一人は制服の上に二人とも標準よりもワンランク上の容姿を持っていて。

それは至極当然の判断だった。


「何持ってんの?」
唐突に口を開いた銀八は握り締めていた俺の手にすばやく視線を走らせていた。
ここは隠すように指に力を込めて、離されない腕に早くも居た堪れなくなってくる。


しかたねぇだろ、…先生がこうして俺を甘やかすから。

俺は銀八以外に触れようとも思わなくなる。触れて欲しいとも思わない。


ヘラッとしていながらも独占欲の強い銀八の腕が良いと思ってる俺も俺だが?




捕まえた方が罪?それとも囚われた方が罪?


無言で視線を逸らして言葉を紡がない唇を噛んで。





「あのね、土方」
無自覚なんだから性質が悪い、て言葉分かってる?
何が悪いんだ、何がッ!と食いつこうと一睨みすれば、いつものように飄々とする銀八は素早く
爪が白くなるほど拳を作った手の甲に口づけた。




それだけで指先の力が抜けて、握り締めていたために先ほどの水気を失った

サクランボのヘタが現れた。


それだけで、察したように笑う、銀八の笑顔がムカつく。

木陰がざわざわと風に煽られて音を立てる。傍のベンチへ再び腕を引いた銀八俺は逆らわない。
座る俺の掌からサクランボのヘタを取り上げると、チュと音を立ててキスをして、

それを自分のポケットへ恭しく仕舞う。




「…なに、…ンなもん仕舞ってる、んですか…ッ!」

「ねぇ、こんなもの結べなくたって本物の口付けを知っている俺たちには必要なくねー?」

「…、…何、い…って」

それだけで頬に再び熱が集まり始め、銀八の言葉を肯定してしまうことになる。
そうだ。俺はこんなもの簡単に結べて、総悟に「キス何ざお手のものなんだよ、バーカ」って
鼻を開かしてやりたかったわけでも(それは頗る気分が良いが)あんな茶番に面白半分に
加わったわけでもなかった。


先生の事、きちんと想ってんの、伝わってるかって事。
いつまでも成長しないで、それこそ罵って好きより嫌いの方が言う回数多くって
それでも。

言葉では難しいことも、伝わる気がした。
いつまで経っても慣れない銀八との口付けは俺が腰が砕けさせられ、何も考えられなくなって終わる。
銀八はいつだって冷静にこちらを見ている。




「何でかなァ、…俺だってお前のこと考えるだけで、さァ」
ブレーキ効かなくっていっつも無理させてんでしょーが、と苦笑めいた笑みを浮かべて近くなった視線を合わせられた。
その瞳の奥にはぽっとついた欲の炎。


「俺、いつか言ったよなァ?お前からの口付けはイマイチだけど煽るのがうまいってさ」
それちょっと訂正させて?




そう囁いて俺の腰に手を回す。銀八の"キスさせてポーズ"だ。
それに気づいて銀八を見つめる。
これはもはやお互いの中での暗黙の了解で。




「お前がうまく煽るからさ、俺達のキスは腰を砕けさせるんだと思わない?」

微笑みそう伝える、少し高い銀八の目線に合わせるように視線を上げると、ちょっとだけムッとしてしまう。
俺はは銀八より背が低いことを気にして、止めるにもかかわらず牛乳パック2本を

その日の内に空にする。


それは少しだけ銀八に優越感を与えているの違いない。







「……ぅ、…ッン」
突然始まった口付けは、さらに首に回された銀八の腕が強く、

吐息ごと吸い尽くされている感覚は生々しい。
息苦しさにすぐに唇を開く俺の唇の中を、音を立てて生暖かい銀八の舌を感じる。
歯茎や歯列を丹念に舐られてかーと全身が熱くなっていくのが伝わって。
くすぐったさ、と心地よさに思わず銀八の舌を舌で突付くと笑みを含んだ喉が震え、舌を絡められた。


強請ったんじゃねぇ、勘違いすんなァアア!と思いながらも銀八にしがみ付くのが精一杯な俺は
さらに銀八を引き寄せてしまう。


「ふ、ぁ…ん、…ッは、…ぁ…ッ」




唇が離れたらそのままその場に崩れてしまいそうな感覚に強くしがみ付くと、

粘着質な液体が触れ合う音を隠微なものにし、唇は一旦離された。
しかし腕の力は強く、俺を繋ぎ止めたままで。


(キスは一人が上手くたって、成り立たないんだってこと…なんだけどなァ)

胸に凭れ掛かる土方を抱きしめながら、そう口端を緩める。
お互いの唾液で染まった唇は頬の朱と相俟って振るい付きたくなるほど艶かしい。





「一人でするもんじゃねーし」

そういって銀八は笑う。
二人でするから、キスの甘さも苦さも、分かる。

言葉よりも雄弁に相手に語りかける手段。
不器用な自分の口付けを欲しがる銀八がいて、その熱に煽られる俺がいる。
それは、銀八じゃなきゃ出来ねーのかもな。と、思ったら結構満たされた。

満足げに吐息を零すと、口端を吊り上げてニヤ、と笑う。





「お前の可愛いキスも、口付けを欲しがる唇も知っているのは俺だけでいいけどねェ」


そういってにゃははは、と妙な笑い方をする銀八の腹を殴り付け、真っ赤に染まった顔を辛うじて隠す。













俺達の恋は不器用で、でも互いにしか効かない唯一になっていく。


それは不完全な俺達そのもので、歩いていく方向はでたらめ。
時に立ち止まったり、喧嘩したり、駆け足だったり、スキップしたり。







でも急ぐ必要はない。完成させる過程は完成した後より、楽しめるだろ?














…でも、さっきのヘタは捨てねぇと、…もう、させてやんねぇぞ!(怒)

学生らしいお話になったような気がします(笑)サクランボのヘタを結べる、云々はまァよく聞くネタですね。
銀八の言う通りキスは二人でするものなんで、眉つばだと思いたい、今日この頃。