土方警部補の素敵な休日T| 怪盗銀さんと警察官土方君

※パロディというか怪盗銀さんと警察官土方君の話の序章です(笑)
 というか、ル○ンとかそういった類のダブルパロだろ;みたいな;;








光よりより早く走って。
必ずお前を捕まえるから。
ちかちかと点滅する光を追いかけて、暗闇の中を駆け出していく。
その光を背に、笑うのは…?





**





ピピピピピ…――


日差しが眠る自分の顔を照らす。
どこかで鳴っているのは目覚ましか、と身体を起こして止めれば
時刻は6時半を回っていた。
今日は非番であるが、いつもの癖で目覚ましをセットして眠ったらしい。
寝癖の付いた黒髪を掻き上げながら欠伸を一つ漏らして窓を見つめる。
日差しが振り込んできていることから、今日も良い天気であることが知れ、そして暑くなりそうだとぼんやり思った。
枕元に置いてある携帯をチェックするのも日々の習慣、そしてベッドから降りて洗い場で歯を磨くのも習慣だ。


そして最近加わった習慣は、朝刊に目を通すこと―――。





「…、…ックソッ」
眉を潜め一面に大きく載った強盗事件発生を知らせる記事を眺め、舌打ちを打つ。
其処には、自分が取り逃がした怪盗の記事が載っていた。





「…スウィートシルバー…」
呟く声は朝の日差しに消えていったが、沸き上がる感情はおよそ朝の光に似つかわしくないほど醜くなっていった。
怪盗Sweet Silverは半年前ほど前から、度々豪邸や美術館などに現れ、名画を盗み去っていく
怪盗である。
土方も何度も警察官としての威信をかけ、何とか捕まえようと試みたものの雲のようにすり抜けてられてしまった。


そうして、未だにその姿すらも見たものはいない。…土方を除いては。
神出鬼没で、人を傷つけないスマートな盗みは最早、テレビアニメのヒーローのように民衆に持て囃され、
メディアの視線もとても熱い。


(…何がヒーローだ、何が)
人を傷つけるようなそういって盗みではないし、国宝級の絵画でもない。
しかし、れっきとした盗みであることは間違いがない。
理由があるにしろ、ないにしろ、それは罰されるべきものなのだ。
写真の記載は、盗まれた絵画があった美術館だけ、それなのに此れほどまでに話題となるのは。





「…な、にが義賊だ、…ッ」
持っていた新聞を手の中で握り潰す。
その記事には「怪盗スウィートシルバーは義賊?」の文字が躍っていた。





実は、雑誌など民衆向けのものはもっと早くから怪盗を美談にしていた。
芸能人の離婚騒動などで飽き飽きしていたメディアがこぞって飛びついたといえよう。
警察内部は諌言令が引かれ、メディアには一切口を開かないが警備員達や被害者達は
ちらつく出演料に飛びついて口にしてしまうのだ。


『忽然と、その絵は見張りの者の前で消えた』だの『空を飛んで現れる』など。
それらが信憑性があるかないかなんてどうだって言いのだ。
面白おかしくして、雑誌の売り上げを伸ばせればいいのだから。
自分が書くよりももっと綺麗に漫画チックに書かれたイラストも何回も見た。
しかし、どれも何処かのテレビドラマにでも出てきそうな顔立ちばかりで。





くしゃくしゃになった新聞を離し綺麗に折りたたむと、伸びをしながら立ち上がった。
非番とは言え、男の一人では潰す方法も定まってくるが、もう一度ベッドへ戻る気にはなれなかった。





「…散歩に行くか」
部屋にいるよりも気分転換が出来そうだ、なんて窓の外を見やった。











夏の日差しが一向に収まらないため、軽く水分補給にと水筒を持ってきたが正解だった。
日陰の多い公園で関わらず、昼間は人影が疎らで、どうして人が少ないのか直ぐ分かった。
酷暑とは聞いていたが、昼間は出歩くもんじゃねェなと近くのベンチに腰掛けて呟いた。
帽子を被ってきたが、日差しは防げずやっとたどり着いたベンチも日陰にはあるが、とても涼しさは感じられない。


時折、ランニング姿で走る人影や歩く人を見るが、それでも疎らだ。
それでも余計なことを考えずに済むのは、少し気が抜けるとタオルに口を当てて大きく息を吐き出した。


公園の端にあるベンチだが、公園の向こうまで見渡せるのは此処がそれほど大きい公園でないことが分かる。
陽炎の立つ公園の砂場より先、道沿いに店が立ち並ぶのを何とはなしに眺める。


意識的にと言うわけではない、ただ何気なく見ていたのだ。
(…あんなところに店が出来てんだな…)
食い物屋があったらもう少ししたら昼飯にするか、なんてぼんやり思っていると、その店から
出てくる人影がどこかで見た覚えがあった。


此方に気付いたのだろうか、それとも公園に用事でもあるのかというほど真っ直ぐ此方へと向かってくる。


水筒に口をつけて飲みながら、それでも思考が纏まらずにいれば、

見覚えのあるその男は、いきなり俺の目の前に立つと手にしていたペットボトルの水を振り掛けた。


「…ッちょ、…ッわ、ぷ…ッ!」
「大丈夫かっ!?昼間にこんなところにいたら熱射病に…、ってアレ?」
冷たいと感じる間もなく、濡れていくそれに防ぎようがなく手を振ってやめさせるようにするが、
目の前の男は全て空になってしまってから気付いたように、手を止めた。




その時、視界がぐらりと傾いで体の重心がぶれた。
慌てて伸ばされる男の腕に、何か妙な感じを受けながら意識を失った。


その間も目の前の男が何度か自分を呼んでいる気がするが、それすらも。














「ん、…?」
天井が黄ばんで梁の部分が大分古い。
視界に移ったそれに、いつもの自分の寝室ではないと気付いて目を開けば、職場にいつも弁当を
運んでくる弁当屋が、いつもと同じくタオルを頭に巻いた状態で心配げに覗き込んでいた。





「…あ、目が覚めたみてーだなァ、いきなり倒れるんだもん、心配したよー」
「べ、弁当屋?…どうして?」
「公園で座り込んでる奴見つけたから、熱射病になりますよーって伝えにいこうとしたら、キューピーちゃんだもん。
で、いきなり倒れるしさァ」
仕事疲れで、いきなりあの日差しはまずいっしょ、そんな風に軽く告げられて眉を潜める。
体力のなさをからかわれた気がするのはどうしてだろう。
年の頃は変わらない、そんな様子なのに弁当屋は特に何も変わらない。
布団から首を曲げて見回すとどうやら古い和室のようなところに寝かされているのだと気付いた。
しかし、どこか手入れの行き届いているため、この場所は弁当屋の拠り所なんだなと素直に思う。





警察署では様々なデリバリーが毎日行き来している。
警察本部のような所ではなければ、ビザを取るモノだっているのは会社と変わらない。
そのデリバリーの一つで、中々上手そうな弁当を出しているが作るのに限りがある手作り弁当「銀ちゃん」は
その頭角をめきめきと現し始めている。





いつもは何処の弁当屋でも「マヨネーズが足りないんだけどォオオオ!!」と持参したマヨネーズを
振りかけていたが、この弁当屋は受注する弁当の数が少ないせいか様々な要望に応えるのだ。


例えば後輩の総悟などは「噛むのがかったりーんでェ、カラシ豚キムチ弁当」なんていうのだが
(噛むのがかったるい時点で選ぶメニューではない)
ちゃんと噛まなくても解けそうなほど煮込まれた豚キムチが乗っかった弁当がやってくるのだ。
俺の弁当にも必ずマヨネーズが沢山載っていて、それに満足げに頬張っている。





「…いっくら非番でも熱射病ってどんな非番?」
「ち、違う。テ、テメーこそいきなり水ぶっ掛けるってどんな理屈だ、コラ」
「え、違うの?隣の家のでかい犬、此間熱射病で倒れたんだけど氷水かけてやったら直ったけどなァ?」
犬といっしょにすんなッと反射的に怒り、身体を起こせば、服も新しく着せられその乾いた感触に少しホッとした。
冷たい茶でも飲んで、と薦められたコップは、表面に水滴が付いてとても冷たそうだ。
礼を言って一息に半分ほど煽れば、その水分が直ぐに咽喉から吸収されていくように感じた途端
腹の虫が鳴った。





一瞬の間、それから火が付いたようにひっくり返って笑い始める弁当屋に、コップを叩きつけるわけにも行かず
静かにおいた後、手元にあったタオルを投げつける。










「はは、は、…。ね、良かったらおさんどんの余りがあるから食ってかねー?」
笑いが治まらずといった様子の弁当屋にムッとするも、断りきれず頷くのだった。
考えなければならない多くのこと、しかし夏の暑さでは思考は纏まらない。


こうなったらとことんだ、と俺は開き直っていい匂いのするお盆に乗る食事が運ばれてくるのを待つことにした。





頬が熱いのは、夏の暑さだけではないのは分かっていたが。

















布団の上で思考を巡らせながら、それでも頭を抱える土方に小さく笑って
弁当屋は今日の残りのメニューで手早く、自分のと土方の昼ご飯を作る。





「…なんか妙な縁があるんだよねェ」
クスリ、と笑みを穿きながら小さく呟くものの、薬缶が沸き始めた音で土方には聞こえなかった。











**




光を追い求めるように走る足音に気づいて足を止める。
光を見ていれば、時に闇が恋しくなるものだ。
早く、ここまでおいで。
そうじゃないと楽しくない。
小さく笑って光へと飛び込んだ。