the Chocolate of the my small heart.【前編】| 銀八先生×高校生土方君

小さくて隠れそうな心を閉じ込めたのは何?
甘くてとけそうな小さなそれは
口や心にいつまでも残る味。

甘くて喉を焼く様なそれに心をずっと隠している。
ヘーゼルナッツとクリーム、ナッツとビーンズ。
どことなくほろ苦くて、それでもずっと甘い中へ心は隠されて。




いつかあなたに食べられるのを待っていた。










**





2月13日、どことなくいつもとは違ってそわそわし始めるクラスメイトを見渡して
銀八が教卓につく。
バンと出席簿を叩きつけて注意を促すと、クラス中が慌てたように視線を
銀八へと向けた。




「いいか、てめーら。明日は何の日かわかってんだろーな」

分かりませーん、何の日ですかーっと惚けるクラスメイトに
銀八はすと息を吸い込み、高らかに宣言をする。




(あ、いやな予感…)




「明日は先生にチョコレートを渡せる絶好の日だろうがァアア!」

先生、最近金欠で甘いもんと離れてんだよ、とまるで子供のように訴える銀八に
脱力するクラスメイトは矢次に「そんな個人の事情知りませーん」と容赦はない。

「ということで、女子、一部内申が危ない男子は先生に
甘味を献上するよーに。以上HR終わり」

「職権乱用だァアアア!!」

騒ぐクラスメイトを死んだ魚の目を今日は輝かせてビシッと決めると
勝手にHRを終わらせて去っていった。



(…チョコレートが欲しいだけ?…)

分かっていても、少し胸が苦しくなる。
自分が好きだといった、銀八の言葉が今は遠い気がして。



(自分だけ、…見てればいいだろ…)

まさかそんな事はいえない。
自分の気持ちに最近になって気付いたばかりなのだ。



「…、…シ、…トシ!帰ろうぜ」

「…、あ、…あァ」

頷きながらも気が晴れない。結局用事があるからといって先に帰ってもらい、
一人で帰ることにした。

受験勉強で年明けから急に忙しくなった。
だからだろうか、最近余り二人で逢っていない気がする。

結局坂本と出かけたのか聞けずにあの日は帰ってしまった。
どうして聞けなかったのかは分からない。



抱いていた猫はいつの間にかいなくなっていた。心配すると「上の階の猫なんだよ」と
教えてくれた。一人ぼっちじゃないと聞いてホッとすると、銀八は何ともいえない笑みを浮かべて
此方を見つめていた。



その笑みの意味が分からなくて心が焦る。



一つ跳びで大人になれたらいいのに。

早く大人になりたいだなんて、我侭。
そんなこと銀八には言えないから。

一人で悩まないで、と銀八は言ったけれど、こんな些細なことで悩んで
いる自分はきっとうっとうしいと思われるに違いないと。




一人で帰っていると、女の子達でごった返すチョコレート売り場の横を
通り過ぎた。

ふと、足を止めてじっとその殺気立った場所を見つめた。

(………、…)

自分の格好を見下ろし、ふと肩を竦める。でも動けないでいた。










2月14日、バレンタイン当日は土曜日のため昼までの
授業で受験を控えていた俺たちは、それほどそのイベントに熱心に…


「ト…トシィイイイ、今日の俺どうかなァアア?」

輝いてるかな、とポーズを決めて聞く近藤さんに朝っぱらガックリとした。
特に変わったことはない、ただ少し身奇麗に髪が立てられているだけだ。
でもポーズに勢いを押されて頭を縦に振ると「そうか!」と嬉しそうに学校まで歩いていく。

その背中に暗雲立ち込めた心がさらに暗くなるのを感じた。




というわけで銀魂高校は一部の受験生を除いて朝から色めき立っていたのであった。
確かに高校生最後のイベントとあっては色めき立つのも無理はない。
受験が終われば、(二次の試験まで行く奴らはまだだけど)卒業しかない。

卒業式では他のメンツに取られる可能性もある。だとしたらこの機会を逃すことは
しないだろう。
色めきだつというよりも寧ろ殺気立ったHRに銀八はノンビリ歩いてきた。

そしてダンボールで作った「先生宛」とデカデカ書かれた箱を教卓の上に置いた。

「はい、シャイな女子向けにここに置いてやるから、入れとくよーに」

「…先生、俺からの愛、受け取って下せィ」

そういって投げられたのは、汚れた消しゴムで。それをはたき落とす銀八はむっとして

「ゴミとか入れたら、デコピンしてやるからな!」

「…ゴミじゃなくって俺からの愛でさァ」

「自分がいらねーもんも入れるんじゃねェエエ!」

ひっでーと言いながら沖田が席に戻るのを見届けてから銀八は、それを置いて去って行った。

波乱のバレンタインの始まりになった。




「土方先輩、チョコレート受け取って下さいでございまする〜」

「……はァ?」

銀八への箱へ誰かがチョコを入れないかと思っているあまりに近づく気配に
気付かずにいた自分は迂闊だった。
昼食の時間になり、いつものように銀八を訪ねようとも箱が気になり
動けずにいると委員会が一緒の後輩が友達らしき同学年の女子に付き添われてきていた。

真っ赤に染まった顔、差し出された綺麗に包装された贈り物。

自分にはこんな勇気すら持てないし、第一男だ。やったところで気持ち悪いだろう。
差し出されたものに一瞬躊躇するも首を振る。




「俺ァ、甘いもん苦手なんだよ」

だから受け取れねェ、と告げれば赤い顔の後輩は、泣きそうに顔を歪めると
お辞儀をして友達と共に去って行った。
後輩の出ていった扉から銀八が顔覗かせて、日誌を俺の手に手渡した。

「お前ね、日直なの忘れてんのかよ。…浮かれてんなよ」

「あ、…す、すいません。…は?浮かれて、…ねぇよ…」

今から取りに行こうと思ってた日誌を持ってこられ、少しだけ凹んでしまった。
そして今の一部始終ではなく誤解されそうな部分だけ見られていたことに首を振って否定すれば
「まぁいいけどな」と言われてしまう。

(先生にとって、…もういいってこと?)

目を見開いて銀八を見ればくしゃりと頭を撫でられる。
そうして離れていった銀八に視線を向けられずにその場に足を縫い付けてしまった。

廊下に出た銀八を待っていたのは、隣のクラスの坂本だったから。
意味深に笑いながら近づく坂本と肩を並べて歩いていく。
嫌そうな態度ながらも気安く肩を並べるのは、半年前に見た屋上の光景のようで。
同じ教師と言うだけで、幼馴染と言うだけでその距離は自分には入り込めないのだと知る。
気紛れに好きと言われたのではないか、そう感じてしまう。
自分だけが本気になってしまっているように思って胸が痛い。

唇を噛み締めて椅子に座り込んだ。







LR後、散り散りになっていくクラスメイトを見つめ、部活に顔を出して
後輩に発破を掛けていたのだが、自分は日誌を何も書いてない上に
教室に残してきた事を知って戻る。




(早く書いて、帰ろう…)

準備室じゃなくて、職員室の机の上に日誌を返せば逢わずに済むに違いない。
そんな事を思いながら渡り廊下を教室まで戻っていく。
いつの間にか自分の気持ちに気付かされたら、貪欲になっていく。

クリスマスに自分のために星を取ってきてくれた先生に子供のように喜んで。

甘やかされる事に慣れてしまって、受験のために逢えない日が続いて。
そんな受けるだけの自分が嫌いだった。




突然銀八の思いを知った。

あの日から、銀八に何か返せただろうか。
そもそも自分の気持ちが欲しいとは聞かされていない。
ただ好きだと伝えたかった、と謝った銀八の手は震えていた。



その気持ちは嘘だとは思いたくない。








だけどそれを知る術をこれ以外には、知らない。
机の中にずっと入れていた小さな箱。

それよりも小さな思いを銀八は理解してくれるだろうか。







教室へと足を向ければ教室内より声がして思わず足を止めた。

そこにいたのは。










銀八と、…猿飛だった。




どくり、と心臓が妙な音を立てた。
















**








隠したままでは食べて貰えないよ?

そう囁きながらも、食べられたら気づかれてしまう。

自分のこの思いにただ一度も向き合えずに。




口に入れたら溶ける甘い箱。

その中に閉じ込められた小さな心。







それを閉じ込めておく事も出来ずに抱えたまま。








































Do you want you to notice a small heart?




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