今夜月の見える丘に first time| 銀八先生×高校生土方君

なぜ開けてはいけないものを作る必要があるのだろうか?
そこに存在する意味を作るのだろう?

"開けてはいけません”
その言葉は即ち、シテハイケナイという心理に操作され
人心は、シナケレバナラナイという心理へと移行されていく。
存在を強く意識するとはそういうことだ。
決して触れてはならないものほど、魅力的に人の心を縛る。


開けてはいけない扉ならば、ノブを作らなければ開けないだろう。
開いてはいけない箱ならば、見えなくなるよう置く場所を海の底にしてやればいい。
ここに存在しているから開けたくもなる、覗きたくもなる。


そんな人間の心理を理解してるフリして、……楽しんでンの?神様。










**





偶然が必然になる。そんな思いをした。
自分は無縁だと思っていた感情だった。
だけど気づいたら、あいつを視線で追っていた。

それは気づいてはならない感情だから。
鍵を掛けて心の奥底に仕舞っておかなければならない思い。


そしてその奥底に自分も膝を抱えて座り込んだ。
誰にも気付かれず、この思いを昇華出来るように願いながら。
開けてはならない禁を破った自分に与えられる罰を待ちながら。










**






















確か屋上は関係者立ち入り禁止だったハズ。
そんなことをただ思った。
関係者といえば、自分は立派な関係者である。
そう理屈を捏ねて外にでてきたもののババァに見つかれば怒られるだろう。
それでもここが居心地いい場所になってきている。

多少風が強くて、手に持つジャンプがべらべらと捲れても
ジジイとババアに囲まれた辛気くせー職員室にいるよりは。




寝癖がついた天パな銀髪と白衣、それに死んだ魚のようなやる気のない
瞳がトレードマーク。
生徒の気持ちがわかる、というより生徒と同レベルの争い事に
よく登場する問題児、いや問題教師である坂田銀八は白衣を風に靡かせて
昼ご飯であるクリームパンとチョコを頬張っていた。





砂埃塗れの床に座り込み、首をぐっと伸ばして空を仰ぐ。
初夏の日差しが目に眩しい位だ。レンズ越しに僅かに双眸を細めた。
そろそろテスト週間となり、夏休みへの後一踏ん張りになる。
まぁ人によっては一踏ん張りどころか百踏ん張りしなきゃいけねぇのもいるが。




(…ライク・ア・ババロアだからね、アイツら)


今もガンバレ日本とか書かれた、青色のハチマキなんかして
校庭で元気にボールを追いかけている。

3年Z組の馬鹿共は今日も元気だ。




(有り余る元気は花丸、…て小学生の通信簿かァアア、オイ!)

そうツッコミを理事長から申告されようとも、そこしか褒められる部分がねぇんだから仕方がねぇ。


やる気のなさは天下一品。駄目教師の名をほしいままの給料泥棒。

そんな枕詞を戴きながらも気にすることなくのうのうと底辺を生きる。
パンを腹に収めた後は無償に口が寂しくなって煙草を銜えたはずだったか、すぐに飽きて
銀八はまだ半ばほどしか吸ってない煙草を柵から投げ捨てる。


単に力量の問題である。
銀八とてしていいこととしてはいけないことは弁える。


…自分の物差しの内で。




例え他者の考えからは範疇を越えていようとも。






「こらー、そこの給料泥棒ォ」


「っ…」




ビクと肩を震わせると同じく教師の坂本辰馬が顔を覗かせていた。
顔というより、そのトレードマークのもじゃもじゃの頭が覗いている。




「んだ、坂本センセーですかァ。人のこと脅かしといて何の用?」


「何だとは何がや。ちくと、一人で寂しい思しちょる思うて来たんちや?」





「そーれはお気遣いなくゥウウ、一人で自由気ままに甘味補給したいしィ」










シッシッ、と坂本を追い払うように手をひらひらとさせれば、そんなことにはお構いなく
横へと座り込む坂本にいっても無駄だったと空を三度見上げた。


「おー、元気がいいの、おまんとこのクラスの子等は」




「…元気だけが取り柄なもんで」







「………」








「………なんだよ?」










辰馬につられて校庭を覗き込んでいた銀八は、言葉を返さない辰馬に視線を返しながらはと気づく。
こいつのこの目は頭カラのくせにやたら勘が良いこと。





「のーおまん、…わしの勘じゃが何か悩んじょると違うか?」







「…何でもねェよ」





「何を悩んでるかはしらんが、やき…おまん自身に嘘はついたらいかんぜよ」










苦しくなったら話しとおせ、と言って笑う坂本に思わず顔を上げるものの
小さく息を吐いて分かったと告げることも出来ずに頷いた。
自分自身に嘘をついて感情を押し殺そうとしていた、鍵を掛けていたその思いを
誰にも知られるわけにもいかなかった。





肩越しに振り返る、黒髪に精悍な体躯。
ボールを追って近藤らと楽しそうに体を動かすのを無意識に視線で追い、それから肩を竦めた。








(まさか、俺がこんな事思ってるなんざ知らねぇだろうなァ…)





自分のクラスの学生に、…しかも男に。
こんな感情を抱いているなど、正気の沙汰とも思えない。








パンの紙くずを掌に握りしめるとイチゴ牛乳のパックにストローを刺した。













キン、コーン、カーン、コーン…





「……、あ」














校庭では、ボールを追いかけてサッカーに興じていた3Zの面々は
時々乱闘騒ぎをする生徒や演説する生徒がいて試合にならず、ただボールに向かって走っている
最中に予鈴が鳴り、その場で散り散りに解散していく。




「…あそこにいるのは銀ぱっつぁんじゃねーですかィ?」




そう立ち止まった沖田の声にボールを持って此方来ていた近藤が反応して見上げる。




「あ、よく気づいたなぁ、ホントだ」







見上げる二人に土方は同じように見上げれば、銀色の毛玉が屋上のフェンス越しにふわふわしていた。
それに少しだけ和む自分がいる。それはよく分からない感情だけど。
一人かと思えばそうではなかった。隣に座る黒い毛玉が銀色の毛玉に向かって話しているのが分かる。
話している内容までは分からないが。




「…たく。生徒達は屋上立ち入り禁止にしといて、自分たちは悠々と。





…近藤さん、ちょっとバズーカーでぶっとばして良いですかィ?」










「オィイイイ!!…バズーカーないけどやめてェエエエ!」










暗黒な笑みを浮かべる沖田に近藤が叫んで止め、こと無きを得ながら校舎へと
歩いていこうとし。





「…トシ、本鈴鳴るぞ?」







土方はじっと屋上に視線を向けたまま動きを停止させていた。


少しだけ銀八の赤い視線に絡んだように見えた。その瞳が焼けるように熱くて。


軽く目を瞬き、近藤の声に我に返り、3人で走り出した。








抑えきれない感情持て余し。




何の感情なのかさえ気づかないままで。










開けてはならない扉の前で立ちつくして。




























Next feelings...