桜の元にて春…生きんや│原作銀土。銀土花見(できてないけど)。夢の中で大事な人に出会う。

※これは、ブログで行った美味しい関係7題+ショートケーキで5題の12話更新企画(感謝のカウントダウン企画☆)の作品+αです。
















「いい天気じゃの、今日も春日和じゃ」
機嫌良さそうに目を細めて舵を操る男は、素っ頓狂ながらもわしらの頭だ。
いつも思いつきで何でも動いてわしらに迷惑ばかりかける。
今回も本当に何も考えていない頭のアタマは、また迷惑な方向へ転がった。



「陸奥ー、…なんじゃ、考えてることが手に取るようにわかるのー?」
「分からないんじゃ、暇を取らせて貰おうと思った所じゃ」
迷惑なんじゃ、と表情の動かぬ自分の顔でも分かるほど眉を顰める。
長年の付き合いであれど、何処に気づかぬと言うのは、本当に馬鹿だ。
流石に其処までの馬鹿ではなかったか、と思いながら鼻歌交じりに再び操縦を開始する。
頭は、長年の勘で何となく自分の表情の変化がわかるように、そういったときの頭の気持ちが手に取るように分かる。





そうして、最早止められないことも知っていた。


(…許せ、か)
誰に許しを乞うたら良いかわからないが、そう思うことにしたのだった。



















暗闇の中で桜が舞っていた。
花びらがはらりはらりと足元に落ちた。
それに思わず視線を向けるほど周りは何も見えなかった。
隣にいる土方も夢うつつでその桜を見つめていた。
桜の向こう側で人の声がする。
それに誘われるようにして、俺たちは一歩前へと進む。




「おおい、金時ィ、こっちじゃこっち!」
「誰が金時だ、コラァアアア」
明るい視界が開けたと思った途端、桜の薄紅も相まって眩しいと感じるほどの光に包まれた箇所で
黒い毛玉…坂本が手招きしている。
その横に座るのはズラと少しはなれて手酌をしているのは高杉。
あの頃、つまみは無かったが干し芋と僅かな酒で酒盛りをした。
それに近寄っていくと、こっちゃに座れ、とご機嫌な坂本がいた。
(なんだよ、しけてんなァ)
甘いものがたんねェよ、そう言いながら僅かなものでも皆で分け合った。
そうでなければ生きられなかったからだ。
泥水を啜ってみっともなく生き延びた。
それが今は正解かどうかなんて分からない。
ただ背負った命の分ぐらいは生きようと誓い合った。





「桜を肴に酒を、か。坂本にしては良い考えだったな」
「あははははは、泣いていい?」
「俺は夜桜のがいいっつったんだけどよォ」
茣蓙に座れば、差し出される酒と干し芋に、空を見上げれば満開の桜。
それだけで良かった。
明日消えるとも知らない命に、毎夜宴会になった。
生きて帰ってきた喜びを、そしてまた明日戦場へ駆り立てられる自分たちを鼓舞するように。
いつ終わるとも知らぬ泥沼のような戦の中で、また一人また一人と肩を並べる仲間が減っていく。
だから花見をしよう、なんて言い出した坂本に不承不承ながら頷いたのは、きっと。
減った仲間たちの中にいつ目の前の奴が混じるとも限らないから、そう思ったのだろう、お互いに。
酒が足りなければ、川の水でも旨い。
それに比べちゃ今は贅沢に出来てしまった。
其処まで考えて首を傾ける。


自分は今、何処にいるのだろう?
(アレ、…確か隣には、誰かが居た)


そう思った途端風が吹いて風景が、再び闇に落ちる桜一本になり、暗闇に閉ざされてしまった。









おおい、おおいと誰かが呼ぶ声がして其方へと足を向ける。
近藤さんの道場から少し離れたところに、森と言うには小さ過ぎるようなこんもりとした木の群集地帯があり、
桜も何本かあった。
その下で今日は、花見をしようと稽古に来ていた自分に向かって言った。
突拍子も無いが、断ることも無碍には出来ず、総悟と喧嘩をしながら物品を運んだ。
随分温かくなり、うっそうとした森の中とは言え、寒くも無く丁度いい気候だった。
茣蓙を引いて座る近藤さんを囲むように総悟とミツバが座っていた。
ゴロツキ同然で、強くなるために誰でも喧嘩を吹っかけてた喧嘩屋だった。
それに居場所と強くなる理由をくれたのが近藤さんだった、そして。
生きる意味をくれたのは。
豪華ではなかったが、握り飯と摘みになるもの、それに酒。
総悟用に甘酒も用意されていた。
総悟は唇を尖らせていたが、姉の手前我侭はいえなかったのだろう。
大人の中で育っているためか、早熟なのだが妙に不器用な一面を覗かせるのだ。
(まァ、生意気なのはかわらねェけどな)
ミツバ特製の辛い料理の詰まったおせち料理には中々皆端をつけないので、ミツバが一人で口にしている。





「あああ、そんな辛いものばっかり食べて!身体に障りますよ!」
「あら、だって美味しいんだもの」
「酒でそういうのは忘れちまいましょーや」
三者三様に話す様はおかしく、少し離れた場所で酒の注がれた猪口を片手に桜を眺めている。
強くなるためには不要だと思っていたものが、実は必要だったと気付いた。
酒を飲み花を愛でる時間も惜しむほど、かけがえのない時間である。
強くなることに我武者羅であるのは変わらないけれど。
そうして気付く。
今だってこの気持ちは変わらない。
変わらないと思っていた。
なら、自分がいる場所は此処でいいいのだろうか。


そう考えた途端に景色は一変した。
暗闇に佇み、桜がはらりと足元へと零れ落ちるのをただ見ていた。




**




桜の木は暗い景色の中で唯一の光の根源で、桜自身が発光しているようにみえた。
だから唐突で、桜の花びらが足元へと落ちていくのがくっきり見える。
いつか足元がピンク色に包まれたら行く道も指し示してくれるのではないかと、そんな事を漠然と考えて足を止めてしまった。
自分はあの頃からなんら変わっていないただの臆病者である。
そういわれている気がして目を閉じてしまおうか、膝を折ってしまおうかと思考を巡らせる。





(みっともなく生きていたって、…守れるもんはねーしなァ)
桜の花びらはそんな自分にも平等に降る雨のように、花びらを降り注がせる。
すると木の傍に誰かの気配がして、閉じかけていた目を瞬いた。
逆光で顔は見えないが、それは。





『…貴方が進みたいと思った道を行きなさい。…貴方の魂に恥じぬように』
その声に自嘲気味に笑い、もう疲れたからなァと呟けば、その人はいつものように柔らかく笑った。
どんなときでも笑う気配しか残さないこの人も、最期はこの世を恨んでいってしまったのだろうか。
どんなに考えても最期の顔は思い出せない。
眠っているように安らかな顔だけ。
しかし、きっと魂に恥じるような最期ではなかったはず、それだけが心を救う。
本当は、一番守りたかったものは…。





『貴方が守りたいと思ったのは、そんなに脆くはない。…己を信じなさい』
そういって笑む気配の彼の人に、視線を向け名を呼ぼうとした途端に意識が浮上した。








いつもの天井に、いつもの景色が広がり、夢か、と大きく息を吐き出した。
すると隣で寝ていた筈の土方も目が覚めたようで此方を見つめていた。
小さく笑ってぽす、と額を土方の胸へと押し付ける。
夢の中でも繋がれていた掌は、今も確り繋がれていた。


『己を信じて、かけがえのない時を過ごせる人と共に生きなさい』
その言葉が聞こえたような気がしてそのまま咽喉を震わせてしまう。





桜は散っては咲き、また散ってしまう。
しかし、桜とて散るために咲いて生まれてきたのではない。
葉を付け、実を実らせるために、懸命に短い時を咲くのだ。
人だって死ぬために生まれてきたのではない、生きるために生まれてくるのだ。


何を失敗したっていい。
己の魂に恥じないのであれば、何度だってやり直せる。








「なんか変な夢みた、…懐かしい夢」


「俺も、…なァ、次に起きたら花見にいかね?」


「…いい肴があったら考えといてやる」
そういって腕を回す土方に、掌は握ったまま心音に安心する赤子のように目を閉じた。
次に目を開けたときには夢のことはすっかり忘れていても、この掌のことは忘れないだろう。
それだけで自分は生きていけると思った。





目を閉じてその手を確りと握るのだった。













その朝、万事屋のポストには、カードが一通届けられていた。




其処には「金時君へ お久しぶりです。お元気にしていますか?

桜の時期ですね。
突然ですが、皆でお花見をしませんか?」




そんな風に自由人で腐れ縁からのメッセージが書かれたのだった。

これで花見のお便りが高杉君のところにもいっていたらいいなァ、と呟いてみたりしました。
勿論来ないのはわかっているけれど、少しだけ唇吊り上げて笑ってほしいな、と思いました(作文)