the Chocolate of the my small heart.【前書】| 銀八先生×高校生土方君

*これはブログで行った一人企画でエロバレンタイン企画『Sweet Chocolate to You』の作品です。











洗練されたヘーゼルナッツとミルクの香りが絡み合い
さらに芳醇な香りになる。
口の中で解け溶けていく様子はまるで官能的である。

それは人類が作った中でも贅沢な嗜好品の一つ。



甘く、口に残るそれは、この気持ちにどこか似ていた。







**












銀八のアパートの部屋の前に猫がいた。
ふみゃう、と小さく鳴く猫が白くて、毛先が灰色に汚れて、まるで。


「…銀八みて―こいつ」

そういって自分で赤くなってしまった。

手を恐る恐る伸ばすと、その掌にすり寄ってきた猫に表情が緩んだ。
しきりに鳴く猫を掌で受け止めるとその掌を舐められた。
暖かくて柔らかい存在にそっと触れれば、その掌に柔らかく感じる感触は
部屋の主の感触のようで。
中々触れることが出来ない髪に思いを乗せながら背中を撫でてやる。




夕陽の金色に透ける髪が綺麗だなんて
思ったのはいつだったか。近くにいても気易く触れない。
躊躇うように視線を外される。
そんなことが簡単に自分を不安にする。

まずは先生が俺のことを好きになった。それなのに、いつの間にか。

アパートの扉の前に座り込むと掌に包んだ猫を柔らかく抱きしめて顔を伏せた。







廊下で、数学教師の坂本と話す銀八を見かけた。
罵り合って嫌そうな顔ながら銀八にはそれを許しているような気がした。
坂本は気易く周りの生徒にも入っていくが、それでも教師として弁えているからか
必要以上に押し付けてはこない。
迷惑そうに懐く大型犬のような坂本を引き剥がす、その容赦のない行為が
なぜか羨ましく感じた。
不安なら話してと言われた、それなのに躊躇ってしまう自分はなんて弱いんだろうと
思ってしまった。

銀八はずっと自分にこの気持ちを伝える前も不安だったのだろうか。


そんなことを思いながら抱きしめていると、白い猫は瞳を閃かせてにゃう、と鳴いた。

「お前も不安か?」

そういえば捨てられたのだろうか?と綺麗な毛並みに手を掛けながら首を傾ける。
野良猫にしては毛並みも良く、まだ子猫であることから少し心配になってしまう。
きょとんと此方を見つめる子猫に掌で包んでやる。
膝を抱えるようにして扉を背にして座ると、床で学ランが汚れるのも気にせずに。



「金時、今夜もメンバーが足りんぜよ。いつもとこじゃ、奢りだから来るっちや?」

「だから金時じゃねーつってんだろ…、いかねーよ」

二人の会話は続く。

自分よりも長く知りあっているから許されるべき距離感であるのに、それに息が
止まりそうになる。それなのに足が前へも後ろへも動かされないのはどうしてか。
やがて鐘の音に足をやっと教室へと向ける。

だからあとの二人の言葉は聞けなかった。


「…最近、構ってくれちょらんのー。…解決したっちや?」

「…、まぁな。…でもこっからなんだよ」

つーことでだァめ、と口端を吊り上げれば、先ほど土方が立っていた辺りに視線を向け
るのだった。
自分がいなくなってからそんな会話が続いていていたなんて気がつかなかった。





今日は約束はしていなかったが、アパートへと行ってみることにしたのは
胸の内がもやもやして整理がつかなかったから。
こんな状態で受験勉強に励めるわけもなく、友達と勉強してくるとだけ
母にメールして帰り道アパートへと来たのだ。

暗いアパートの部屋にまだ帰っていないことが知れ、その代わりに白い猫がいたのだ。
掌に抱きしめながらアパートの扉を背にして座りこんで膝を抱える。
こんなことで気持ちを揺らされるなんて、半年前の自分ではなかった筈だった。


「なァ、銀、…こんなことで不安になるなんて、な…」


「何が不安なの?」

「…っ、せ、んせ…ッ、ちょ、…」

掬いあげられ抱きしめられてしまう、いつの間にか帰ってきていた
銀八に。その熱に今まで抱えていた思いは霧散し、懸命に首を振る。

猫に話せて、俺には話せない?なんて聞かれても首を振るばかりだ。

こんなに簡単に溶かされていく不安であるにもかかわらず、抱いてしまうのはなぜ。




場所も時間さえも容易く飛び越えてしまう思いにも関わらず
自分さえもわからない感情を覚えていくことは怖いと感じた。
ぎゅと力を込めて銀八の背中に腕を回す。

いつの間にか挟まれて抗議の声を上げていた猫が、床へと降りて
空腹の訴えをするように鳴き始めるまでそれは続いた。


















**














厳選されたカカオだけが、口に運ばれる。

全てを加工するが、それ以上の上質なものはそこから再び吟味されるのだ。

品質の基準など気にすることなく、育って実を付けていく。




自分だけが翻弄され、その感情を覚えさせられていく。

自分の心であるのに抗えない。































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