冷たい手(15禁)│原作銀土。手が冷たい人は、優しいって言うのは本当?

「冷たい手、だなァって思ってよ」
「…、あ?」


暖かくもなく寒くもない万事屋の部屋にて、煙草を吸えばその横でジャンプを読んでいた万事屋にそう言われた。
何のことは聞き返そうにも、いつの間にか煙草を持っていない方の手を取られ握られていた。
男同士で部屋の中で手を繋ぐってな、と眉を潜めつつ万事屋の様子を伺っていたのだが。
視線に気づいたのか、流石に長く握っていたことに気づいたのか視線を此方に寄越した。
自分の手の冷たさなど気づいたこともない。
それもそのはず、両の手を擦り合わせた所で、同じ人間が持つ手なら温度は一定だろう。
何かを強く握っていた手なら別ではあるが。
確かにこの部屋にずっといたであろう万事屋の手は暖かく感じる。
だから自分の手は冷たいのだと認識できる。
先程までは外の警護に当たっていた為、確かに身体の芯まで冷え切っていたが今はもうその冷たさはない。




警護中に、万事屋に声を掛けられた。
「今夜は空いてるの?」と。
いつものように俺は、「何があるかわからねーよ」とだけ言ったのだが。
「そう言いながら、土方君は何時も来てくれるもんね」と呪いを吐いて万事屋面々と立ち去っていった。
勝手な言い分だ、と言いながらいつものように何が起こるか判らない仕事上何故か、その日に限って早く終わったのだった。
連勤をしていた俺には、何か理由をつけて仕事に戻ることも出来なかった。
即ち、仕事が早く終ったんだから早く帰れ、と言われてしまいそのまま隊服でパトカーの外に出されてしまった。


「近藤さん、……俺ァ…」
「ダメ、トシは一緒に戻ったら屯所で仕事しちゃうから、飯ついでに一杯引っ掛けてきなさい」
何処の世界に制服のまま、遊びに送り出す上司がいようか、と思ったほどだった。
目を通さなきゃならない書類もあるし、明後日に迫った作戦の打合せをしたい所だったが、こうなったら大将は鬼より怖い。
頑として聞き入れず、頑固なところは昔と変わらずだ。
万事屋の言葉通りになっていくのが悔しくてならないが振って湧いたような時間に途端に疲れを自覚して肩を竦めた。
遠くなっていくパトカーのテールランプを見送った後、踵を返した。
かぶき町へ行く為に。
この街の利点は、雑多に人を受け入れる姿勢があるため、自分が隊服であろうと身構えない。
小料理屋の亭主は、暖簾を潜った俺に「今日は珍しいでさァね、まだ仕事中ですかい?」とにこやかに声を掛けた。
上着を脱いで椅子にかけると、店のテレビに視線を向ける。其処に表示された時刻はまだ宵の口とも呼べる時間。




「…まだこんなに早いんだな」
「ヘェ。この後、用事でもあるんですかい?」
仕事でどこかに行くんですか?と言いながら付き出しを差し出す亭主に、酒を頼むことが出来なくなった。
仕事ではないどこかへ自分が行くことがどうしても認められなくて、だ。
こういう日は、早く帰って寝てしまうに限る。
そんな風に思って、箸を付け始めるのだった。
小料理屋を出て、足は屯所の方へ向かうのだが、其処には万事屋があるため、其処を通らなければ遠回りになる。
別のルートを選ぶと余計意識しているようで嫌だ、と酒は飲んでないためクリアな頭で考える。
小料理屋の料理が美味しくて早食いの自分にしては時間をかけて食べていたように思う。
時計を見上げれば小一時間ほど経っていた。
凍てつく様な寒さではないが、足先からひんやりとした空気が次第に足を前に前に進めていく。
(あんな事を言いながら、どうせ寝てるに決まってるんだ…)
いい加減な男である事は、ずっと分かっているはずだから、期待はしない。
そう思っているはずなのだ、なのに。
ふと、足を止めて見上げてしまえば、万事屋の看板に凭れかかる様にして通りを眺めている人影があった。


「おう、お帰り。土方君」
「……、万事屋?」
何時から其処にいたんだ、とかどうして其処に?とかそういった言葉は全く出なかった。
この男にそんな当たり前な事は、通用しないからだ、そんな風に思った。
銀髪天パな男はそんな規格外な頭をしながら、その中身はさらに規格外だから。
何もかもお見通しの顔をして、あんなふうに笑う顔がいけ好かなかった。
それから冒頭に至るわけだが。


なんか摘むか?と言えば、食ってきたからいいと伝えるが、缶ビールと佃煮が出てきて目を瞬く。


「言っとくけど、金をせびったりとかはしねーから」
そんな風に言葉が飛び、自分の分の缶ビールを持ってソファに腰掛ける万事屋に、上着を脱いで椅子に座る。
ちょうど万事屋の横にあたるが、それに構わずにソファにも垂れて、缶を持ち上げプルタブを上げる。




「…てか、こんなしみったれた居酒屋で金なんか恵んでやるかよ」
「なにをォオオオ!?」
クク、と低く笑ってやると毒気を抜かれたのか舌打ちをしながら同じようにプルタブを持ち上げて
飲み始める万事屋に肩を竦めた。
それから摘みや乾き物を摘みながら、互いに缶を二缶ほど開けた頃、人の手を握りながら「冷たい」と抜かすのだ。
食べるものも飲むものも程よく双方の腹に納まり、手持ち無沙汰に煙草を吹かしていれば、手を取られた。
「わ、ごつごつしてら」だの「剣ダコ潰れて、またその上に剣ダコできてるぜ」だの言いながら。
それに応えるでもなく、手を引くでもなく好きに触らせていたら、合わされた万事屋の指先は温かく感じて目を細めた。
生きているものの熱が伝わるような気がする、そんな風に思う。
それだけ自分の指先が冷えていることに他ならないのだと自覚させられるのは、こういった他者との触れ合いなのだろう。


「…、ねェ?手が冷たい人は心が温か、だって知ってる?」
「……、しらねー」
「鬼の副長さんは、本当はさァ、人情派で心温かなんだよね」
勝手に決めるな勝手に、そう言いたい気持ちで顔を顰めれば「怖い顔」と大げさに上体を逸らされた。
ってことはお前は心が冷たいのか、なんか嘯けばゆっくりと笑う眸は、笑みを浮かべてなかった。
いつものようにすんなり流されると思ったが、それはされない。
ニィと、…それから浮かべた笑みは、とても性質の良いものではなかった。
心の優しい奴にはわかるもんかねェ、そんな呟きが聞こえた気がした。



















「ふ、ぁ…ッ、…ッ……ッく…ッ」
「声出してイイよ?…今日は誰も帰ってこねーから」
引き摺り下ろされ、ソファと言う狭い個所で男に組み敷かれ、そのまま熱を性急に受け入れる羽目になっていた。
嫌な予感、は、した。
しかし、それでも逃げなかったのは自分の矜持の故か、それとも信頼か。
それこそ性質の良いものではなさそうだ。
ミシリ、とかクチリとか音が脳内で響いたのか室内に響き渡ったのか、その途端凄まじい圧迫感に悲鳴を上げてしまった。





「アァアア…――ッ!」
万事屋の熱が根元まで深く突き上げるように収まったからである。
凶器のようなソレに信じられないほど深く侵され、不安定な体勢だからだろうか転落しそうな恐怖を覚える。
それゆえの悲鳴が自然と喉奥から押し出され、ソファに爪を立ててしまう。
のけぞれば頭が完全に落ちてしまうそんな錯覚に目尻にじわりと透明な雫が浮かんでしまうのを両腕を持ち上げて隠せば。
さらに不安定になったのか、「あぶねーって…」と言いながら強く引き戻されて息が止まりそうになる。


「…ッ…ッ、万事、屋…ッ」
その体勢で再び角度が変わったのか、さらに奥が擦られて懸命に閉じた眸を開いた万事屋を見上げれば。
その眸はいつもとは違っていて、それでいて余裕のないその光に背筋に駆け上がるものがあって
思わず万事屋の着物に爪を立ててしまう。
こうして居るのが何処までいっても自然になってしまうのが怖くて、その現実から目を逸らしていた。
こうして二人でいることが自然となってしまうのが、どうしても恐ろしく感じてしまうことに気づいては、…いた。
(…だっておかしいじゃねーか……)
熱で霞む頭で焼き切れるような烈情を心に秘めたまま、腰を振られれば答えるように身体中に火が付く。
おかしいと分かっていながら、流されてしまうのは俺なのにそれを眼の前の男のせいにしていないか、と。
ぶれた視界が一瞬つながれば、万事屋がにへ、とふざけた笑みを見せて腰をわざとずらす様に揺する。
其れに翻弄されながらも、眉を顰め睨みつけると、クククと楽しそうに笑う。
(…コイツは、どっか人の心を読むようなフリをする、…)
こうなっていることのおかしさに気付きながらも、こいつはそのままにしていた。
その意味は分からぬまま、熱の奔流に流された、それは必然。










意識を取り戻すと、足元に座り一人ビールを飲む万事屋に身体を起こしながら、「俺もよこせ」と言えば
すんなり掌に納められたビール缶に眉を顰める。





「お前ね、ビール飲む時ぐらいは眉間に皺やめたらァ?」
「勝手だろーが」
寝てる時も暫く眉間に皺寄せてんだもん、とケケケと楽しそうに笑う万事屋に息を盛大に吐き出す。
そんな万事屋にやられっぱなしでは癪だと手を伸ばせば、ビールを飲んでいた腕を俺に取られ目を丸くする万事屋。


「なになに、足りねェの?」
「違ェ、…ただテメーの手は暖かいなと思っただけだ」
そんな言葉に、万事屋は僅かに目を見張り、それから口端を静かにつり上げる。




「掌の温かい人はァ、…それはね?……」








そうして囁かれた言葉に、眉を顰める。


嘘吐きな、残酷な男は、優しい振りをしながら冷たい男で、冷たく突き放して両手で抱き締めようとする。
どっちがテメーなんだっつーの、そんな呟きも無視してその男は、再び熱を取り出してにやにやと笑う。





まだ、この手には何も掴めていないようだ。

この冷たい手には。

冷たい手の人は心があったかい、というイメージなんですけどね。
案外優しい鬼だなァ、と土方君のイメージから書いてみたんですが、季節感ないですね;;