海よりも蒼く(15禁)│原作銀土。微妙に[recursive call]の続きで土方君目線。

今日はかぶき町は何処か大人しく見えるのは、どうしてだろう。
見回りに隊士を伴ってやってきた、数歩でそれに気付いたのは。
(…そうか、……)
アイツがいないからだ、そう口にして小さく唇を噛んだ。


















数週間前、いつものようにへらりとした表情でやってきた万事屋は、
屯所の警護を易々と乗り越えて警備の厳しい副長室の縁側で俺に捕えられた。





「いでででっ!恋人に逢いに来ただけじゃねェかァアアア!」
そう大声で喚き散らすので、一発殴って部屋へと押し込めば、「潜入成功」と笑う銀髪が恨めしかった。
ともかくもう一発殴ってから身体を離すと「何の用だ」と聞いた。
先ほどの「コイビト」との名称に否定も肯定もしなかった非はあったが自分は気付かなかった。


万事屋はいつものように飄々とした表情で、笑みを含めながら俺を見た。





「…俺さァ、…今日江戸を離れる」
「…………、は?」
「つっても、依頼でね。でも期間わからねェから、伝えとこうと思って」
極めて明るく言おうとしているのだろう、しかし、口調の端々に失敗している事に気付く。
万事屋のその表情から、今回の依頼が並大抵のものではないと知れる。
いつだって冗談めかして言うことはあるが、こんな風に町を離れる時に報告に来るなんてありえなかった。


しかし、自分には万事屋を止める権利はない、その資格だってない。
自分だって、死地に赴くことが遇っても、誰に止められても必ず行くからだ。
万事屋もその言葉を全うするのだろう。
飄々と、誰に囚われることのない奔放な男。しかしその自由な心は行き交う人を救う。
俺とは大違いだ、と今もまた思ってしまう。
自分の手はそれほど人は救えない。
ただ自分の立場を守ることに精一杯で、そうして自分はまた道を違えている事に気付かないのだ。





「…ガキは連れてくのか?」
「ぎゃーぎゃーうるせェからよォ、メガネの道場に置いて来た。ったく、
あんなよく食う奴らついて来たら旅費だけで依頼費越えるわ」
その言葉すらも言い訳のように聞こえてしまう。
前払いの金を渡し、子供達の生活を保障するものに渡るように手配したのだろう。
そういう抜け目のなさが、また自分より多くの死地を渡り歩いてきた男の気配りのように感じて眉を潜めた。
それほどまでに周到でありながら、表情は隠せない。
特に気心知れた人間の前では、後ろ暗いところがあれば一層表情として現れてしまう。
何か言いたげな口端がぴくぴくと震えるがそれを隠そうとして吊り上げる唇に視線を向ける。
しかし、その視線に一瞬早く気付いた万事屋はそれを隠して立ち上がった。





「…つーわけだからよォ、ま。俺がいなくても夜鳴きすんなよォ?」
「それは、…」
「あ…?」
それはテメーのほうじゃねェのか、そう思いを込めて下から睨んでやると、その視線を真っ直ぐ受け止めた万事屋は、
ふと真剣な表情を浮かべてから、降参というように肩をすくめて首を振った。
腰を屈め、顔を寄せられたときも自分は一歩も逃げなかった。
絡まる唇を躊躇いがちに触れる舌先、それに息を零すと深まる口付けがぎこちなく感じて目を閉じた。
















昼間っから、何をしているのだろうと頭の端で思う。
今は非番とは言え、いつでも隊士が飛び込んでくるような屯所の自室で。
明るい障子の向こうでは時折、稽古に励む隊士の声や武器を持ち歩く隊士の足音が聞こえるような場所。





「ふ、ぁ…ッんん、…よろ、ずや……ッ」
性急に繋がった身体は悲鳴をあげ、膝をつく万事屋に腰を持ち上げられ獣の姿で繋がっている。
ガクガクと膝が震えて力が入らないというように、先ほどまで見ていた書類の置かれた文机に手を伸ばす。
ガタン、と高い音を立てて転んだそれに、腰を強く進めた万事屋に胎の中を掻き回された。
それに着崩れた自分の着流しに歯を立てて声を殺すものの、先走りの蜜が粗相をしたように下肢を濡らす。


どうしてなんて、考えるのは愚かな話だ。
最早この熱は互いしか奪い取れないし、また与え合うことも出来ないのだ。
全ての感情を混ぜ合わせて揺さぶられれば、いつしか万事屋が何度も名前を呼んでいることに気付いた。


「十四郎、…十四郎・・・、」
呼ばれる名に、膝にもう一度力を込めると、万事屋の屹立を含んでいる後孔にも力が籠もるだろうか。
そのまま万事屋の方へ腰を突き出してやれば、呻くような万事屋の声に熱の籠もった声を漏らしてしまう。
万事屋が何を思って俺に会いに来たのか分かった気がした。
それは自分にも合い通じるものがあるからだ。
(…全く分かり易いやつなのか、分かりにくいやつなのか…、わからねェ…)
全てを曝け出しているように見えて、一番奥底は暴いてやらなきゃ見せもしねェ、そんな。
自分を見せもしねーのに、人を暴けると思うなよ。
屹立を咥えこんだまま腰を揺らす俺に、万事屋は呻きながらも、俺の足を掬って身体を反転させた。





「ぅ、あ…ッ…ッぅああ…ッ」
「エッチぃ声、聞こえちゃったらどうするよ?…」
再び正面から深く繋がりながら、そうからかう様に告げられて眸を瞬くものの、口端を吊り上げてやる。





「…俺ァオフなんだ、何してよーと勝手、…ッあァ…ッ」
「ククク、とーんだインラン副長だねェ、…オフは男咥えてますってか?…」
そうからかう様に告げられる言葉に同じようにからかう口調で告げるものの互いの眸は笑ってはいない。
死地に向かう相手を離すまいと、見っとも無く縋れるのはこんな時しかないとばかりに力を込める。
この熱の邂逅が終わってしまえば、止めることも出来ない自分に気付かぬ振りをしながら。
また、万事屋もそのことに気付きながら確りとこの熱を伝えるように息を零しながら。





「っんぁ…ッぁあ―――…ッ!」
「ふ、…ッ…」
息を零して、絶頂を互いの身体で感じながらもその時間が長く引き伸ばされることを願いながら、確りと手を繋いで。


バラバラになっていく、そう思いながら口付けを受けた俺は目を閉じながら感情を押し殺した。





しかし、手に力を込めるのは、お互いで。
















無茶しやがって、そう言いながら気だるく着流しを羽織って紫煙を燻らせれば、さっさと身支度を整えた
万事屋が振り返ってにやりと男臭く笑う。





「ノリノリで腰振ってたくせにィ…、ってナニ無言で刀抜いてンの、オイイイイイ!」
「いや、部屋にそういや害虫がいたのを思い出してなァ…」
「さっきまでの甘い雰囲気台無しィイイ!」
悲鳴を上げて飛び退る万事屋の咽喉元に刀を突きつけてやると、動きを止める万事屋にフンと息を零す。
素直になれないのは互いで。しかし、これが自分たちで。
その雰囲気が分かったのか万事屋も苦笑のような不思議な笑みを口元に浮かべていた。





「…一ヶ月だ」
「あ?」
「…それ以上長く待たせやがったら、そうだなァ…、攻守交替つーのはどうだ?」
ハァア!?と仰け反る万事屋に、ククと低く笑い刀を仕舞う。
万事屋はどのくらいの期間が掛かるかわからないといった。
期間を提示されていないのか、任される仕事の複雑さに期間を設定していないのか。
それは分からない、…が、そのぐらいの気概が必要ってもんだろ、と勝手に断定する。
案の上乗せられた万事屋はむっとした様子で、それでも挑発的に笑う。





「じゃあ、俺が期間内に帰ってきたら、ぐちゃぐちゃに抱いてやっから」
「…、上等だ、コラ」
口端を吊り上げて笑う俺に万事屋も同じように唇を吊り上げる。
それから今度は振り返ることなく、障子の向こうへと消えた万事屋の背に視線を向け、それから転んでしまった文机を起こす。


書類は、とりあえず目を通したものは揃え、折れ曲がった箇所を伸ばす。
その動作さえ、先ほどの万事屋の残り香を探すような女々しい行為のような気がして咽喉を震わせてしまった。















「どうかしましたか?副長」
かぶき町にて立ち止まる自分に不思議そうに問いかける隊士に「なんでもねェよ」と言い捨てて歩いていく。
小さく緩んだ唇は、信じるその心の現われで。
思ったよりも効力がない、その言葉は不安定で、とても危うい。





しかし、その言葉は、生へ縛り付ける楔となる。
いくら根無し草でも、勝手にあっちに行かれちゃ困るんだよ、アホが。


思ったよりも心に根を張る、男の帰りを待っている。











この町と共に。

根無し草って良く私が言われた言葉があるんですけどね、もしくは紐の切れた凧。
いなくなるときは本当に音も立てずにいなくなりそうってよく言われますが、どうなんだろうねェ(笑)