土方警部補の素敵な休日V| 怪盗銀さんと警察官土方君

※パロディというか怪盗銀さんと警察官土方君の話の序章です(笑)
 というか、ル○ンとかそういった類のダブルパロだろ;みたいな;;








点滅するのは白い光。
それを追いかけようとするのに前へ進めない。
黒い闇が足にひりついてしまってまるで泥のようだ。
白い光が段々と弱くなる。
それに俺は手を伸ばす。
しかし、それには届かないでいるんだ。







**







「…おう、トシ!悪かったなァ、オフなのに」
「いいって。で、状況は?」
「なんでィ、土方さん。今日は変わった服着てますねェ?」
メモを上げて制服を纏う警察官の中から俺を呼ぶ声に駆け寄ると、
その隣にいた総悟がぬっと顔を出した。





それからはっと気付いたように視線を下へと下げれば、何の変哲もないTシャツとジーンズだが
確かに自分では選ばない色ではあるが。
特に何も変わりはないだろうと、眉を潜めればニヤ、と笑った総悟は笑みを含めながら言った。





「ズボンのポケットにイチゴのマーク付いてやすぜィ?」
「な、…ッ!?」
指摘され振り返れば確かに、尻のポケットに赤いものが張り付いていることに気付いた。
先ほど弁当屋の服を借りてきたのだが(二つほど折らなければならないと気付いたが
男の矜持のため黙っておいた)こんなことがあるとは盲点だった。


話せば話すほどに不思議な男だった。
よく笑うしよく食べるが、どうにも雲を掴むような話をする。
核心に触れさせないようなそんな奇妙な話し方で、それなのに不意に真面目になったりふざけたり。
また話してみたいと思う、…このズボンの事はとりあえず置いておいて。
こっちばかり話していて聞けなかったこともある。
年齢は俺より3つ下だという、銀時という名前。
(…よく考えたら、それぐらいしか聞いてねーじゃねーか)
後は、ほぼ一人で弁当屋を切り盛りしているとか、近所のガキが二人手伝いに来ているとか、その程度だ。





「…トシ?」
「あ、いや。なんでもねェ、話してくれ」
ふと思考に沈んだ俺を近藤さんは訝しげな視線を向けつつも、切り替えればメモを片手に説明を始めた。
それは凡そ先ほど携帯で聞いた内容だった。





「…今日の午前中にこの家の二階に主人が上がったところ、押入れに使っていた部屋の奥で埃を被ってた
置時計にこのメモが付けられていることに気づいた」
「…、今回はそれほど価値があるってわけじゃねェのにねェ…?」
「………」
しかも、埃を被っていたと言う事から、この家の主人すらも殆んど存在を知らなかったらしい。
恰幅のいい主人が首を傾げながらこう証言したらしい。





「いえ、たいしたことじゃないんですが。私が今日この押入れに入ったのはただの偶然なんです。
もしこのメモに気付かなければ、勝手に盗まれてたってことも…、いや警察の方は信頼してますよ」


最後は言い訳のように続けられた言葉に、この怪盗には警察の歯が立たないことを意味しているのだ。
それは横たわる事実で、そのことが警察内部にも一種の熾りのようになって沈んでいるのだ。
しかし、いつものように自信の根拠もなく近藤が笑い飛ばす。





「まァ捕まえてみて話を聞けばいいじゃないか、…なァ?」
確かにそうだ。確かに作った作者には共通点があるようだが、それでも価値がバラバラのような気がする。
作った時期が違うのか、それとも。


綺麗に書かれたSweet Silverの文字に"今夜22時、忘れらるる時を刻むもの”を頂戴します”と続く。
これは警察威信への挑戦状だ。
指紋を付けぬ様にビニールで覆われたそれから視線を家へと向ければ、きっと睨みつけた。


侵入経路は窓と玄関と勝手口。しかし時計が置いてあるのが二階のため、窓を侵入経路に警察官を張り付かせる。
主人に案内され、二階へと階段を登れば天窓から月明かりが差し込んできて、思わず見上げた。




「…、綺麗でしょう?」
「は、…はァ」
立ち止まって見上げた俺に主人は自慢げに唇を緩める。
天窓には贅沢にもステンドグラスが嵌め込まれていた。
よく磨かれていて、キラキラと様々な色の光が降り注ぐ。
ふと疑問に思っていることを口にする。




「…なら、何故。あの置時計は埃を被っていたのでしょうか?」
「…、え?」
「あんな掃除しにくい場所のステンドグラスが綺麗なのに、どうして時計だけは?」
階段の踊り場で主人は、その言葉に足を止めて振り返る。
少し笑みを困ったように浮かべながら、しかし隠しようがないことを知ると一つだけ息を吐いて
再び俺に背を向けて階段を登り始めた。




「…主人っ」
「…警察の方は、ご存じないでしょうが。…彼は、立派な芸術家だった、…しかし時代には少し早すぎた」
「”彼”?…早すぎた?」
小さく笑って、二階の角部屋へと俺を案内すると、この部屋です、お願いしますと頭を下げて行ってしまった。
その背中に、先ほどの問いかけの答えはない。
あるとすれば、この部屋の中か。
部屋の前にいる警察官と挨拶をして扉を開ければ、埃っぽい匂いの充満する部屋に窓が一つだけ。
月明かりのみが照らす部屋には物置に使っていたとは言え芸術品らしきものは、ない。
置時計だけが何処か置き忘れられたかのように、時を止めたままだ。
時計部分はともかく、木で出来ているのだろう。細部に至るまで彫り込まれた手作業での作品であることが分かる。


芸術オンチだった俺も此処数ヶ月で、一応価値のあるものに付いては目を肥やして来たつもりだ。
蔦が絡まるように小さな細工を彫られた土台には、金色のニスが塗られ、埃を被っていながらも綺麗だ。
彼とは一体誰の事を指しているのか、そんな事を考えていた矢先だった。






隣の家の明かりが全て消えたのを窓辺から見ていた、それに外の警察官が気付く。
寝静まったという感じではない、途端にすべて消えたという感じだった。
と、次に街灯が全て消えた。
恐らくはこの近辺の、という注釈を入れなくてはならないだろう。




そうして、今度は。








「ワン、ツー、スリー」


そう間の抜けたような声音が響き渡ったと思った。
バチン、と大きな音がして警察車両や撮影用のクルーのカメラ、機材の電源が落ちたのだ。




「………、え」
誰が漏らした声なのか分からない、一瞬静まり返る人々は次の瞬間騒ぎ始める。
そんな時に、ガタンと大きな音がすれば自然其方に人々の視線が向くものだ。


其方へと一瞬視線を向け、俺も窓辺へと駆け寄ろうとすれば。




「やっぱり妙な縁があるねェ、御巡りさん?」
「…テメー、手品みたいな真似しやがって…ッ」
物音の方へとやはり踊らされているのだろう警察官の消えたドアから白いタキシード姿の怪盗が入ってきていた。
シルクハットを目深に被り、銀色の髪を覗かせる怪盗は、口端を吊り上げてくすりと笑う。
まるで、現実味を帯びないその姿は白という色からだろうか、益々こんな場所には似つかわしくない。


そういえば、どうしてこの怪盗は絵画や彫刻を収集しているのだろう?
思えば考えたこともなかった。
芸術品であるから家に飾るんじゃないですかねェ、そんな風に山崎が言っていたのを聞きながら首を傾げた。
コレクターであるならば此処まで一人の芸術家に拘らないのではないかと。
まだ俺は認識が甘いことを思い知った。此れほどまでに完璧に陽動まで行えるなんて。
それほどまでに、此れはあの怪盗にとって価値の高いものなのだろうか。
聞いて見たいことは山ほどある、だけどそれは捕まえてからだ。




「…スウィートシルバー、…お前を逮捕する」
「んー御巡りさんほど美人なら捕まってみてもいいかなァ、…なぁんて」
肩を竦め諦めたかに見えた怪盗は、クスと笑ってパン、と両手を合わせる。


その音に反応するように、今まで消えていた全ての明かりが灯った。
途端に、その明かりに反応する警報と近所の犬、近くの教会の鐘が一斉に鳴り響いた。
それに怯んだように窓へと視線を向けてしまえば、怪盗はするりとドアの外へと歩いていく。


その手には置時計が確りと手に取られており。




「…い、いつの間に…ま、待て…ッ!」
「…確かに頂戴致しましたァ。あ、もう一つ、さっき御巡りさんが見とれてたアレね」
廊下を滑るようにマントを翻して走っていくのを追いかけながら、天窓が覗ける場所まで来れば階段の
手摺りより天窓へと跳躍する姿が見え、あ、と息を飲む。


手摺に捉まりよいしょ、と反動をつけて登る姿に同じように手摺りに足をかければ、くすすと笑う怪盗の声。




「この天窓、外側に簡単に外れるんだよね。…あー、御巡りさん不器用そうだから止めときな」
バコ、と音を立てて天窓が外へと開かれる音を聞き、其処へとひらりと身体を躍らせる怪盗に
同じように跳躍しようとして、その言葉に躊躇する。


天窓を閉める隙間より、怪盗のふざけた声が聞こえた。




「…オフを邪魔しちゃってゴメンね。イチゴの土方警部補〜」
そう聞こえた気がして地団駄を踏んでしまう。
それから後ろより山崎に羽交い絞めにされていなかったら天窓に跳躍していたに違いない。
予備動作もなく、身軽な様子に様子に歯噛みし、それから再び逃がしてしまった悔しさに目の前が暗くなった。
しかも、ズボンの縫いつけられていたイチゴにも気が付いていたらしい。
(…、此れは俺の趣味じゃねェエエエ!)
そう虚しく叫んでも、聞くものは誰もいなかった。













その後の調べで、電気回線に時限装置が仕掛けられていて、それを操っていたらしいことが分かった。
その準備には一人ではきっと一週間ほど掛かっていたに違いないことから周辺住民への聞き込みが始まった。


オフゆえの身の上でそれほど小言は食らわなかったが、それでもイライラしながら始末書の提出を手伝っていた。





「って言うか、総悟テメーの仕事だろーがァアア!」
「奴さんの担当は土方さんでしょうが、寧ろ代わりに仕事してあげたんですからねィ」
「総悟、テメェエエ!」
賑やかな捜査本部にいつものようにデリバリーが顔を見せ始めると、その中に弁当屋の姿もあった。


「ほいよ、ゴリさん。…これ足りねーかも知れねーけど」
弁当の上にバナナが一本付けられていて、それにゴリラもとい近藤さんは「ゴリラじゃないからね!?」と叫び返している。
今回はそれぞれにおやつらしきものが添えられているらしい。





総悟には棒付きの飴が、…で俺のところには。


「…苺!?」
「あー、それね。昨日夜にケーキ作ったら白熱しちゃって、作りすぎちゃってさァ…それの余りね」
袋に入った数粒の苺を覗き込んだ総悟がブッと吹き出す。
わなわなと震える俺は、捜査本部全体に響き渡るような声で叫んでしまう。





「俺はイチゴなんか好きじゃねェエエエエエ!!」


静まり返る捜査本部が、次の瞬間笑いを堪えるもの、笑い出す総悟、同情するように視線を向ける近藤さん、
忍び笑いを漏らすもの、笑いを堪えきれず捜査本部を飛び出すもので騒然となった。


弁当屋だけが門外のようで「え、え、え?何のこと?何の話??」ときょろきょろと周りを見渡していた。










明るい日差しが今日も警察署内を照らす。


一つの長い季節が終わりを告げようとしていた。
俺の机の下では忘れられたように紙袋に入れられたイチゴのマークの付いたジーンズとTシャツがあるのだった。













**




泥に囚われた足を何とか振り切って光へと手を伸ばす。
その光が消えてしまう前に。
高く跳躍するように足に力を込めて。
前のめりで泥に倒れようとも、その跳躍を諦めない。
それが自分に許された行為であるかのように。