今夜月の見える丘に second time| 銀八先生×高校生土方君

扉には鍵を掛けて、それに安心していた。
中は見れない、誰にも知られない…そこに安心して。
中身があることをすっかり忘れて鍵を持ったままそこを離れた。

その気持ちは溢れる事。
そして増えることを知らなかった。
ほって置いたらなくなるものではないことに気づいていたのに、気づかないふりをしていた。
それに自分は長い時間目を閉じていた。




日に日に、気持ちが大きくなっていく。あいつに向けられた気持ちが。
いっそ吐き出してしまえば楽になるのだろうか。
膝に顔を埋めて布団の上に座り込んだ。
月が青白く部屋を照らしていくのを見ることもできずに。







朝になればこの気持ちを持て余していても、なんら変わることはない。
日常の始まりでホッとした。
目覚ましが鳴り、光が部屋に溢れる。あと少しで学校に向かわなければならない。
そう思っただけで身体は無意識に動く。
朝食もそこそこに出かける支度をして、部屋を飛び出せば今日は雨が降りそうだった。
重い雲が覆い被さって太陽を隠している。しかし傘を取りに戻るのも面倒で。
原付は学校に向かって走り出す。重い雲の空の下で。





それは気持ちを晴らせない自分のようで直視出来ないからに他ならなかった。







**










キーンコーンカーンコーン…、




「きりーつ、礼っ、着ー席っ」




「…んじゃ、昨日の続きィ…、ズラ、読め」







「ズラじゃありません、桂です。PTAに訴えますよ」




思わず視線を向けてしまったことに舌打ちを打つと、その右隣に座る桂を指してやる。
考えないようにしてきたつけなのか、意識してしまえば視線を向けることも出来ないのに
鍵をかけたままの心は気づけば視線を向けている有様だった。


「…んじゃ、ズラ取るか、脱いどけー」




「…先生、取れないし、脱げませんンンンッ!」





いつもの事だと他の生徒は聞きもしない応酬に、今日はキレがないと気づいた生徒は
いないようだった。ただ当事者二人はお互い覇気のない絡みに気づいたようだ。
それ以上桂は絡まず、教科書を朗読していく。
それが何か気を使われたみたいで、銀八はムッとするも、少々情けない思いに駆られてしまった。
教科書を教壇に置き、黒板にその文章に出てくる言葉を書いていく。







「…んで、まぁこの時の主人公の気持ちは…」


「でもこんな女の妄執に身を削るなんて、主人公も馬鹿でさァ」




そう眠っていたはずの沖田が口火を切れば、「いやいやいや、健気ではないかっ、どっちも」と近藤の

言葉が重なり、言い争いのように話が始まれば収拾をつけるべく教壇をバシッと叩き。







「あーもーうるせぇェエエ!小学生のガキですか、てめぇらはよー」







唇を尖らせて押し黙る生徒らを見回して、肩を竦めれば
妄執と黒板に書き足して。




妄執、自分のことのようでズキリとした。
自分の思いは相手を凌駕してしまいそうで怖くなる。
相手は生徒で、しかも男だと何度もいい聞かせたのに、この気持ちは治まらない。

それを億尾にも出さずに「もてる男はいうことが違うねェ」と揶揄を入れてやりながら
言い返す言葉は背中で受けつつ、再び雑談のように始まる言い争いに
一喝し様と振り返れば、鐘が鳴り終業を告げる音に小さく肩を竦めた。




「きりーつ、礼ッ、…」




そういい掛けながらそわそわして落ち着かないのは、もうじきテスト週間になるので
夏の大会の最後の追い込みになる部活の奴らが多いからだろう。
それに教科書を戻してやる気なさそうにプリント用紙を配る。




「おーい、そこまだ帰るなよー。…マダオォオオオ、時間ギリギリにバイトいれんなや。
ちゃんとこのプリントに目ェ通して、期日までに提出な」







「勘弁してよー銀ぱっつあーんっ、今度のところ首になったら拙いんだってー」







そう泣き言をいれるマダオは無視して用紙を投げてやれば
それを受け取って帰っていく。それを見送りながらハァと大仰に溜息を吐く。


遅れた奴は面倒見てやんねぇぞ、と付け加えた用紙は進路希望と書かれている。
夏休み前の二者面談で使うことになるが、この春、同じ用紙を渡したのだが、このクラスの連中と
きたらまともに返ってきたのは数人で、後は「楽して暮らしたい」だの、「三食昼寝付におやつも」だの。
お前ら本当に高校3年生ィイイイ?な回答が多くて、ババァに突っ返されたのだった。


別に先生に面倒見てもらいたくありませーん、と女子の声が聞こえてくるがそれには
肩を竦めてやり過ごした。

進路希望の用紙をもらって、気のない返事をするガキどもを開放してやりつつ
教卓の上を適当に片付けるのだった。
















**










「…たく、何であぁも年寄りは話がなげぇんだよ」
職員会議という名の鎖から開放され、腕を伸ばすと同じく、黒毛のもじゃもじゃがより沿い小さく笑う。


「声が高すぎるろー、金時ー。飯でも食いに行くっちや」





此間の話も聞きたいしの、と意味深に右斜め上から笑われてムッとした。
白衣の裾が揺れ、夕暮れと言うよりもそろそろ薄暗くなる時間帯に坂本を小突いて歩き出す。

と、そこに明かりが映った、ように見えた。




(あの辺りはうちのクラスか…ァ?)




「ちょっと、…用事思い出した。飯は今度おごれや」





「おごるとはいっちょらん…、…金時?」













隣の校舎には窓越しに教室が映り、そこには見たことのある背中が
視界に映った気がしたのだ。
行っても何にもならないのはわかるし、何を期待しているわけではない。
それでも勝手に体は動くんだ。
心よりも体が走り出す。





いつの間にか鍵を持ったまま遠くまで来た。
あの扉に鍵をかけたまま自分は気づかぬ振りをしていた。
そうしても何も変わらないことを。




少し息を切らして3Zの教室の戸を開ければ、幾分驚いてこちらを振り返る土方の姿があった。




「…銀八先生…?」







「お…おう、多串君か…、渡り廊下で、うちの教室が明かりつきっぱなしだったからよー」













土方の手には黒板消しがあり、どうやら制服なところを見ると部活を終えて
ここに来たようだ。黒板は綺麗に消され、それに少し目を丸くすると口を開くよりも先にぶっきらぼうに
「今日の日直が何にもやらねぇから」といい訳染みた声を返された。
真面目で脇目を振らず、凡そ寄り道など知らないだろう。










だからこそ自分は。

















好きに、…なってごめんな。

























Last feelings...