冬の花火│原作銀土。大人の子供らしさは性質が悪い。

届かない花を愛でるよりも
地上に咲く花を愛でたいと思うのは
自分が手に入れたいからだろうか。
届かないものは消えないし、触れられないからずっと綺麗だ。
平等にその恩恵は降り注ぎ、万民の目に晒される。





それに比べて地上の花は高飛車だし、気が強い。
しかも触れれば斬らんと言わんばかりに目をぎらつかせている。
だけど、この姿は自分だけが知っている。
それは優越感?占有欲?












空に咲く光り輝く花が火花を散らすのを消えるまで見ていた。









**









「なー、もう仕事終わったんならイイじゃねーか」

「…、…断るって言ってんだ。誰か別の奴誘えばいいだろ?」





制服姿の土方を街中で見つけたのは本当に偶然だった。
土方といえば苦虫を噛み潰したような顔をしているし、いい加減
その顔も見飽きたんだけどと伝えれば、じゃあ見るなとかなりつれない。
きっと仕事か何かでイライラしていて余裕が全くないように感じる。
それだからこそ、自分はちょっかい掛けたくなるのだといい加減分かればいいのに。
それは口にはしなかったが、態度で分かったのだろう。
むとしてしてそれ以上言い返せずに押し黙ってしまった。




それに微笑んで手を引く。別に如何わしいことを目的に誘ったわけではないし、
と意味深に伝えれば羞恥に顔を赤らめてこちらに視線を返せずに反らしたままだった。

それに気分良くなって歩きだす。

手を引くとそれにつられて渋々と足を進めるのが彼の譲渡。
引かれているから進むしかない、だからだと理由をつける。
ずるいやり方だとは思うけれど、この子の精一杯の歩み寄りだと思うと笑みが毀れる。




鬼の副長と呼ばれるこの子の呼び名は気に入っているけど、
今のこの子には似合わないと思う。
仕事帰りに見つかったのが運の尽きだって諦めてよ、そう言葉にしないで
指に力を込めるとムッとこちらを睨む視線を感じて笑ってしまった。
指が痛い、と小さく呟く声に今までそんなに力込めてねーよ、と笑みを含んで返す。
そう距離が気に入ってわざと肩をぶつからせるとムッとした顔を再び作ったけど
何も言わない。既に呆れてものも言えないという態度で視線を反らす土方に足を進めながら
可愛いなァと思う。




同じ年のころの男に対してそのように思うのは変だろうか。





絡めた指が熱い。





歩きだして数分、街の中ではなかったが、暗い夜道を時折人が歩く様子が
見て取れるようになってきた。
土方はきょろきょろと周りへと頼りなげに視線を向けて此方へと視線を戻した。



「まだ宵の口じゃねーか、離せよ」

「…こんなに暗いんだから誰も見てねーよ」

そうやってきょろきょろしてた方が絶対怪しいぜ?とつ加えながら言葉を封じると
その隙に目的の場所である神社へとたどり着く。

境内を望む階段の前で足を止める自分に土方は境内を見上げて
その暗さに及び腰になった。にぃと笑みを向けてやり、指で境内の方を示す。





「…まさか、この上なんていうのは…」

「そそ、そのまさか。…銀さんのお気に入りの場所な」

「はァアア?“見せたいものがあるから、ついてきて”ってこんな…」


暗くて如何わしい場所なのかと再び階段の上を見上げる。如何わしいって失礼な。
一応由緒正しい?神社なんだけど。

それでも俺すら何の神様が奉られてるのか知らない町の外れで。
石階段の上には大きな鳥居があり、それを見上げながら暗闇に畏怖を感じるのか
固まる土方の肩をぽんと叩いてやる。


「…怖いなら、銀さんが手を繋いでやろうか?」

「こ、怖いわけあるか、ボケェエエ!お前こそ掌が汗ばんでるじゃねーかッ!」

「何をォオ!ぎ、銀さんが怖いわけねーじゃねーかァアア、そんなに言うなら先に
上まで行けた奴が勝ちな!」

上等じゃ、ボケェエエ!と乗る土方のノリの良さに含み笑うも血が上って
恐怖を忘れた土方には気づかれなかった。




そしてほぼ同時に駆けだした。
ブーツで石階段を踏み、革靴で階段を駆けあがる。
横を走る土方のことが視線では追えなくなる。そんな余裕がなくなった。

途中で何度か息が切れるものの、互いに意地を張って階段を踏みしめる。
鳥居の下へと足がかかったのは限りなく同時で、二人して鳥居の下に転がった。


「…はァ、…ハァ、…俺のが一歩早かったな…ァ?」

「…ふ、……ハッ、お前の眼は節穴か?俺のが早かった。…ハァ」

大人げなく走って、競争なんかして疲れたけど心地よい疲労感にしばらく身を置き
再び意地を張り合っていく。

その言葉遊びに様なじゃれあいに、ふはと笑みを溢すと視線を向ける。
滑稽で、大の大人がすることじゃないけれどそれを許す土方との距離感が
好きで、この距離を崩したくないと思ってしまう。




すると土方もこちらをじっと見ていた。それに気づいて視線を合わせると
「じろじろ見てくるんじゃねーよ」と理不尽に怒られた。
見てたのは土方もなのに、と笑いながら告げればお前のばか面を
拝んでやろうかと思っただけだ、と視線を背けようとするので。


「…ッん…ん、…ッ」

身体を起こして顔を背ける土方の顎を掴むと真上から口付けた。
始めはむっと唇を閉じたままだった土方も、ノックするように口付けると
くすぐったいのか薄ら唇を開いた。
ちらりとのぞく舌に誘われるように舌を絡めていけば、互いに深くなる唇の結合に
酔ったように吐息が溢れだす。舌先で舐めまわすように口内の柔らかい部分を
突けばしがみ付く様に手を回されて唾液を奪い取るように舌根を吸う。
咥内で音が響き、それを噛み殺す吐息と共に混ぜ合わせ、たちまち快楽に弱い
土方の双眸に水の膜が張った。




長すぎる口付けに理性を飛ばしかけたその時、背後で大きな音が響いた。
もしくは天で。
土方が自分の身体の内側でその音に驚いて身を震わせる。
それに唇を解いてしまうと、互いの唇が触れ合う至近距離で吐息が絡み合った。
クス、と笑みを溢して、土方の上から退くと土方はまだ呆然としたままだったが、
次第に羞恥に理性が戻ってきたのか唇を抑えて「おまえは突然過ぎる…」と
小さく文句を言った。


だけど恋愛の類なんて突然訪れるものじゃねーかと反論しそうになって止めた。
絶対言い合いになるだろうからと、口を噤めばむっとしたように同じく
押し黙る土方に口端を釣り上げた。




「一人だけ物分かりイイ風を装うんじゃねーよ」

調子が狂う、と告げられた言葉に身体を起こして土方の隣へと座りながら
喉を震わせる。


「土方が往生際悪ィだけだっつーの、…ていうか俺の傍では調子狂うとか…」

そういうこと?と首を傾ければ顔をそらして起き上がる土方の横顔は
赤く染まっており。




その隙に寒空を大輪の花がくっきり焼きついていく。
大きなその花を咲かせ、散って行くように火花が落ちて。それにしばし視線を向ければ、
土方も空を見上げている様子にふと笑みを溢す。




冬に花火なんて道楽さね、そう呟いた花火屋の連れ合いことを思い出した。
そういえば、そんな道楽に花火屋は命を捧げていたんだっけ?
勝手にこっちの気持ちも知らずに打ち上げられた花火が自分勝手に花開く。
見ているものの、どうとでもとれるそんなあけすかない花火に僅かに瞠目する。


「…お前みて―だな」




そう呟く土方に視線を向ければ、先ほどまでの苦虫を噛み潰したような顔から一変させ
こちらを見てにやりと笑った。






その顔に、本当に敵わないなと小さく笑えば、再び土方の体を抱きよせる。
そうして、どちらともなく唇を寄せたのだった。










**







地上で花開いて、いつまでも胸を焦がしていく。
しかし、確かにそこにいて触れられる。




君は凍てつく冬に咲く地上の花。

花火師の話を見ていて、つい季節感ぶっ壊して書いた覚えがあります。
この場合は、銀さんが花火のイメージになっているんですけどね、土方君でもいいかもです。