休憩中。│原作銀土。パーソナルスペースに入らせることに抵抗ありそうだが。

※WJの260訓の続きがこうであれば良いな、と思いながら(笑)

 







安心していられるってこんな時。
例えば、周りが空いていても相席して、舌打ち一つで追い払われなかった。

団子屋で雨宿りしていたら、いつの間にかお茶と団子を注文し
走っていった背中を見つけた。

案外自分でも気付かぬうちに見つけられるそんな安心感。
それに気付いた時、自分はもはやなくしてはいられない事を知るのだ。





**







「…ねー、なんか此処ってお菓子とかねーの?」

「……、…」

「お茶ってジミー君に頼めばくれる?」

「…、だーもう、うるせぇエエエ!何でこんなとこ来て寛いでんだよ、テメェエエ!」

そう耳元で怒る土方に、寝転がってジャンプを開いたまま胸元に起き
耳を押さえる。
相変わらず、元気で何よりだと思いながら、そのエネルギーに触れると嬉しくなる。
頭に巻かれた包帯や胸元の傷はうまく隠せなかった。
何よりも血の匂いに慣れている相手ではそれは難しいだろう。

雨が降る、そんな日に屯所のこいつの部屋を訪れたのは久々だった。

雨の匂いで大分紛れたと思ったが、勘のいいコイツには無駄だったと言う事だ。
雫の垂れる自分を見て盛大に舌打ちしながらも、追い払わなかったのは
自分が濡れてみずぼらしくなった野良犬みたいだったからだろう。




”傷ついても、死んでなければ介錯してやるから、帰って来い”



その言葉に今回は何度も援けられたのだと思う。
あのクモ野郎に向いた純粋な怒り。
それよりも、自分を強烈に焦がした最後の望みは…。

死んでしまったものを追うよりも、生きて待ってくれている人の下へと
戻る事だけだった。






魂を守るために振るうこの剣に、誓った。
遠い日、あの人に教えられたこと。
遺した背中に、恥じぬよう生きよう。
命を守るために振るう剣ではなく、魂を守るために振るう剣で。

そう言いながらも、あの後思ったことは、土方の言葉。

最後に遣り合って介錯まで面倒見てくれる何ざ、どう考えたって馬鹿だ。
自分の命を背負うだけでなく、俺の命まで背負う勇気。
馬鹿としか言いようがない。

あの人は、きっと”罰当たりの弟子だ”なんて言いながら、笑ってくれるんだろうか。




濡れた自分を舌打ちしながらも招いてくれ、着物を貸してくれた。
勝手にすりゃいいと言いながら、文机に向かって書類を見ながら
此方に意識を置いていて。



自分はと言うと雨が激しく地上へ落ちる音を聴きながら、目を閉じていた。
怪我の養生もかねて暫く休みにしていたせいか
季節はすっかり新緑の季節へと様変わりしてしまったようだ。
それでも目を閉じると、目の裏に浮かぶのは小さな頃に会ったあの人で。

生涯、師匠と呼べる人はあの人だけだろう。
先の未来を切り開くことは適わなかったが、それでも尚、心に焼き付いている。



『…、銀時、…お前は、……』



眠れば脳裏に蘇るあの人の記憶に、最近夜中に何度も起きてしまう。
いつの時でも後悔するようなそぶりを見せなかった。
誇りを抱いて俺達に背中を見せてくれた。

最後の背中をいつも思い出す、振り返る事もなかったその背中に
自分は何といったのだろうか。

胸に占めたのは後悔の念?それとも。



部屋の隅に積まれた雑誌を手にして、借りた着物を着て寝転ぶと
隊士たちの没収品」だという。ジャンプもあったりして、読みたかっただけじゃねぇの、トッシー
なんてからかってやりたくなるが、文机に再び戻った相手をこれ以上怒らせるのは
得策ではないだろう。


ジャンプを読み始めて暫く経ち、書類をめくる音も煙草を吸う音も
雨の音もある中で、互いの鼓動を感じられて心地よい空間になる。
それに気づいたのはいつだったか。

気付いた時には手放せなくなった、欠かせないものになった。

それでも尚、自分の事を拒まず受け入れてくれていること。



それだけで。


口だけの拒絶はするものの、迷惑そうに追い払おうとするものの
まるであの人とは違うのだけど。



「…暑苦しいな、てめー」

背を向けている土方の背に寝転がったまま肩を触れさせる位置へと移動すれば
顔を顰めて肩越しに見下ろしてきた。



「いいじゃん、少しぐらい構ってくれたってさァ」

「…突然来なくなって、突然怪我して帰ってくる奴なんか、構う義理何ざねーな」

「酷ッ!…傷心なのにさァ、…なんなら膝枕しても…

「今すぐ胴体と首が離れ離れになるけど良いか?」


「遠慮しときます」

そう茶化すように甘えれば、そう素気無く断られしまう。
その合いの手のような速さに笑ってしまいながら、
そんな関係じゃないことが心地良く思うなんて大概だと思ってしまった。

自分の深部に食い込むあの人への思いが、生きている土方の熱によって
溶かされていく気がして。




死んだ奴は、美化されて劣化されずにいくけれど。

生きている奴はいつもそれの尻拭いと、劣化されていく心だ。






それでも生きている奴らのほうが、今は。








「つーか、そんな所で寝るんじゃねーよ」

「…んぁ?…」

知らずに眠っていたようだ。しかもいつも白昼夢のようにつきまとっていたあの人の
夢は見ておらず。



掛けられた隊服の上着。

いつもの土方の煙草の香りが沁み込んだ、それに咽喉を震わせてしまった。
書類はすでに終わっていたようだ。煙草を吹かし此方を呆れたように見下ろしながらも
ずっと傍から離れずにいてくれたのだろうと。
そんな温かさに今日も。






「…止んだぞ?」

その土方の言葉に、障子の向こうを見やれば青空が広がっていた。
雨が降り続けることはないのだ、そう言われているようで
目を瞬けば微かに笑う土方がいて。
降り続く雨が頭上に降っていたのだとしても、自分を受け入れてくれる地上があるなら。

まだ縛り付けられていても良いと思った。


だから、またその時に。



あの人なら、”急いで来なくて良いですよ、こっちは悠々自適にしてるんですから。
出来の悪い弟子達も居ないですしね”、ぐらい言いそうだ。







物思いに沈みながらもぼんやりと視線を彷徨わせていると、煙草をもみ消した
土方が舌打ちし、伸し掛かってきた。

その動きに目をパチパチと瞬かせていると、上着よりも深い煙草の香りがした。



「…どうしたよ…?」

「…んでもねーよ、こうされてりゃいいんだよ…、お前は…」

そう弱々しい口調ながら、有無を言わさない言葉に二の句を続けられない。


そっと両手を土方の背に回すと、力を抜きぎゅっと抱きすくめられた。
先ほどまで感じていた土方の強い生命力が、再び熱となって感じられて
心地良く思う。
それに、自分は此れまで師として見てきた背に強く誓うことが出来る。

これからも、自分の魂を守るために、そしてこの手に握ったものを少しでも
取りこぼさない様に生きていく。



「つぅか、なにしてんだ、てめー…」

「…まァ俺怪我してるけどォ、下半身は元気だから…、ブホッ」

腰の当たりを撫でながら、ニヤニヤ笑えば
バシッと殴られ、その痛みにも笑ってしまい、やがて二人で笑い始める。





帰る場所があるから生きていられる。
心に抱いたままの教えられた言葉があるからこれからも。




まっすぐ立っていられる。







温もりに癒され、やがて二人は寄り添うように眠りに落ちた。
人の温もりは、眠気を誘う。















やがて訪れた山崎は悪戯を仕掛けようとした沖田を抑えて、人払いをした。










只今休憩中の張り紙をして。













**




何も忘れていないし、何も変わっていないけれど。
教えられた言葉を抱いて、今日も立っている。

雨も雪も嵐だって起こる地上で。




そっちに行く時には土産話を沢山聞かせたい、なんて。
柄にもなく思うのだ。

月詠の師弟関係の話よりも銀さんの師弟関係の話にぐっと詰まったお話でした。
一緒に行くことよりも置いていく事を望んだという事はこんなことがあるのではないかな、と勝手に解釈。