銀色の夢は月夜に架かるT| 怪盗銀さんと警察官土方君

※パロディというか怪盗銀さんと警察官土方君の話の序章です(笑)
 というか、ル○ンとかそういった類のダブルパロだろ;みたいな;;








ギィ、と軋んだ両開きの扉を押し開けると、埃っぽい匂いがして灯りも最小限のみ灯されている。
本棚が壁には備え付けられ、書庫のような物々しい雰囲気の中、
掛けられている調度品は一目見て美術品の域に達していると分かる。
クリスタル製の大粒の雫のような形をした美術品を手にした男は、

そっとそれを真ん中の硝子ケースへと入れた。




そうして小さく微笑む。


「…行ってくる、先生」




そうして踵を返し、再び美術品だけの静かな空間に戻るのだった。







全て取り返すことぐらい、したっていいだろう?
それに貴方は何と言うだろう。





**







捜査一課は今日も大騒ぎだ。
いや、今日は特にと言う注釈を加えておこうか。
それほど巣を突付いた様に大騒ぎをする警視庁内部で、俺は一人溜息をついている。


希代の怪盗を気取る泥棒にまんまと目の前で宝石を奪われ警察の信用は今はがた落ち、
…だからではない。
それほどいつも警察も信用されているわけではないから、今更信用など少しぐらい失墜しようと
とくに俺の頭を悩ませるものではない。


目の前に広げられた白紙の紙。
コレが今一番自分を悩ませている。




奪われた宝石の価値を諭すように語る家主に上の空でいた自分に
声をかけてきたのは上役の近藤さんだった。

やはり姿は見えなかったな、というようなことだったが。
自分は見たのだ、真っ白いタキシードに銀髪と言う派手な出で立ちで窓から逃走したことを。
身長は自分と同じぐらい、声のトーンから年もそう変わらないだろう。
顔の輪郭も鮮明に覚えているが。




自分は美術関連に全く疎い。そして絵柄と言うものは全くかけないのだ。
よく言えばそうだが、つまりは…。




「土方さーん、ちゃんと皆が分かるように書いてくださいよ?」


後から同僚の沖田にちょっかいを掛けられて眉を顰めた。




つまり絵はからっきし苦手なのだった。
美術は常に絵画暦などで成績をとり、選択授業になってからと言うものの
美術などは選択したことが無い。
書きかけては消し、書きかけては消しを繰り返し…。
こんなことなら怪盗スウィートシルバーを当ても無く追っていたほうがマシである。




先日のことがこんなに鮮明に思い出される。
目の前で消えた希代の怪盗と美術品。
考えても仕方のないことだと思わざるをえない、全くの消失。


手品か魔法か、と非科学的なことを考え付くほど自分の頭は柔軟には出来てはいない。


では、何故あんなにも鮮やかにも…。







「マヨネーズたっぷり、マヨカツ弁当でーす」
「…ぇ?」
ぽんと目の前に置かれた弁当に時間の経過を知る。
いつも来る弁当屋だと気付き振り返れば、既に別のテーブルの署員に弁当を渡している。
署内の食堂を利用するもの、弁当を持ってくるもの、外に食べに行くもの、それぞれだが
刑事の仕事は、テレビで行われているような派手な事件は早々来ないのだ。
ほぼデスクワークで忙殺される仕事の大半をこの室内でこなす同僚も多く、

弁当屋を利用するものも多い。


この弁当屋は、同僚の弁当を見てそれからずっとそこにしている。
味はとくに気にもしない自分の舌を慣れさせる優しい味が其処にあったから。

弁当ともに置かれたお茶、そしてその上に載っているのは。




「ん、だこれ…?」
それは、パンプキンの形をした袋に入っており、中にはチョコレートとキャラメルが入っていた。




「お、い…弁当屋…」
こんなもの注文してねーぞ、と振り返れば弁当を配り終えたのかもう部屋の中にはいなかった。
気配も残さないその仕草に何か引っ掛かる気がして署内を出てその弁当屋を追う。




あっけなくその背中は直ぐに見つかった。
ラフな長Tシャツに、頭にはタオルを巻いたその姿が小型カートを押していく姿が目に入った。
その背中を追いかけてきた場所は非常階段の脇だった。


昨今、喫煙者は冷遇の道を辿っている。
署内には喫煙場所がなく、仕方なく寒空の下、外に出るしか道はないのだった。
空になったカートを寄せて非常階段の戸を少し開けて、

煙草を咥える弁当屋はどこか手馴れていて少しだけムッとした。




「おい、天下の警察庁の署内で一服たァ、いい身分だなァ」
「…ん?…あぁ、キューピーちゃん。…仕事後の一服は旨いねェ」
「だーれーがキューピーだ、コラァアア!」
突っ込みどころがおかしかったのか、目をぱちぱちとした後、弁当屋はククと笑った。
その後、だって、うちのマヨカツただでさえマヨ多めなのに、

もっと多くしてくれだなんてさァ、その辺のマヨラーがびっくりしてケチャラーに転身するね、

と一息に告げられ眉を顰めてしまう。
からかっているわけでもなく、実際に驚いていると言った様子に目を瞬きながら其方をみれば
其処に嫌悪しているわけでもないと言うのが見て取れて意外な気持ちになった。
マヨネーズに対しての食事に対し、殆んどのものが何か変わったものを見るような顔をするというのに。
まァ、弁当屋だし、いろんな食の趣向の奴が現われてもおかしくねェか。




壁に凭れて煙草を取り出すと、火をつけて同じように紫煙を燻らす。
やることは山済みで、でも何も解決していないこの事件は一体どうなっていくのだろうと

思いながら頭を掻く。


目の前で非常階段の戸を開けて、外へと紫煙を飛ばしていた弁当屋がその気配に振り返った。
持ち歩き式の灰皿で火を消してカートを押しながら近付いてくる。


ふわりと纏うのはバニラフレーバー。
弁当屋の煙草の香りだろうか。


それにはっとして、ポケットから先ほど弁当の上に置かれていた菓子の袋を取り出すと

目の前に突き出してやる。




「コレ、頼んでねーぞ」
「…それは、なにやら頭悩ませていたキューピーちゃんへの激励を込めて」
「は?」
ハッピーハロウィン、そういって片目を閉じる弁当屋はクスクスと笑って。


鮮やかな笑い方が、心のどこかに引っ掛かる気がしたが、それ以上追求できずに。
カラカラ、とカートを押してお先に、と立ち去ってしまう弁当屋の背中にハッとした。




「俺はキューピーじゃねェ、…土方十四郎だっつーの!」
それにもう廊下の向こうへと歩いていた弁当屋は、聞こえたのか片手を上げて応えた。




その声に他の部署から人が顔を出したが、一睨みすると皆、見なかった事にして仕事に戻っていく。


そんなに意地になることはないのに、なんだろうこの、感覚は。
引っ掛かるが、昼休みは残り少ない。
慌てて戻り、弁当を平らげながらも、この感覚は消えなかった。








その日の夜、再びふざけた怪盗の予告があった古美術店の捜査および護衛を申し付けられた俺は、
顔を見た唯一の警官として担当になってしまっていた。
特に異論はない、ただ任務となるなら別だった。
何で俺が、と思いながら扉に凭れると、古美術の絵画が掛けられているのを何気なしに眺める。
むかむかとしながら、夜になるとやはり少し肌寒く感じ煙草に火をつける。
そうしていると昼間に引っ掛かったことなんて忘れてしまっていることに気付くのだ。


口に入れた途端解けて溶けるような柔らかく煮られたカツにマヨネーズのハーモニーは
もやもやしていた心の中を払拭してしまったからだ。

あの弁当屋はどうやら配達もし、ほぼ一人で切り盛りしているらしい。
弁当屋のパッケージには「弁当屋銀ちゃん」と書かれていた。


銀ちゃん、ねェ。





何気なく今回のターゲットを見やる。
額縁に掛けられた絵は、額が重そうで此間のように一人では持てない。
しかし、あの不思議な技ですり返られたらと思いながら、窓にも入り口にも張り込ませて
厳戒態勢である。
さてお手並み拝見と言う風体で腕を組んだ。


こんなでかいもの持ち歩けるなら持ち歩いてみろ、というような。







ポッポー、ポッポーと鳩時計が予告の時間を告げて、その場に緊張感を生み出していく。
鳩時計の音が響き、響き渡って消えていくのを誰かの咽喉の音とともに聞いている。
その時だった、警備員の一人が此方へと歩いてきた。




「土方警部補、自分は近藤班長より命を受けてきました。絵画のセキュリティの確認をして来いと」
「あ?…セキュリティは万全だろーが、たく」
確認して来いと言う様に顎を向ければ、警備員がセキュリティを確認するように絵画の前へ立つ。





するとそこからは劇的だった。
あっという間に別の絵に入れ替わったのだ。

音もなくそして少し離れた場所に立つ警備員はクスと笑って
ばっと音を立ててその手に丸められた絵画を持った怪盗スウィートシルバーが其処にいた。




手品か魔法のような変わり様に、呆気にとられてしまった。
警備員の変わり映えのない地味な服を剥いだ真っ白な格好は、それだけ美しいものに見え、
余計動きを追えなかった。
それでもなんとか窓に張り付かせていた部下と、ドアの傍にいた部下に合図を送ると、

後ろを向いている怪盗を取り囲むように視線で指示を出すと、

じりじりと間合いを詰めて警察が近づいているのに、後ろを向けたまま怪盗は何処吹く風だ。




「…そこまでだ。…大人しく手を上げて此方に歩いてきて貰おうか」
目深に被った白いシルクハットに白の燕尾服、白いマントまで羽織った姿はあの夜と同じ。
クス、と笑ったかのように見えた少し見えた口は、

大人しく両手を挙げる白い手袋をつけた手に阻まれた。




希代の怪盗の大人しい投降劇に、部下達がどよめくのを感じつつ、自分も僅かに目を剥いた。
流石にこの人数では逃げられないと思ったのか、と思った次の瞬間。


ふわりと香った甘い香りに、ふらりと部下の一人の体が傾いだと思ったら、次々部下達が倒れていく。


その香りを感じる何かが、睡眠薬か何かかと鼻を塞いだときには遅かった。




「…ん、…て、め…ッ!な、な…なに…、ごほ…ッ」
騒げば騒ぐほど慌てて息を吸い込んでしまい、瞼が重く圧し掛かってくるのを感じる。
くらり、と視界が回って立っていられなくなるの睡魔に膝を付けば

このまま眠ってしまいたい衝動を抑える。
慌ててその場に手を付いて何とか怪盗を見上げようと視線を向ければ、

その場に屈む怪盗に見つめられぎょっとなる。




「やっぱりいいねェ、…これ食らって意識保てる子いなかったんだけど」
頑丈にマスクをして咽喉を震わせる怪盗の様子に歯噛みしながらその場に崩れ落ちる。
小さく笑う気配に瞼が覆い被さってくるのを堪えているも、もう限界のようだった。
こんな近くに奴がいるのに、手を伸ばせば捕まえられるのに。




「ではまたね、…土方十四郎君?」
その目で追いかけられると思うとぞくぞくする、といって離れる気配に、震える手を伸ばす。
しかしその指は空を掴んだようだった。


チクショウ、と悪態をつけたか否か。




意識を失う直前に、再び傍で気配がして咽喉を震わせる様子に意識を囚われた。




「…似顔絵は、男前で、よ・ろ・し・くv」
「…、……ぇ……、」
バッチリ決まったウインクがいやに板についてるヤツだ、

と思いながらそのまま意識はブラックアウトした。


何か言われた気がするが、深く考えることが出来なかった。







気付いたときには病室で寝かされていた。
どうやら部下たちと床に倒れていたらしい。
しかし、身体等に何処も異常なく、他の部下も特に異常なかったようだった。
ベッドの上で悔しさに歯噛みしていると、近藤さんが見舞いに来てくれた。




「…大丈夫かぁ、トシ」
「絵画はどうなった?」
「ん、あぁ偽者と摩り替わってたらしい。警備員は一人身ぐるみ剥がされて屋敷内で見つかった」
今度からは偽者だって見破れねーといけねーなと半ば感心したように話す近藤さんに

自分の失態に気付く。




「すまねェ、…俺が見破れねーばっかりに…」
「今度気をつければいいさ、…で最後、なんていわれたって?」


そう聞かれれば首を傾げつつ、おぼろげだった記憶の再生を計る。


…確か似顔絵、がどうとか…?







「あ、―――……ッ!?」


そして唐突に思い出す。怪盗の似顔絵を描いていて、苦戦していたこと。
犯人の顔を見たものは、署内では俺しかいないということで。


何を知っている?どうして知っているんだ?


混乱は混乱を呼び、ベッドの上で頭を抱えてしまう。








鮮やかに現れ、そして消えた怪盗が暫く残像となって瞼の裏側から消えなかった。










**


空に浮かぶ月の様に。
希代の怪盗は、唇を吊り上げた。






















続…?