recursive call│原作銀土。帰る場所があるって言うのは強いと思う。

たとえば雨が降るように、そして必ず雨は上がるように。
すべてを受け止めたいと思う。そして必ず笑顔になるような。
痛みや傷を知れば、更に手にいれたくなった。
それだけで自分は。





**





瞼が震えるように瞳を薄らと開けると、朝と呼ぶには
まだ早すぎる時間だ。
朝夕は幾分過ごしやすくなったとはいえ、暫くすればまだ暑い日中で。
朝日は遅くなり、夕日は早く沈む秋になったからだった。
そうとは言え、まだ残暑も厳しい日が続いている。


掌が痺れているような感覚に目を軽く開くと、黒髪を
乱したまま静かに寝息を立てている土方がいた。


腕の中に抱きこまれる様にして身体を触れ合わせているが、彼の身体には
抵抗感がなく、なすがままである。







しかも互いに裸のままで。
寒くもない時期なので、昨晩事に及んだ末に面倒でシャワーを互いに浴びた後
そのまま布団で眠ったのを思い出した。


土方が嫌がったので(別にもう抱く気はないのに、と言ったが却下された)
別々に敷かれた布団に、だが。
それなのにどうしてこんなに近くにいるのだろうか。




連れ込み宿の朝はのんびりではあるが、格子のついた窓から漏れる日差しが眩しい。
流石に仕事の土方は起きなければならないだろう。
だから軽く揺するように両腕で抱き締めたまま身体を近づくものの
僅かに呻くのみで起きる気配がない。


いつもはどれだけ深く眠ろうとも耳を立てた猫のように機敏に起きるはずだったが、
仕事明けで事に及べば、体力は奪われるだろう。


しかも2カ月ぶりだった。







(…ちょっと、無理させたかァ…、…)




最後は気を失うように意識を失くした土方に、自分がひどい目に合わせているというのに
可哀想になってしまい、半ば意識を飛ばす土方を風呂場に蹴り込んだのだった。


ちょっとどころではない、と土方に抗議されそうだったが。





ほっておかれた時間は取り戻したいと思う。








なぜなら。













僅かに布団を剥ぐと、土方が自分の布団より此方へとはいって来たらしいと
わかってくすぐったいような笑みに包まれる。
自分が安心するように眠る寝顔に癒され満たされる様に、土方も満たしたいと思う。


それには自分にはどんな力が必要だろう。








「…惨めったらしくてもさァ、…俺はこのままでいいと思ったわけよ」




だけど駄目だった、と小さく笑って一人ごち頭を振る。
寝息を立てる土方は聞いていないだろうけれど、それでも話さなずにはいられなかった。







「調子のいい自分は好きだし、気だるさがポリシーだし?堕天使目指してるしな」







土方の瞼が僅かに震えるが、それに気づかずに自嘲気味に笑って。
回した両腕に軽く力を込めて温もりを感じるように肩口に顔を埋める。
首筋に髪の毛が触るからだろうか、僅かに土方の身体が震えるが、起きた気配はなく。





「それだけじゃ、駄目なんだよな。お前が、この場所を真撰組と選べねェと
言ってくれた、…それに応えるためには、な」






匂いを嗅ぐように肩口に唇を寄せたまま、鼻を動かして目を閉じた。
呟いた言葉は囁きの如く小さいが、真摯な響きで。


暫くそうしていたが、両腕を解くと布団より起き上がり、身支度を整える。


いつものように黒いズボンを履き、黒い上着を羽織れば。白い着物をその上から着て
ベルトで締める。ベルトに木刀を差すと軽く髪の毛を払った。













決意が揺れぬ内に布団よりそっと離れれば、相手に背を向けて部屋を横切れば
小さく声が返り。










「…ちゃんと、ここに帰ってこい、よ…、銀時」




















身じろぎして此方を見る気配を背中に感じる。
それでも振り返らずにいる自分に土方はどんな顔をしているだろうか。


「……、…ねェ、いつから起きてたのよ、…十四郎?」




「…揺すられた時にもう起きてたっつーの」







「うわ、最初からじゃね?昨日無理させたから仕返しィ?」





クスクスと笑みを零して少しだけ肩を震わせる。
しかし背を向けたままで。





朝日が溢れ始める部屋で、土方は今朝も寝癖を付けているだろうか。




案外無精で鏡も見ない土方の髪を整えるのは自分の楽しみの一つだった。
商売女っぽくねェ?といやらしく笑えば、こんなごつくてでかい女だったら
商売上がったりだな、と返されて整え慣れた様子に、寝癖つけたままにしてやろうかと
思ったこともあった。


それほどまでに深く人と思ったことがなかったから、戸惑うばかりで。

本当は、もっと。





「…じゃあ、な」





僅かにふり返れば、土方からは己の顔は逆光になり見えないかもしれない。
本当は笑えていなかった。そんな自分の顔を見せたくなかったからちょうど良かった。
唇をそれでも僅かに吊り上げると、一瞬だけ映った土方の顔は。







唇を噛みしめて瞳は強く此方を睨むように強く向けていた。
そう、それが俺の好きなギラりと血染めの刀のように光る瞳だった。
殺しそうなほど、相手を焼き付けるほど強く感じる視線は、一番初めに
見た瞳だった。







そんな瞳に報い入るなんて柄じゃねーのはわかってるけど、誓わせてほしい。
ここしか繋いでいてくれる場所はないのだと。
万事屋とは違う、それでもここにしかないものがあるのだと証明するために。








土方が自分の傍にいる覚悟をくれた。
その覚悟に応えたい。







「…寄り道したら、承知しねー…からなッ、…待ってるから…」







「イの一番で帰ってきてやらァ、…そしたらめちゃくちゃに抱いてやるよ」


だから我慢な、と告げればいつもの調子で罵倒する土方に、此方もいつもの調子が戻って
朝日の中、踵を返す。










今度は振り返らずにまっすぐに。
口の中で「行ってきます」と言葉を紡ぎながら。







**








太陽が沈めば、今度は太陽は必ず昇ってくるように。
すべて受け止めて、受け止められる。
互いに笑いあって、与えあえるような。

傷は晒すのは怖いけれど。
その傷を誇れるようになりたいと思う。





土方の横に立ち、前を見据える視線と同じく前を見ることができるように。

























朝日の中へ、その一歩を踏み出した。
いつかこの場所へ戻ってくるために。











Our eyes continue with having fixed its eyes on the front.

覚悟を決めて出て行くとき、人はどうも語りたくなるような気がします。
ブログを休止か閉鎖かと悩んだ末に出来た作品にしては、粗の目立つ作品でした;;