ありのままの君はちょっと複雑な味がした| 怪盗銀さんと警察官土方君

※パロディというか怪盗銀さんと警察官土方君の話の序章です(笑)
 というか、ル○ンとかそういった類のダブルパロだろ;みたいな;;








※これは、ブログで行った美味しい関係7題+ショートケーキで5題の12話更新企画(感謝のカウントダウン企画☆)の作品です。







コツコツ、と硬質な音が響き渡ってその絵画を警備する警備会社の人間は欠伸を噛み殺しながら歩く。
深夜とは言え、現在ふざけた名前の怪盗が絵画や美術品を狙っているので
警備会社にも深夜までの勤務を要求してくる。
大体警察があれほど網をはっても捕らえきれない怪盗が、俺みたいな警備会社の下っ端に防げる
わけがないのに気休め程度なのだろうか。
畳4畳分ほどの大きな絵画の前を何度も往復しながら、こんなでかい絵画なんざ流石にもって逃げるにしろ
相当な設備が必要であると考え始めていた。


それも全て眠気覚ましだ。
俺が考えていることも、きっと警察はもっと正確に把握しているはずで。


この屋敷の絵画は何もこれだけではない。
壁に掛けられたあの時計だって、花瓶だって美術館並みの価値がある。
ただ、俺がこの絵画の周りをぐるぐる回っているのは、意味はない。
イラストにかかれた蒼い湖と森の情景がとても気持ちがいいもので気に入ったからである。
絵画なんて何も分からない。


彼女と美術館巡りをしても、色彩が綺麗であるとか、

あのでかい絵は制作に何時間かかったのだろうとか

凡そ美覚センスのない感想を抱く程度の人間である。
それなのにこの絵の森の奥に吸い込まれ、自分も湖に浸かっているような清々しさが身体中を駆け巡る。
それはこの絵に込められた、描き手の力であるのだろうか。
そうして気付くのは、湖の対岸に一人の少年が描かれている事に気付いた。
瑞々しいその肢体を湖に付け、水と戯れ愉しそうだ。
笑い声が響き渡りそうなほどで、今までどうして気付かなかったのかと思ったほどだ。




そうして気付く。
絵画のど真ん中に、新聞などで見慣れた銀色のカードが貼り付けられていることに。
馬鹿な、目を離したのは数秒であった筈、と彼は後にもそう語る。
『今夜0時過ぎに、湖畔を頂きに参ります。シルバースウィート』
銀色のカードにはそう流れるような文字でそう書かれていた。




新しい制服になって数日。その着慣れなさにようやく慣れてきた。
警察官内で模様替えが始まっていた。
4月より一新した制服は、偽者を見破るためにある仕掛けがついている。
それは、全てあの怪盗のためだった。
二度も目の前で逃してしまった俺は、悔しさのあまりこの役を降りようと思った。
しかし、残されたメンバーがあまりに不憫でまたこの現場に復帰していた。
何よりこの手で捕まえることが、自分の使命のような気がしたからだ。





「お、今日からおにゅー制服?似合ってンじゃん、キューピーちゃん」
はいよ、マヨカツ弁当と言って差し出す弁当屋は変わらない。
赤出汁のサービスをペットボトルに入れ、紙コップに注ぐ。
春近しとは言え、三寒四温の冷え込みに、まだ温かい飲み物の方がありがたい。
弁当を受け取りテーブルに赤出汁を置かれると、睨めっこしていた書類から顔を離す。
件の弁当屋は「ん、今日は冷えるね」と意味深に笑い、同じディスクにいる総悟のテーブルにも弁当を届ける。





「っていうか、キューピーちゃん。ボケてますけど、目を開けたまま寝るなんて余裕ですねィ」
「って言うかキューピーちゃん言うなッ!」
沖田こそ寝癖のついた前髪を隠さず、

そう弁当屋の渾名に便乗すると激辛豚キムチ弁当を受け取っていた。
制服を着た怪盗に自分はおろかにも騙されて。
隙があったとしか言いようがない。
いくら近藤さんの名前を出したからといって、名前と所属を確認すべきだったと思う。
今回も人員の足りない中での配置になるため、顔は見知ったものばかりではないのだ。
今回の予告状は絵画。
此間と一緒であるが、今回は規模が違う。
一人で運び出せるような代物じゃないから、

タカを括って警察ではなく警備会社のものに警備を頼んでいたらしい。
美術品を多く取り扱う、その屋敷は他にも価値があるものが多く、警備会社は大失態と言うわけだ。
まだ被害があったわけはないが、興奮して事情聴集に応じていた警備会社のあの若い男はくびを言い渡されてしまっただろうか。
今回の作品は、その家の中で飛びぬけて価値があるものでもない。
ただ作者は死んでしまっているので、もう二度と描けないということで付加価値は付くのかもしれない。
赤出汁の入ったペットボトルの蓋を閉じ、意味深に笑う弁当屋は「じゃ、まいど〜」と踵を返す。
最早書類から顔も上げられなくなった俺は気付けなかった。





タオルに巻かれた弁当屋の髪がほつれて、昼間の部屋に光っている。
それが、銀色であることを。










その日は春だというのに寒々しい一日だった。
だから当然日が落ちてからも、風が吹き荒れる中での警備となった。
綺麗に見える夕焼けを見ながら夜になって行くのを屋敷の外でコートを揺らしながら立っている。





「よ、トシお疲れ」
近藤さんが長い会議を終わらせて、本部に合流した。
周りにいた部下達は皆敬礼の姿勢をとる、自分も形だけの敬礼をして、その声に応える様に視線を向ける。
今日も同時に警備の仕事をするが、警察が本来しなければならないのは犯人の逮捕だ。
少しだけ焦燥を抱えたように肩を竦め、屋敷を見上げる仕草をすると侵入経路にはとりあえず警備の指示を出したがな、と近藤は言う。
しかし、窓も割らず入ってくる鮮やかさにそんなもんで防げるのか、と思うこともある。
自分は実際に見たのだ。
窓を割らずに、本当に魔法のように消えた。
そして、変装術も希代の怪盗の名を欲しい侭にしている。
いつしか報道のカメラなども集まってきて部下に指示を出すが、それでもメディアの鼻はよく効く。
規制も引けずにマイクを持った記者やカメラクルーを抱えるものまで出てくる。
いつの間にか怪盗という名前だけで一般の女性はもとより警察署内の女性職員までも人気がある。
なんせいつも声も掛けられない女性職員から怪盗の顔の造詣まで聞かれるのだ。
此間似顔絵を描いてみたのだが、あまりに下手で捨てようとしたら沖田に見つかって笑われた。
鮮明に頭の中に描いていても繋げることは難しいと知った。





「…なァ、トシ。トシは何処からの侵入が可能だと見る?」
「さァな…、こんないの絵画は重いもんだから、空からの…」
言葉を途切れさせて上を見る。





屋敷の屋根に人影が見えた、気がした。
予告の3分前。クソ、と舌打ちをして駆け出す。
「お、おい。トシ?」そんな近藤さんの声が聞こえた気がしたが、応えることは出来ない。
屋根の上で微笑んだ人影は、白いタキシードを着ていた気がした。
気のせいだとは思いにくい。
しかしそれを説明するのは難しい。
二度も目の前で逃した執念だろうか、自分は先ほど警備の確認をした絵画のある宝物庫へとひた走った。
屋敷の中は不気味に静かだった。
警備のためざわついていた一階と比べ宝物庫のある2階は静かで、訝しんで足音を立てずに階段を登る。
回廊のようになっているそこには数名警察官を張り付かせたが、その姿はない。
予告時間1分前、嫌な予感がし絵画の仕舞ってある部屋の扉を開ければ、
その絵画の横に白いタキシード姿の男が立っていた。





「やっぱり来たね、土方十四郎警部補?」
くすす、と楽しそうに笑ってマントを翻すその姿に一瞬呆気に取られながらも差してあった銃を構える。





「う、…動くなッ」
「あらら〜、チェックアウトってことかなァ…」
それでも愉しそうに笑う怪盗に眉を顰めながらも、銃を向けたまま一歩近付く。
俺が追い詰めたはずなのに、何でこいつは笑っていやがるんだ?
そんなことが脳内を過ぎる。
もしくは俺のほうが追い詰められたような気持ちになってしまう。
多数の警察官がこの場所を守っていたはずなのに、何の気配もない此処に二人で対峙する、その意味は?
絵画に描かれた湖の湖畔、その神秘的な色合いはみる人を心地よい気持ちにさせる。
しかし、ぴんと張り詰めた緊迫感を怪盗はクスクスと笑って一蹴する。
威嚇だと思っていやがるのか、と思って安全レバーを震える指で外そうとする。





「まァまァ、もう少し話してたって良いでしょ?」
丁度誰もいないし、といって絵画から離れ直ぐ傍まできていたらしい怪盗に目を見開いてしまう。
気配が全くしなかった、と直ぐ横にいる怪盗に視線を向ける。
その口端が鮮やかに吊り上がる、と感じた次の瞬間だった。





「…ッん、…ぅ…ッ、…ッ」
そっと手を掛けられ、顔を寄せられたと思えば唇を合わせられた。
慌てて引き剥がそうとすると、愉しそうな気配の怪盗はぴょんと高く跳躍して再び絵画のところへと姿を見せる。
男にキスされるなど不覚だといわんばかりに唇を擦れば、肩を竦めた怪盗は小さく笑った。





「そんなに拒絶されると、…逆に堕としたくなるってもんさねェ」
「て…テメー…ッ、…な…ッ」
「じゃあ、また遊んでねー」
ポン、と高い破裂音が響いた途端に、怪盗の姿はなくそして絵画もなくなっていた。
この唇に触れた唇の熱だけは覚えているのに、その姿はもうなくなっていて。
予告時間の鐘と共にいなくなった怪盗に、盛大に舌打つしかなかった。
鐘が鳴り響くのを忌々しい気持ちで、その場で暫し立ち尽くしていた。










数日後、絵画が既に数日前に何者かに盗まれていたということと、
あの場に合ったと見せかけられていたのはホノグラムだったらしいということだった。
なので今回は失態ということではなく、とっつぁんの小言も軽くてすんだ。
寧ろ怪盗の居場所にいち早く気付いた俺の評価は上がったが、複雑な心境だった。





「…どうした、トシ?」
「…なんでもねェよ」
唇に煙草を咥えようとして、唇に触れた熱を思い出してビク、と指を震わせてしまう。
煙草が床に落ちて転がっていく。


『また、遊んでね』そう呟いた怪盗の声音が耳から離れない。


複雑で不明解な謎は、更に深くなっていくばかりだった。







そうして、俺はまた一つの符号に気付くことはなかった。
絵画に描かれた少年の髪の色は、鮮やかな”銀”であった事に気付かずにいる。











続?