手を繋ごう│原作銀土。来年も手を繋げる距離にいたい、という思いを込めて。

夢を見た。
とっても珍しい夢だった。
夢を見た後はどうしても後味が悪いのだった。

そう、あの人の後姿は。




**




チチチ、
ヒヨドリが鳴く声がして、まだ夜は明けきっていない朝であることに気付いた。
もう少し寝るか、と布団に倒れこんだところ横にいるはずの姿は消えていた。

確か、昨晩飲み屋で同席し、気分よく飲んでいたところでいつもの馴れ合いなし崩し。
その気はなかった、この手をどけろ、のいつもの被害者面も単調すぎてつまらないと言ったら
「じゃあやめるか?」と女王様如く足を広げて、人の大切な玉蹴飛ばしてきた。
売り言葉に買い言葉だったとしても、それはないんじゃないのなんて思いながらも
咽喉を震わせると、ムッと唇を尖らせてきた。
こんな関係でも長く続けば、多少の馴れ合いでもなし崩しでも情は絡むだろう?と
甘えて見せれば、キモイの一言、一刀両断。
まァ俺もツンデレよりもツンツンのが好みだし?
今時、二度ものデートで、しっぽりあはん、なんざツンデレじゃねーよなんていえば
「そりゃお前の好みだろ、ふしだら野郎」と罵られた。
互いの趣向も趣味も多少分かってきているため、そうされればそうされるだけ煽られるのも
分かっているはずなのになァ、と押し倒してやる。


するとこの子は、わかってるからやってんだよ、が、と咽喉を震わせた。
わかっててやってるのは、自分もだろうがなんて思いながらも最後はその言葉を飲み込んで抱きしめる。
その行為に「バーカ」なんて笑う土方に咽喉を震わせてしまいながらも口を閉じた。
密かに密やかに吐き出す吐息のような秘め事は、息が続く限り…、互いの本心に気付かぬ限り。




残り香に戯れつつ再び布団を被れば、、目蓋の裏に浮かんだ髪の長い彼の人。
いつの間にか傍にいて、いつの間にかいなくなっていた。
そんな空気のような人だった。
しかし、様々なことを教えてくれた。
己を守るための剣ではなく己の心を守るための剣を教えてくれた。
そんな掛け替えのない時間を共に過ごしていた。
年の暮れは感傷的な気持ちになる、それは周りは新しい年になるのを祝うから。
あの呪われた日が風化していく。
しかしそれは、掛け替えのない日々も風化してしまうと言うことで。


だから時が無駄に経つのを良しとしないと思うのに体が動かない。
白い雪の中で、自分も雪になってしまえばいいのにと自分自身を呪った。
だから誘われるままに抵抗した。
反抗期なんて年中しょっちゅうだったから、

自分の体が傷つくことが分かりながらも危なっかしいこともやった。
それでも戻ってこないのが分かっていた。
分かっていなのにやめなかった。


それにあの人なら苦笑しながら、俺たちのことを叱るだろうかなんて思っていた。
そういえば叱られたのはいつだったっけ?なんて漠然と思い寝返りを打った。




『銀時、…またお前はそんな風に意地を張って』
『…だって、…ッ!』
ズラも長々と説教するんだ、バカ本は俺に過保護で、晋助は俺をバカにする。
友達なんて何のいいこともない、と言い捨てた俺に先生は笑って視線を同じくすべく、しゃがんだ。




『…ちゃんと手を伸ばして握り締めておかないと、・・・大事なものはその手をすり抜けてしまうよ?』
手を伸ばし損ねて、すり抜けてしまった先生の言う台詞じゃねーなと思いながら意識は再び浮上した。
大事なものはこの手に、残っているのだろうか。
起き上がると服を身につけて、いつものように着物を羽織って上着を着てマフラーを巻いた。
いつもの様に木刀を脇に指すといつものスタイルだ。
出かけようとしてブーツを履いた、その時玄関の戸がタイミングよく開いた。




「…おはようご、…あれ、銀さん早いですね」
「おう、今日は大晦日だからよォ。適当に片付けて神楽連れて帰れや」
「ハイ、…銀さんは?」
意外そうに目を瞬いて新八の顔に笑って、ブーツに足を突っ込んで上着を羽織り直す。
玄関を開けてから振り返る。




「新年になってからおせち料理突付きに行くわ」
「分かりました、気をつけて下さいね。・・・よいお年を!」
そんな風に明るく見送られてしまった。
と言うことは自分が満更でもない顔をしていると言うことだ。
それに気付いて尚、自分は寒い朝、大事なものをこの手に掴みに行く。




大事なものや大切なものは、確かに移ろうものである。
昨年まで大切だったものが来年にはその姿を変えていってしまう。
宝物は庭に埋めたまま、忘れ去ってしまう。
それを無くさないように掌をギュッと握り締める。
赤ん坊の手が手を握っているのは、大切なものを守る術がないから。
そういっていたのは誰だったか。
寒空を眺めて、微かに肩を震わせる。
今、俺が大切に思っているものが…来年にはそうじゃなくなったとしても。









馴れ合いになし崩し。
それでも自分の意思を確認されりゃ、頷くしかない、それは。
言葉巧みに誘われて、酒の勢いも借りて。




「副長、お帰りなさい」
「あァ、…第3番隊の状況は」
「あ、はい。抜かりないっス、…まだ動きないって先ほど伝令が」
小さく息を吐き出して、何か変わったことがあったら知らせろと部屋へと戻っていく。

仕事を抱えながらの朝帰りももう慣れた。
それほど体の熱を抱えて仕事に戻ることが日常化していることは、自分にはあり難くないことだった。
許してしまった距離、許してしまった距離に悩んでいたときもあった。
でも悩んでも仕方なかった。追い払っても何しても来るからだ。
そして自分も。




昔は、ただひたすら剣の腕を磨きたかった。
誰より強くなって誰よりも剣の腕を磨いて、侍と言う存在になりたかった。
強くなることが自分の生きる目的だとさえ思っていた。
そして近藤さんと作った真撰組を守って、それだけでいいと思った。
それ以外は立ち塞がったものは剣で斬って斬って。
そうして残ったものは赤く汚れた剣でも構わない。
名前を残すのは我らが大将だけでいい。
そのためなら俺は。


『トシよォ、…お前は本当に欲がねェなァ』
『あ…?』
近藤さんにいつか言われたことがあった。
欲がないなんて、言われるが欲は俺にだってある。真撰組の名を轟かせて、剣の腕を上げることだ。




『そうじゃなくってよォ、…お前自身はどうしたいんだ?』
自分は?なんて聞かれた事がなかったからその問いになんと答えたか分からなかった。
手に剣があるだけ、それだけでよかった。
それ以外は邪魔だと思っていたから。
部屋へと戻り上着を脱げば、巻いていたマフラーからあいつの匂いがするようで思わず床に落ちる前に拾い上げた。
こうして手を伸ばして、確り攫めているだろうか。

文机の前に座って始末書や重要書類に視線を移す。
しかし、頭には今朝まで熱を共有していたちゃらんぽらんな男が占めるのだった。









「…で、お前は何か忘れもんか?」
「あ、あら、気付いてた?」
屯所に来たまではいいが、廊下で中の気配を探っていると声をかけられてしまった。
相変わらず仕事をしているときはぴりぴりしているなァなんて笑いながら
小さく笑ってしまった。
笑って部屋へと入るために障子を開けると、何の用だ?と視線だけを寄越してくる。
拒絶も、招きもない。
しかし、それが自分たちの大切な距離なのかもしれない。
その距離を自分は縮める。そして土方は、距離を測りながらそれを許す。
その距離がいつの間には、自分には大切になっていること。




「…、何だ?」
「もうさ、…後悔はしたくねェなァ…って思ってよ」
意味が分からない、という表情をする土方にクク、と笑って手を貸して、というと
何だ?といいながらも手を伸ばす。
そんな手を取って、その場にしゃがむとにぃーと笑みを浮かべた。




「大事なもん、ちゃんと掴んどかなきゃって思っただけだよ」
そう言い切る俺に、顔を近づけ口付けるのは土方で。




「俺も、今テメーに、キスしてーて思ったから、した」
そういって唇を吊り上げる土方に小さく笑ってしまう。
そのまま互いに顔を見合わせて笑って。




来年には、もしかして大切なものは違ってしまっても。
今の大切なものは、この手で確り掴んでいたい。




そうただ強く思った。








**







光の中で、あの人は今も微笑んでいる。







来年もいい年でありますように。
そして、この手を来年も繋いでいられますように。












I will join by an important person and hand.

年末年始、大体休みがなく年越し夜勤だったりするのですがこの年は違ったようでリアルで更新してました。
本当に31日に打ったらしい文面を見て、今年はどうかなと思いをはせたりしてみました(笑)