土方警部補の素敵な休日U| 怪盗銀さんと警察官土方君

※パロディというか怪盗銀さんと警察官土方君の話の序章です(笑)
 というか、ル○ンとかそういった類のダブルパロだろ;みたいな;;








正直一目見たときから気になる存在ではあった。
警察署に弁当を届け始めた頃、一課のデスクに一人で書類を書く男がいた。
真面目そうで、不器用そうなその横顔がとても気になって、その場に少し立ち尽くした。
切れ長の眸を僅かに伏せて、昼休みで席を外す署員が多い中最後まで仕上げない時がすまない性質なのか
必死に何かを書いていたのを見つけたというのを覚えている。




「弁当屋銀ちゃん」は先代の(といっても生きている)店を引き継いで出来たものだった。
老舗の(悪く言えばオンボロ)一軒家を弁当屋に改築したのは生計を立てていくのに便利だと思ったから。
始めは近所の会社や工場に配達したのが切欠で瞬く間に噂は広がった。
今はネットやら携帯やらで情報は広がっていく。
宣伝費が省けた、なんて笑ったらババァに殴られた。
『商売っ気もない奴が欲なんか出すんじゃないよ』
取り口が増えても、数量限定なところは変わらない。従業員といえば、時折近所に住む
ガキが二人手伝いに来るぐらいだ。
ま、二人とも学校に言ってるから平日の夕方か、休日だけだ。


厨房兼仕事場の片付けをして、明日の注文表を見ながら冷蔵庫を眺め、ふと窓の外を見やった時だった。
(…、…こんな時間に…?)
今年の夏は半端なく暑い。
店の前を一本道を挟んで公園があるが、その公園のベンチに座る人影を見つけた。
そろそろ太陽が一番真上に到達するような時間に、炎天下で(日陰にいるだろうが変わりはない)
休憩なんてどんな無謀だろうか。




始めはほっとこうかと思ったが、ふと目を凝らせば何処か似ている気がして足が自然と向いた。
…警察署で見つけた真面目で不器用そうな彼に。
画して、その場で倒れこんだ彼の身体を支えると、その身体がとても暑いことに気付いてその背に抱えた。
あんなに高カロリーなものを食べているというのに鍛えているのか彼の身体は軽く感じた。




厨房から残っていた煮物を手早く温め直しながら、味噌汁やご飯をよそう。
揚げ物は少ししか残っていないので細かく切って卵とじにした。
それをご飯に掛けるとお盆に載せて土方のところへ戻れば、「なんか、悪ィな」と殊勝な言葉が返ってきた。




「…改まってナニ言っちゃってんのー」
「助けて貰ったし、…それどころか飯まで」
今更自己嫌悪らしい、そんな真面目な彼にクスッと笑みを零した俺は、ちゃぶ台を引き寄せて食事を並べる。
布団に身体を起こしたままでいるキューピーちゃんに座布団を用意しながら、箸を差し出す。


「俺は、一人で食べなくて済んだからラッキーだけどね、あ、もしかして気持ち悪ィとか?」
「や、…食べれる。…ってか、本当にお前、料理上手なんだなァ」
感心したように箸を受け取り、膝で此方へと身体を寄せる土方に、口端を上げて手を合わせる。
土方の目の前にマヨネーズをボトルごと置いてやると「よく分かってるじゃねーか」と言わんばかりに嬉しそうな顔。
なんつーか、人に慣れない小動物をてなづけたみてーな気がして肩を竦めるのだった。
それから暫し無言で箸を動かしていた土方が(感心したように何度も「美味い」とは言っていたが)
不意に顔を上げたので、味噌汁を啜りながら視線を向ける。




「…ここは一人でやってんのか?」
「ん?あァ弁当屋ね、基本的には一人。たまにマメガキ二人が来て手伝いなんだか残りもんを食いにくるんだかで来る程度」
だからあんまり作れねーの、ゴメンネと片目を瞑れば、「こんなにうめぇのになァ」と呟く声にくくくと笑う。


「、…なんだ?」
「いや、キューピーちゃんて、あんまり人を褒めないタイプだと思ってたんで。お褒めのオコトバありがと」
「ちゃ、茶化すなっ。マジで言ってんのによォ…」
ズ、と味噌汁を啜り自分でも柄にでもないことを言ったことを恥じるように顔を隠した。


そんな土方に此方も更に興味が湧くようで、色々聞くことにした。




「ね、ね、色々質問いてイーイ?…そうだなァ自己紹介をどうぞ」
「は、ァ?」
露骨に顔を顰めながらも、食べつくした飯に腹が収まれば口も緩むものだ。
熱いお茶を注いでやりながら、「身体冷やしすぎても毒だから」と勧めれば眉を潜めながらもお茶を一口啜って。
名前や年齢、出身地や職業、家族構成などぽつぽつと話した。
案外人は自分のことを話すのが苦手である。
稀に自分のことを話したくて自書伝を書くものもいるが、不得手な人のほうが多い。
自己アピールをしろ、といわれて自分のことなのに自分のことを説明できないことに戸惑う。




土方も苦手な方だろう。「じゃあ質問」と自分が言い出したときにはホッとした顔をしたほどだ。


「キューピーちゃんの好みのタイプは?」
「ま、ぎゃーぎゃー煩くねー奴ならいいか、な」
「ということは、現在仕事がコイビトな訳ね」
図星、というようにぽかんと俺を見返す土方の視線にタイプが具体的じゃなかったからね、とクスクスと笑う。
そして年齢は自分より3つも年上だと言われて少し意外な気がした。




「んだ、その顔は?年相応だろ、俺は」
「んー、若いねェ、絶対俺と同じ年だと思った、から」
確かに俺の年で警部補なんていう階級はトップキャリアで、警視庁の持ち物になって俺なんかじゃ会えなかった、かも。
でもたった三年で警部補なんて凄いね、と褒めればうちのチームは最強だからな、と少し嬉しそうにしていた。
しかし、その表情が少し曇ったのを見つめ、俺は口噤んだ。
現在新聞や雑誌などのメディアを賑わせている怪盗のことだろう。
くすり、と笑って「冷蔵庫に冷やしたスイカもあるけど食う?」そんな風に話の転換をすれば、「…、…おう」と小さく応じる声に


笑みを深めながら取りにいく。


知れば知るだけまた興味が湧いていく、そんな存在に逢ったのは初めてだった。
正直者が馬鹿を見るようなこんな世の中で、肩の力を張って正義を貫こうとする。
そんなこの時代に少々似つかわしくない存在だからだろうか、いや。
きっとそれだけではない筈で。
適当にスイカを取り出して切ると、土方が食べ終わった皿を盆に載せて来ていた。




「あぁ、ありがと。今日はあんまり揚げ物なかったんで、ちょっと物足りなかったろ?」
「んなことねーよ、丁度良かった。…それも美味そうだな」
手元のスイカを覗き込む様子に年の差は感じられず思わず笑ってしまう。


「夕方まで残しとくとさァ、マメガキらに食われちまうからさ。…内緒な、・・・あ」
そういってからマメガキと認識のない彼が言うはずはないだろう、と気付いて咄嗟に誤魔化せずにいると、土方は小さく吹き出した。


「…極力黙ってることにするぜ、…俺も詰られるのは御免だからなァ」
「…よろしく頼むぜ?」
子供のように笑みを含めながらも、年齢を聞いたからなのか大人の余裕でそう呟く土方に少しだけ罰の悪い顔を
してしまうとスイカを切って渡した。
それから洗面台に並んでスイカを食べると、その冷たさと甘さに二人してにんまりと笑う。


今年の夏は例年に比べ暑さが半端ない。




しかし、この暑さが土方という人物を深く知ることが出来た機会なら良かったと思った。





その時、携帯の着信音がけたたましく鳴り始めた。
その着信音に手を洗って駆け出す土方に、目を軽く瞬くものの緊急事態なのだと分かってしまった。
携帯を押し当て通話ボタンを押した途端緊迫の走る空気に、洗い物を水の張ってある桶につけて音を立てないように手を拭う。
頷き応じるごとに険しくなっていくその表情を眺め、携帯を切れば慌しく身支度を整える様子に「お仕事?」と首を傾ける。




「あ、…悪ィな、この礼はちゃんとするから」
「いいえー、これからもぜひうちの弁当屋銀ちゃんをどうぞよろしくー」
服も洗って返す、と言って干して乾いた土方の服を袋に入れてやるとそれを手に持ち、玄関から出て行く。
そのまま慌しく走っていこうとした土方が此方を振り返る。


手を振っていた俺は、首を傾けて土方を見やる。




「…なァ、…お前の名前は?」
俺ばっか話して、テメーのが聞けなかったから、と言い訳のように付け加えられて。目を軽く見開くと、
くすりと笑みを浮かべた。




「銀時、…俺の名前は坂田銀時、っていうの」
「銀時、…またな」
微かに唇に笑みを浮かべそれから走って大通りへと抜けていく背中に、いつまでも呼ばれた名前が耳の中で響いて消えなかったから。


困ってそのまま苦笑染みた笑みを浮かべてしまう。
(…面白いなァ、土方、十四郎君…)
純粋な興味ではない感情を上手く押さえ込めたかどうか心配だった。










不意に道沿いから声が掛かり振り仰げば、学生服姿の少年がこちらに向かって走ってきていた。





「おう、新八っつぁん。今日は早ぇーじゃん、…でも丁度良かった。後は任せていい?」
「今日は委員会なかったんで、…ちょ、またパチンコですか?」
困惑したように、その眼鏡の乗っかったその表情に焦りを滲ませた新八に小さく笑う。


「鍵はいつものところに宜しく〜」
エプロンを外し、新八に渡せば部屋に一度戻り、それから直ぐに支度をして出て行く。
さっき土方が消えた方角とは逆にゆっくりとした足取りで歩き出した。










夕暮れに街が染まっていってもまだ未だに気温は下がらず、西日の強さに不快度が増す。
しかし、弁当屋のその横顔には、小さな笑みが浮かんでいた。